人狼と少女 もう一つの物語 日本編
エストニアの惨劇の少し前に二人目の人狼の巫女が生まれた。巫女が母に成長を
遂げる劇的な物語。
1904年9月24日(明治37年)中央アジア・モンゴル
日露戦争の最中の1904年9月に全線開通したシベリア鉄道の記念にと旅行に
招待された。阿部は満州で事業をしており、シベリア鉄道の建設に出資していた。
その出資の見返りだった。これが、安部平蔵とトミの新婚旅行だった。
1916年9月24日(大正5年)中央アジア・モンゴル
モンゴル民族の研究で、阿部平蔵がモンゴルの村を訪れた。妻と息子二人も
同伴していた、長男の名前が幸夫。そして二男が勇という。
阿部は根っからの民俗学が好きであって、暇さえあれば地の利を活かして旅行
をしていた。1917年からシベリア鉄道の修理を行うから計画の前倒しとした。
そんな阿部一家がロシアではなく、モンゴルの村を訪ねる事とした。目的地は
とにかく移動の為の道路が無ければならない。それに宿泊できる大き目の都市の
近く”ということも重要だ。
男一人なら問題ない野宿も、女子供が居てはできなかった。必然的にモンゴル
のウランバートルに向かう道路のあるロシアの都市に決めた。
その都市は、ウラウンデだ。ここはシベリア鉄道の駅もあり、南のウランバー
トルに向かう大きな道路がある。ウランバートルを旅行のベースに決めて、ここ
からトラックで近くの村に行く事にした。このウランバートルから東に走る道路
があり、その先には、ウンドゥルハーンという村が在る。
唯一地名に、ハーン、という語尾?が付いているのだ。ハーンはあのジンギス・
カン別名、ジンギス・ハーンともいう。君主のハーンに通じるものか?と考えた。
バイカル湖の方面から南下して、モンゴル高原の北東部にその居住を定めた遊牧民
の末裔が存在するか?のような地名だからだ。
ウランバートルから東に120k行った所にその村は在る。120k程度ならウラン
バートルから往復も出来よう。ここを調査地に定めた。
朝早くホテルを出発した4人だった。
「ねえあなた、まだ着かないの?oooが痛くて堪りません。」
「すまないね~、もう直ぐだよ。」
「もう何回も、直ぐだよ、と言うのね。」
「そう言うな。何回も尋ねるから何回も言うんだろう?」
「そういう性格だったわね。荷台の幸夫と勇、大丈夫かしら?」
「では、車を止めますか! 少し休もうな。」
「ならば、早く止めて頂戴!」
平蔵はトラックを止めて、息子に尋ねた。
「二人とも退屈してはいないかい?」
「うん、僕たちは景色が面白いから退屈してないよ。」
ウンドゥルハーンには、3時間あまりで到着した。トミは息子の二人に頼んで
毛布を拡げさせて速攻で休憩に入った。道路横の叢に毛布が広がるや、
はしたなく寝っ転んだトミだった。
悠久の大地モンゴル。視界を遮るものがない広大な草原。たくさんの雲が流れ
鶴の群れが飛んで行く。空気は何処まででも透き通り、満州の煙突の煙から解放
された感じがするトミだった。
夫の阿部平蔵は、双眼鏡で見える筈も無いモンゴルの村のテントを探していた。
「お父さん、どう? 村は見えるの。」
「そうだな、何にも見えないね。あの丘の先には森が在るようだ。あの近くを
探してみようか。」
裸眼では、緑の大地と森の緑がかろうじて色の違いで判別できた。
「あそこだね!なんだか川が在るのかな。緑色が強いみたい。」
