またあそこに行くのかよ。
「おはよう、山城君!」
涼子さんの寝室から港が出て来たから、一瞬びっくりした。
「あ、ああ」
「まだ寝ぼけてんの?」
「なわけねえだろ」
「早く着替えてね〜。先に朝ご飯、いただいちゃうよ〜。台所で涼子さんが待ってるよ」
「今日は土曜日だぜ。急がなくてもいいじゃんか」
「それが急ぐのよ。わけは後で話すから、とにかく急いで!」
急にあいつの口調がせかせかしたものに変わった。ま、とりあえず急ぐか。
昨日、家に帰った時、親父は俺を責めなかった。涼子さんも、おどおどした感じはしなかった。だから、夕飯の時も全然気まずい雰囲気じゃなかった。港が主に話を振り、俺たち三人が膨らませる。なんか温かかった。今から考えれば、俺相当ひどいこと言ってたな。でも、責められなかったのは、正味ありがたい。港が何かとりなしてくれたのかもしれない。
朝飯の後。俺の勉強部屋であいつは「わけ」を話した。
「はあ?! またあのトンネル行くんかよ」
「ええ」
いや、意味ねえだろ。
「そんなことより、ゲームしてえな」
「お願いよお。ちょっと気になることがあったんだよ」
気になること? まだ解けてない謎があんのか? まさか、パシなんちゃらみたいな奴について知りたいのか?
「なんだよ」
「あのさ、君が聞いた話だと『トンネルをくぐれば何でも願い事が叶う』んだよね」
「そうだけど?」
「それっておかしくない? だって山城君はトンネルの途中でパジリスクと会ったんでしょ。で、願いを叶えてもらったって思ってたんだよね」
「まあな。悪夢だったけど」
「山城君は『くぐって』ないじゃん。要するに、通り抜けてないってことよね」
「何が言いたい?」
「山城君はトンネルの途中まで行っただけ。くぐってないから願いは叶ってないってことだよ」
「!」
言われてみれば、確かにその通りだ。じゃあ、あの幼稚園児野郎はトンネルの噂とは何の関係もないってことか!
「だからさ、これから二人でトンネルをくぐり抜けて噂の真偽を確かめてみない?」
そういうことなら、大賛成だ。
俺たちは素早く身支度を済ませ、玄関に向かった。涼子さんと親父が今から顔を出す。
「遥に海輝君。お出かけかな」
「まあな」
「気をつけてくださいね」
「はい。昨日から、お世話になりました」
昨日の晩は例のカレーで、今日の朝飯は涼子さんが作ってくれた。洗濯物も涼子さんがやってくれた。つまり、俺は家事から解放されたんだ! ああ、自由って素晴らしい!
だけど、涼子さんじゃあまだ物足りない点はある。料理の上手さ、洗濯物の干し方。時々は俺が指導するべきなんだろうな。まあ、なるべく丁寧に教えてやるか。
家を出て、港と二人で森の廃トンネルに向かった。
着いてみると、朝方だというのにやっぱりトンネルの暗い雰囲気は変わらない。ま、しょうがないか。ここはそういう場所なんだからな。俺たち二人はトンネルに足を踏み入れた。




