とんだやつに捕まった。
…って、誰だよ?! 今なんか声したぞ。
「こんにちは。お若い侵入者の方」
女…の声か。恐る恐る後ろを振り返ると、いた。幼稚園児みたいな格好したちょっと可愛いガキが。髪を長く伸ばして、口もとには笑みを浮かべている。
「お、おい。ここは暗くて危ないぞ。帰った方がいいぞ」
「帰るも何も、ここは私のうちですもの」
あどけない顔から出る言葉は、まぎれもない大人の口調。しかも目は笑ってねえ…。
「何なんだよ、おま…いやあんた」
「だから言ったでしょ、ここの住人ですよ」
「まじかよ」
「帰れって言葉は本来ならこっちが言うべきなんだけど、あんたはどうやら…」
ガキは品定めするみたいに俺の目を覗き込んで来やがった。
「いいお客様らしいね。山城遥君」
何の話だよ。しかも俺の名前知ってるし。ああ、何なんだこいつ。まじで気味悪い。こんな奴がいたなんて、証言してた奴いたか?
「証言者なんていないよ。普段は、めったに姿を現さないから」
…俺の心を読んだのか?!
「最近ここに来たのはね、『新しいゲーム欲しい』だとか『告白する勇気をください』だとか、そういった願いを持って来た人たち。よくあるタイプで、私は基本そんな人間の前に姿は見せないのさ。…特に後者は」
「あんたが、願い事を聞くのか?」
「さあね。私の大好物は、ちょっかいかけることでね」
そんで、クックックなんて笑いやがった。…こいつは絶対、見かけ通りの幼稚園児じゃない。
「今更か?」
「…そんなことより、あんた俺にちょっかいかけたいのか?」
「て言うか、あんたに面白いものを見せてやりたくてね」
「いらねーよ。てか、さっさと願い事させてくれ」
「逆らうのか?」
幼稚園児の目がギランと光った。口元からは僅かに牙がのぞいている。やば…。
「わかった。さっさと見せろ」
「聞き分けがいいな」
幼稚園児は右手の人差し指をクルンと回した。そしたら…目の前にいきなり(ほんとにいきなり)でっかい岩が現れた。
「ひゃー」
「 この岩のてっぺんまで登って、そこに空いた穴を覗き込んで」
わけがわからないが、言う通りにするしかない。俺は、さっきの「ギラン」が未だに頭から離れない。
てっぺんまで登ってみると、なるほど、穴が開いている。俺は目を押し当てた。
「舞鳥?」
穴の中には夜道を歩いている舞鳥の姿が映っていたのだ。