幸夫は目がいいのか見分けがつくようだった。阿部夫人はこっそりと一人で
お茶を飲んでいる。茶菓子も持参していて一人で嬉しそうだ。
「さ、もういいかい。出発するよ。」
「はい、旦那さま。お尻柔らかにお願いね!」
「お母さん、荷台で寝てればいいよ。痛くはないから。」
「でも身体中が痛くなりそうで嫌だわ。」
「それもそうだね。」
幸夫はトラックの助手席に乗りたくて堪らなかったのだが・・・・。
30分位で村が見えてきた。平蔵は村には向かわずに森の方へ進む。
そこには一張りのテントがあった。少し先には2つ、3つとテントが見えた。
「何処にしようかな。住人が十人は居ないとね。」
「あそこに女の人かな、立ってるよ。行ってみれば。」
「そうするか。あそこで尋ねようか。」
住人を驚かす訳にはいかないので、テントから200mほど離れた所に
車を止めて歩いた。
「やあお嬢さん。お父さんかお爺ちゃんは居ませんか?」
「なにさ、あんた達は。お爺ちゃんなら居るよ」
「そう、ありがとう。お爺ちゃんにお話を訊きたいのさ。頼んでくれるかな」
「うん、待ってて!」
女の子はテントに入って行った。暫くして、80歳くらいだろうか老人が
出てくる。
「おやおや。もしかして、日本人かえ?」
「ええ、そうです。実はモンゴルの人々の昔の暮らしの様子を、訊きたいと
思いまして訪ねて来たのです。」
「ホロ!家を少し片づけてくれないか。爺の荷物が出しっぱなしになっていて
な、少し見苦しいのだよ。」
「うん、分かった。」
「すみません、ありがとうございます。」
老人はモンゴルのどのような事を聞きたいのかと尋ねた。
「そうですね、お爺さんの小さい時のですね、人の暮らしぶりとか、
それと村の決まり?と言うのでしょうか、掟などがありましたら
是非ともお聞かせください。」
暫くして女の子がテントから出て来た。
「お前たちは退屈だろうから、外で遊んでなさい。」
「うん、そうするね。」
危害を加える意志が無い事を示唆するために、筆記具以外は外に置いて行く。
阿部夫妻は老人の案内でテントに入った。
「わー初めて入りました。お邪魔させて頂きます。」
「え、え。どうぞお入りください。」
それから小一時間は話し込んだか。二男の勇がテントに入って来た。
「お父さん、お母さん。お兄ちゃんが居なくなった。何処を探しても
居ないんだ。どうしよう。」
「いやいや、こんな広い所でかい?」
「ねえ、あなた。探しましょうよ。」
「お爺さん、今日はありがとうございました。」
「これで御暇いたします。」
「ああ、気をつけて帰りなされ。」
「はい、失礼します。」
両親はテントを出て一通り辺りを見渡したが、確かに幸夫の姿は無かった。
「あ、ちょっと待て勇。あの女の子に訊いてみようか。」
「なあ、勇。テントの前にいた女の子は知らないかい。」
「それがね、最初は一緒に居たんだけれどもね、暫くしたら二人とも居ないん
だよ。」
「そうか。じゃあ父さんは車に行って双眼鏡を取ってくる。勇は付近を探し
てくれ。」
「うん、川の方を見て来る。」
「トミは、村の方に行って探してくれないか。」
「ええそうするわ。幸ちゃんは何処に行ったのかしらね。」
「幸夫~。」
「幸ちゃ~ん。」
「お兄ちゃ~ん。」
三人で日暮れまで探したが見つからなかった。テントの両親が放牧から
帰って来たので、事情を話して探してもらった。
13才位の女の子が居たと説明したが、
「いいや、家に娘は居ないよ。向こうにテントがあるだろう?あそこには
