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トンネルの先には  作者: 椎名れう
19/30

なぜかもう、限界だった。

俺と親父の目が合った。次の瞬間、親父は俺の手元を凝視した。

「…んだよ」

「…」

親父は何も言わずに居間に向かって叫んだ。

「涼子! 涼子!」

叫ぶなよ。耳が潰れる。

「涼子、早く来い!」

間も無く、あたふたと涼子さんが駆け出してきた。今だけ涼子さんが気の毒だ。

「あ、あの…何か?」

「…これは、遥が作ったものか」

「え?」

「これは、遥が作ったものかと聞いとるんだ!!」

親父がテーブルをバシンと叩いた。てか、何切れてんだよ。

「ええ、途中までは私が作ってたんですけど…」

「そこから先は遥に作らせたんだな!」

作らせた?

「どのくらいから作らせたんだ!」

「人参と玉ねぎと、豚肉を炒めてルーを入れたところです…」

「では、終盤か」

「あでも、鍋の底がひどく焦げ付いていて、一旦中身を取り出して鍋を洗って…あと煮込みが不十分だったみたいで、も一度ルーごと長時間煮込んで…」

「と言うことは、ほぼ全部やらせたんだな」

「…あの、野菜は自分で切りました」

「だが、一番大変なところは遥にやらせている!」

「すみません。でも、遥君が自分で」

「私は、お前にやれと言ったじゃないか」

は?

「家事を遥に任せきりにしちゃいかん」

「も、申し訳ございません」

どういうことだ? 親父が涼子さんに何をさせようとしただと?

「明日からは、涼子が家事をするように」

「でも、うまくできるかどうか…」

「初めは遥も下手だった。それは仕方ない。それより、今は遥の肩の荷を降ろすことが先決だからな」

おい、まさかまじで親父が…? お、れ、の、ために…?

「あ、遥も今までご苦労だった。今日は、お前の好きなアップルパイを…」

「ふざけんな!」

気がついたら叫んでいた。握りしめた拳がブルブルと震える。

「今更なんだよ! 肩の荷?! はあ?」

目の奥が熱い。でも、やめられなかった。親父を指差して叫び続ける。

「あんたが、あんたが、再婚なんてしやがった時点で…もう俺はあんたなんか…」

「…」

親父は何もう言わない。涼子さんも何も言わない。親父は静かな目で、涼子さんは泣きそうな目で俺を見ている。

「ーッ」

限界だった。もうここにはいられない。早く行かなければ。あそこへ行かなければ…。

バタン! 俺は、ドアを開けて外に飛び出した。

「遥、待て! 待たんか!」

「遥君!」

「山城君?!」

声が三人分聞こえたような気がしたけれど、そんなことはどうだっていい。早く行かなければ…。

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