なぜかもう、限界だった。
俺と親父の目が合った。次の瞬間、親父は俺の手元を凝視した。
「…んだよ」
「…」
親父は何も言わずに居間に向かって叫んだ。
「涼子! 涼子!」
叫ぶなよ。耳が潰れる。
「涼子、早く来い!」
間も無く、あたふたと涼子さんが駆け出してきた。今だけ涼子さんが気の毒だ。
「あ、あの…何か?」
「…これは、遥が作ったものか」
「え?」
「これは、遥が作ったものかと聞いとるんだ!!」
親父がテーブルをバシンと叩いた。てか、何切れてんだよ。
「ええ、途中までは私が作ってたんですけど…」
「そこから先は遥に作らせたんだな!」
作らせた?
「どのくらいから作らせたんだ!」
「人参と玉ねぎと、豚肉を炒めてルーを入れたところです…」
「では、終盤か」
「あでも、鍋の底がひどく焦げ付いていて、一旦中身を取り出して鍋を洗って…あと煮込みが不十分だったみたいで、も一度ルーごと長時間煮込んで…」
「と言うことは、ほぼ全部やらせたんだな」
「…あの、野菜は自分で切りました」
「だが、一番大変なところは遥にやらせている!」
「すみません。でも、遥君が自分で」
「私は、お前にやれと言ったじゃないか」
は?
「家事を遥に任せきりにしちゃいかん」
「も、申し訳ございません」
どういうことだ? 親父が涼子さんに何をさせようとしただと?
「明日からは、涼子が家事をするように」
「でも、うまくできるかどうか…」
「初めは遥も下手だった。それは仕方ない。それより、今は遥の肩の荷を降ろすことが先決だからな」
おい、まさかまじで親父が…? お、れ、の、ために…?
「あ、遥も今までご苦労だった。今日は、お前の好きなアップルパイを…」
「ふざけんな!」
気がついたら叫んでいた。握りしめた拳がブルブルと震える。
「今更なんだよ! 肩の荷?! はあ?」
目の奥が熱い。でも、やめられなかった。親父を指差して叫び続ける。
「あんたが、あんたが、再婚なんてしやがった時点で…もう俺はあんたなんか…」
「…」
親父は何もう言わない。涼子さんも何も言わない。親父は静かな目で、涼子さんは泣きそうな目で俺を見ている。
「ーッ」
限界だった。もうここにはいられない。早く行かなければ。あそこへ行かなければ…。
バタン! 俺は、ドアを開けて外に飛び出した。
「遥、待て! 待たんか!」
「遥君!」
「山城君?!」
声が三人分聞こえたような気がしたけれど、そんなことはどうだっていい。早く行かなければ…。