居るには居たが、3年前から行方不明さ。」
この家に娘は居ないという。不思議だ。
阿部一家は、幸夫を探しに再度訪れたが見つからなかった。不思議な事が
もう一つあった。話を聞いた老人も居ない!というのだ。昨日お様子を具に
話しても埒はあかなかった。
断腸の想いで幸夫を諦めたのだ。その後の数年は旅行には行かなかった。
1927年8月24日(昭和2年)北欧のエストニア地方
1916年9月24日(大正5年)のあの日から11年過ぎた1927年8月24日に
阿部の一家は北欧の旅行に来た。勇は北海道大学を卒業してそのまま北海道
大学に就職した。助教授になったのである。今年で25歳になる。ちょうど
結婚したので新婚旅行も兼ねた家族旅行になった。阿部教授の友人の三浦教授
も同行していた。
この日に大きな事件が起きる。北欧のエストニアの地。それは、
バァーン、バァーン、花火の大輪が次々と開く。
「わ~綺麗ですねお母様、私初めて花火を見ました。」
「私たちは日本で見ているからそうでもないわ。でもホント久しぶり!」
「あの子にも見せて上げたいわ・・・。」
「11年前に行方不明になられたご長男の幸夫さまですね。」
勇の嫁は、サワ、という。満州生まれのお嬢様だ。日本に行った事が無い。
「ねぇあなた、どこを見ているのかしら?」
夫の平蔵は、花火の少し右を見上げていて話かけても返事が無い。
「空に何か見えるんだ。」
そう言って指を指す。そこにはうっすらであるが、飛行機が数機と大きな
飛行船が見えていた。このままではぶつかる!と言い終わった直後、飛行機が
爆撃を開始した。ここは小さな開拓村だから爆撃の意図が解らない。
バァーン、バァーン、花火の音と共に、ヒューン、ヒューン、ドーン、ドドーン
空爆の轟音が響く。飛行船が炎上しだした。
「みんなー、逃げろー。」
誰かが叫び、村人は我先に逃げる。空からは閃光を発した飛行船が落ちてきた。
巨大な飛行船だから逃げる暇も場所も無かった。轟音とともに飛行船は爆発炎上
したし、沢山の村人を巻き込んで再度爆発した。もう地獄絵図である。さらに
空襲は続く。
ヒューン、ヒューン、ドーン、ドドーン。ヒューン、ヒューン、ドーン、ドドーン
数分で静まり返り飛行船は痕跡もなく消失していた。ただただ村人の呻き声が、
助けを叫ぶ声が響く。
阿部教授と三浦教授は、村祭りの屋台でお酒を飲んでいたので事故には巻き込ま
れなかった。阿部教授の両親と新婚の奥様の三人を、同時に亡くしてしまった。
とても痛ましい事故だった。
しかし、この事故の痕跡が消える?という不可思議な事象が起きた。
それは、
バルト海東岸から少し奥にある小さな開拓村で、激しい空襲とその後に軍用
飛行船が墜落した。この時の不思議な超常現象で、村人も含め大多数の人が亡
くなった。
収穫祭の花火の最中に空襲があり、大型飛行船が突如として現れ、逃げる
暇もなく落ちてきたという。二人は急いで駆け付けたが、阿部教授のご両親と
奥様は、一目で絶望と判断できる程悲惨な火事に襲われて逃げられなかった。
この時に飛行船の船体から3個の気密式の脱出用の丸い艦が押し出され、
内1個転がり来た。止まればすぐにハッチが解放されるようになっていた
のだろう、中から大きな男と赤子を抱えた女の二人が出てきていたようだ。
他にも人が倒れている。丸い艦の中にはもう一人将校らしい軍服を着た男が
横たわっていた。
