公式って何だ。
サクサクサク。トンネルを歩く音だけが聞こえる。やっぱりここは暗くて静かな場所だ。
一回目にここに来た時は、若干ビビってたけど、今はなぜか怖くない。
「ねえ、山城君」
隣を歩いている港が話しかけて来た。
「山城君の願い事って何だったの」
うーん、何だったけ?
「それが、思い出せねえんだよ。なんか、もともとそんなはっきりしたものじゃなかったからなあ」
「漠然とした願い事?」
「まあ、そうだな」
「山城君が抱えてたモヤモヤと関係あるの?」
「ひゃー、ちょっとその話やめろよ」
俺は、昨日このトンネルで自分が抱えていたものをこいつにぶちまけられたんだ。あの時のことは、今から考えても恥ずかしい限りだ。
「それに、今はあんな願いよりもっと悩んでることがあんだよ」
「なに?」
「明後日からの学校のことだ」
俺は昨日、舞鳥ともう一度やり直すことに決めた。だけど、具体的には何をしていいのか分からない。
「お前、俺が悪口言ってたことバラしちまったんだろ」
「そ、そのことなら大丈夫。男子って忘れっぽいから。それに舞鳥君は男気があるし」
本当かよ。声震えてるぞ。
「だったらいいんだけどな。それに、できれば金村と長野も…」
「いいじゃん。やり直しなよ」
「だけど、やり方がなあ。それにあいつら、俺のこと嫌ってるみたいだし。話しかけても無愛想な返事しか返ってこないんだよ」
「それは多分、嫌ってるんじゃないと思う」
え…。
「じゃあ、なんで?!」
「多分、山城君とそんなに付き合いがないからでしょ」
はああああ〜。
「それだけかよ!」
「うん。で、無関心になってるだけだと思う。だから、一緒に帰るとか、付き合いを増やせばいいと思う」
俺は脱力していくのを感じた。言われてみればそうかもしれない。てか、こいつよくこんなこと分かるな、女子なのに。
「どこで知ったんだよ」
「公式作ったの」
「公式?!」
「うん、女子の世界の魔物は『集団』。…分かるでしょ?」
そういや、この前の花瓶の事件でそういうの感じたような…。
「で、男子の世界の魔物は『付き合い』。別にグループとかはないけどさ、付き合い悪いって認定されたら、かなりめんどくさそう」
ふーん。
「お前、すごいな」
「まあ、こんなことできるのは、一人でいる時間が多いからだけど」
若干寂しそうな声だった。え、じゃあまさかひょっとして今も辛いのか?
そう聞こうとしたら、いきなり港は正面を指差して言った。
「ところで、出口が近いみたいよ」
「え?」
トンネルの奥を見つめる。確かにわずかな光が見えている。
「あ、本当だ」
「もうそんなに歩いたのね」
「よーし、走るぞ〜!」
「ああ、待って〜!」
俺たちは走った。明るい未来の方向に向かって。