阿部教授はただ茫然として、家族の名前を何度も叫んだそうだ。
家族の名前?この時赤子を抱えた女の人が阿部教授に走ってきて赤子を預けた。
それは家族の名前を聞いたからである。
三浦教授は男の風貌に驚き大きな関心をよせていた。背後が大きな炎では
よく見えない。男は身長が2.2m位で大きな耳と尾があり、オオカミの様な
顔つきであった。両腕には人を抱きかかえていた。髪が長いので女性のようだ。
女は母親であった。阿部教授にどうか守ってくださいと女児を託した。
そして、三浦教授には何かを話しながら、青色の宝飾の銀のロザリオを
三浦教授に渡した。三浦教授に話しかけたのはそれなりの理由があった。
ロザリオは今でも三浦教授が持っている。
女は普通の農婦と変わりがなくて、女児は数日前に産まれたようで皮膚は
とてもガサガサとしていた。
不思議なことはまだあった。何も無い空からの空襲と一緒に現れた飛行船も
そうだが、ものの数分で燃え盛る飛行船も男女らも消えてしまった。ただただ、
大きな火災があった”という現場を残して。
託された子供の名前は キリ という。日本の戸籍では、霧。
三浦教授は村人の生存者救出に全力を傾けていた。何かを尋ねていたようだ。
1937年(昭和12年)7月15日 北海道・札幌市
それから10年が過ぎた北海道大学のキャンパスでは。桜子と麻美が、
「麻美~、おはよー。今日も早くから頑張ってますねー。」
「おはよう、桜子。いつも4時に来ているわよ。」
「この麻美さまに、ストリート横の除草をさせるんだから、たまんない。」
「いいじゃない、除草は山羊がするんだもの。あ、山羊が向こうに行くわよ
早く戻さなきゃ。」
「この馬、小さくて可愛い!」
「それ、ロバだからね。」
「仔馬じゃないの?」
「桜子、お願いがあるんだけど、叶えてくれる?」
「何よ、損な事はいやよ。」
「今回のお願いは、損することはないわよ。ちょっとあの先生に尋ねてもらいたい
だけだからさ。」
「あの教授でしょう?見返りを要求されるから、やっぱり損だよ。」
「そうなんだ。いやいや!でも大切な事だからさ!頼むよ、ね?」
「・・・・・・」
「今日、男爵いもとか持って行くからさ~、ね?」
放課後、麻美が訊け訊けとうるさいから、麻美の目の前で教授に尋ねる
ことにした。
「阿部教授、また遠征に行かれるんですね。」
そう言って私は声をかけた。教授は毎回の休暇を利用して海外へ民俗学の調査
に出かける。
「あ、さくらちゃんもか。」
「子供ではありませんわ、ちゃん付けは止めてください。」
「あ~そうでした、すまん・すまん。」
一応謝りはするが、大学の人が居ない自宅では名前すら呼んでもらえない
いきな要件だ。
「だが、今回は両親の墓参りだ、直ぐに帰ってくる予定だよ。」
阿部教授は、32才・花の独身。と入学当初はそう思っていた。しかし教授は
10年前、一度にご両親と奥様を亡くされてある。その命日が近いのだ。
「霧ちゃんのご両親の命日でもありますしね。」
「いや、今度の旅行には杉田君と3人で行く予定だよ。あれは頼りにできるし。」
麻美の開口一番が、
「先生、ずる~い。杉田先輩ばかり贔屓にして。桜子には贔屓はしなくてよい
ですから麻美にだけ、贔屓にして下さいな。」
「いやいや、さくらちゃんには贔屓にしないといけないのだよ。」
桜子がしゃしゃり出て、
「誰が教授の世話をするんですか?私以外の女性を同伴させたりはしませんよね?
まさか10才の霧ちゃんに教授の世話させたりしませんよねぇ?」
麻美は、
「私も連れて行ってください、のけ者は嫌です。」
桜子は、
「で、麻美も同行してよろしんですよね。」
阿部教授は嘘がつけないのだ。ついつい話してしまった。
「サークルの顧問の三浦くんと、石川くんも来る予定だよ。」
阿部教授は旅費の確保に、家宝の幸福の壺を3個を売却していた。玄関の
傘立ても無くなっていたのだった。
三浦教授も旅費の工面は数か月前から考えていたという。
「俺も旅費の算段はしているよ。石川くんを助手にしてさ、シベリアの紀行文
を本にして売り出すのさ。その本の原稿料の前払いを貰う手筈さ。」
「学長も出資してくれるとさ。なあ、麻美くん。」
「麻美!それは何なの?私は知らないわ、教えなさい!」
「うんとね、三浦教授がシベリアへ人狼の調査で行った事があってね。」
「それは過大な盛り話しとして知ってるわ。」
「そこで出会った黒い大きな馬を捕まえに行くのだって。」
「大きな黒い馬?ですの。」
「あ、そうだった。私の父も行くのだわ。」
「野生の馬が捕まるの?」
「そうね、無理だと思うよ。第一馬は頭が良いもの。」
麻美や桜子は適当なことを言う。
阿部教授は、
「しょうがないね~。明日の放課後に部室で旅行の日程と調査項目を
報告するよ。各自は自分の調査したい事を決めて来るんだよ。」
翌日の7月16日、オカルト研究の通称、オカ研の部室に全員が集まる。
「出立日は8月1日で、これは決定だ。準備を疎かにするなよ。」
「は~い!」
日程は決まった。
「三浦教授は、その、なんだ。先に出て馬を捕まえてから合流の予定だ。
だから日程が少し狂うかもしれんが、各自は自由研究を行ってくれ。
これは学業の単位として扱う!と、学長が命令を下している。」
「ああ、それと民俗学の実地研修扱いで、学長さまが旅費を出して下さる
そうだ。みんな!頑張れよ。」
「は~い!」
これでオカ研の実地研修の項目が決まれば、後は持って行く物の段取り
になる。夏休みなっても連日出校して項目の討議が行われた。
1927年8月24日(昭和2年)北海道・札幌
エストニアからは必死の思いで帰って来た。三浦教授と安部教授。それに、
乳飲み子のキリという、とある女性から託された女児を合わせて三人で帰国
した。途中で満州の父の会社に寄り、安部教授は両親の死亡を伝えた。
安部教授は、両親の葬儀、死亡届けや遺産の相続等の手続きで、約1か月
三浦教授よりも遅くに帰国する。その間の養女の霧の面倒は三浦教授に頼んだ。
三浦教授はいきなり乳飲み子を連れて帰宅したから、約1週間は修羅場になった
そうだ。
「なによ、あんたはどこか、外の女のこさえた子供を引き取るつもりなの?
あ~、そうなの。出て行け~~~~~----~!」
三浦教授は、遅れた授業を挽回する必要もあり、合わせて北大に宿泊する羽目
になった。霧の育児は学長に頼み込み、事務員の女史にお願いした。女史はもう
少しで大きな勘違いをするところだったらしい。
「三浦教授は、奥様と別れて私に求婚するつもりだわ!どうしよう・・・・・。」
1週間後に、安部教授は三浦教授の自宅に電話を掛けたから、三浦教授の
無実が判明した。
安部教授は三浦教授の自宅に電話を掛けた。三浦教授は留守だった。
「安部です。三浦くんにはお世話をお願いしています。大変助かっています。
特に奥様には、赤子の世話で大変・・・。」
「あら?安部教授。ちっとも大変ではありませんわよ。霧ちゃんは大丈夫です
よ。しっかり面倒はうちの ピー が見ておりますもの。オホホホーーー。」
*)ピーは放送禁止用語ではありません。
「ありがとうございます。あと2週間くらいで戻れると思います。」
三浦教授の冤罪は晴れた。
「まぁ~可愛い赤ちゃんだこと。飛行船が落としたって?向こうにはコウノトリ
もいるんですね~」
さて、一番の問題が安部教授だが。乳飲み子の霧をどうやって11年も育てる
ことが出来たであろうか。この部分にはとてもとても?さわりたくない。
UPするまでに考えることが出来ましたら?いいのですが・・・。
無くなられて奥様の実家?は満州です。不可。お母様の実家が一番可能性が
高いようです。桜子は他人の扱いで、人狼と少女は書きました。
霧は歩き出すのが早かった。1歳になる前から他の赤子よりも早く上手に
歩いた。小学生の時には誰よりも速く走った。頭脳も明晰で教授ですら驚く
ほどである。感受性が人一倍強くて、人間の観察が好きなようだった。
これは、父の安部教授譲りとも思える。
(小学校が尋常小学校(年限:4年)と高等小学校(年限:2年)の2段階)
尋常小学校の1年生の入学から、お団子頭でいじめられてかなりしょげていた。
1年生の中盤からは、誰にでも好かれるタイプになった。
2年生になると、上級生に敵が多数現れる。上級生を悉く玉砕するから、上級生
からは永遠に嫌われる。同級生・下級生には大変慕われている。いじめの
上級生をいじめる?正義のヒロインだった。
3年生になると、自分独りとその他大勢?という頭脳の持ち主になる。テストは
点数を計算して解答するようになった。この時期から少しズルくなりだした。
夏休みから教授の教え子の、桜子がメイド兼下宿で同居するようになる。
4年生では。天下無敵となる。この頃から北大の父の研究室に行くようになる。
たびたびの父の呼び出しで迷惑をかける意識が芽生えて、はねっかえりを
おのずと自制するようになった。
が、夏休みからは、安部教授らと北欧へ両親の墓参りに行くのだ。
1936年4月21日(昭和11年)北海道・札幌
物語は、霧が小学3年生になった頃から始まる。
父の勇は、北大の教授をしている。専攻はドイツ語と民俗学。民俗学は父の
平蔵の影響を受けたからである。
「霧! 居るなら出ておいで。霧、霧。」
「はーい、お父様。なぁに?」
「さくらちゃん。入ってくれ。娘を紹介する。」
「教授、お邪魔いたします。」
「娘の霧だ。まだ9歳だと思う。正確な誕生日は不明だが、8月21日に誕生し
たんだろうと、思っている。」
「霧ちゃん。こんにちは。私は桜子、さくらこです。よろしくね。」
「お姉ちゃんは、だあれ?」
霧は父の後ろに隠れてしまい、顔だけを見せている。人見知りでは無いはずと
父の教授からは聞いていた。
「はぁい、お姉ちゃんはここに下宿する、お父さんの学生さんなの。分かる?」
「うん、分かる。でも、お姉ちゃんは、だあれ?」
霧は、お姉ちゃんは、だあれ? と、繰り返している。教授はもちろん桜子にも
その意味が全く解らなかった。
「うん~、お姉ちゃんは、・・・・・・メイドさんだよ。」
「メイドさん? お手伝いさんとは違う。お姉ちゃんは、だあれ?」
桜子は満面の笑顔を作って、可愛い声で言ったのだが、霧は同じ質問を繰り
返した。
「さくらちゃん。もういいよ。」
教授は霧に向かって、
「なぁあ、霧。お母さんの代りだよ?分かるかな?」
「ううん、お母さんは死んでしまっているから、居ないよ。お姉ちゃんは、
だあれ?」
「あれ~、お姉ちゃんは困っちゃったな~。どう言えばいいかな~」
「バ~カ!」
霧は奥へ走って行った。
「はは、何か癇に障ったかな? 少し変だな。」
「教授、霧ちゃんは時期に懐きますよ。私の第六感がそう申しています。」
「はいはい、是非ともお願いします。先にさくらちゃんの部屋に案内するね。
二階のとても広い部屋ですよ。あ、霧の真正面になるな。」
「とても広い部屋でいいんですか?」
「さ、上がって。きっと驚くから」
「はい、ありがとうございます。」
桜子は階段を小気味好く上って行った。霧は自分の部屋のドア越しに桜子を
見ていた。桜子は隣の部屋だから、よろしくね!と、言葉をかける。
霧は何も言わずに部屋のドアを閉めてしまう。
「もう、根性比べする必要ありでしょうか。教授、どうですか?」
「それはいい。しかし、負けるのはさくらちゃんだからね!」
「ほえ~~。」
桜子は拍子抜けの奇声を発した。
「さ、ここだよ。この部屋はね、妻の部屋になる予定だったんだ。」
「まぁ!うれしい。私は奥様待遇ですの?」
「ま、そうだね。新しい奥様!これからよろしく。」
「はい、旦那様!」
がしゃ~~~ん!
霧の部屋から物がぶつかる大きな音がした。教授はびっくりして桜子の部屋を
飛び出そうとした。
「あ!教授。大丈夫ですよ。これは霧ちゃんの挨拶ですわ。」
教授は心配そうにして桜子に尋ねる。
「本当でしょうか。このような事は今まで無かったものですから。」
教授は少しオロオロしている。桜子は女だから、心の中では、
「女の戦いの合図だわ、戦争よ!負けないわ!」
桜子は下宿先をとある事情で引き払って、ここ教授のお手伝いさん兼下宿に
と、来たのだった。この教授の募集を聞いたのが、そもそもの間違いだった。
「安部教授がメイドさんを募集したい、と言っていました。」
安部教授ととても仲がいい、とある先輩がそう言うので直談判して押し掛けた
のだ。(三浦教授と先輩の裏取引がありました。)
桜子は、階段の下まで来て、
「霧ちゃ~ん。教授~。ご飯の用意が出来ました~。」
直ぐに安部教授は自室から出て来るも、霧は出てこなかった。
「やっぱりだわ。もう戦闘は始まったのね。負けないわ。戦争だわ!」
「教授。すみません。お腹が空いているでしょうが、しばらくお待ちください。」
「ははは。いいよ。いつまででも待つから、しっかりとお願いするよ。」
「はい、引きずってきます事を、お許しください。」
桜子はエプロンのままで二階の霧の部屋へ行く。
コンコン。部屋をノックするも、当然返事は無い。
「ま、こんなもんでしょう。」
桜子はそう思って腹いっぱいに空気を吸って、
「こら~、霧!出て来い。晩飯だぞ~、出て来~~~い!」
ぎゃしゃ~ん。
「おうおう、とてもいい返事だ。さくらは怒ったぞ~。突撃開始~」
「ぱっぱぱかぱっぱぱかぱかぱ~」
の? バターン。
桜子は勢いよく霧の部屋のドアを開けた。そこには小さい霧が立っていた。
ぎゅーん、びゅーん。
人形や絵本が飛んで来た。
「キャー、はは、もうお姉ちゃんの負け!お姉ちゃんは霧ちゃんに負けたわ!
もう降参するわ~」
「なによ、うそ言わないで。降参なんてするはずはなーーーーい。」
霧は大声で応戦した。桜子は構わずに霧に突進して、足蹴りを受けながらも
霧を捕まえた。
「霧ちゃん、捕ま~~えた。もう離さないからね。ご飯を食べに行こうね。」
「うん、お母さんなの?」
「違うよ!さくらはね、霧ちゃんのお友達よ!お友達は欲しくはないのかな?」
「ううん。いっぱい欲しい。だって、だって、霧はいつも独りだもの。」
「そっか、霧ちゃんは独りなんだ。これからは、お姉ちゃんが友達だからね!」
霧は桜子に抱きつかれた瞬間に、無き母の面影を感じたのだった。
ただ向かいあっただけでは理解出来ない何かは、母への感情だった。幼い霧は
母のぬくもりを知らずに育った。同性である女としての感情も爆発したのかも
知れなかった。
霧は少しだけ涙を見せた。だが、桜子は流れるほどの涙を、霧に見せたの
だった。
「お姉ちゃん、泣いているの?」
「そうだよ、霧ちゃんがお姉ちゃんを好きになってくれたんだもの。とても
うれしいわ。今日はお赤飯なのよ。」
「どうして?」
「もう忘れたのかな~~~~。今日は霧ちゃんのお誕生日よ!」
「うん、霧は、霧は、今日生まれたの?」
「霧!お誕生日、おめでとう~。」
父の勇もお祝いの言葉で出迎えた。
今日を境にして霧はたくましく、明るく育っていく。短い一生を終えるまで。
「で、さくらちゃん。霧の戸籍は、1927年8月20日だけれども、いいの?」
「はい、今日は新生の霧ちゃんの誕生日ですよ。お父さん。」
1万文字程度を1章ずつで投稿いたします。




