少女の呟き〜何かが引っかかる〜
「よう、港」
気がつくと、舞鳥康太が目の前に立っていた。彼の後ろには、金村直人と長野次郎がポケットに手を突っ込んで立っている。
「あ、舞鳥君。どしたの?」
「俺は、クラスメートには学校外でも挨拶するたちなんだ。あと、一個聞きたいことがあって」
にっこり笑って言う。康太は人懐っこさを感じさせるほど親しみが持てる人物なのだろうが、直人と次郎は顔にはっきりと不快感が出ている。特に次郎の方は貧乏ゆすりを隠そうともしない。こんな道のど真ん中で立ち止まる康太にイライラしているのかもしれない。
「で、何か?」
「さっきおまえと一緒にいたの、山城だよな」
「そうだよ」
「あいつ、俺たちの姿を見て逃げちまったのか? 俺にはそんな風に見えたんだけど」
「…詳しい事情は知らないけど、そうみたいだね」
海輝はさっきまでのことを話した。康太みたいな好人物に隠すことは出来そうもない。
「なるほどなあ〜」
話を聞いて、康太は腕を組んだ。直人と次郎がイライラしながら急かす。
「もういいじゃねえか。さっさと行こうぜ」
「あいつ、俺たちのことバカとか言ったんだろ。そんな奴なんか、もうほっとけって」
「待てよ」
康太は二人を手で制した。
「なんで、あいつはそれを直接、俺たちに言わないんだろうな」
「はっ、言うわけねえだろ。面と面で向かって『バカ』なんて」
「でも、俺と山城はそれくらい言い合える仲だと思ってたんだがなあ」
本気で不思議そうに首をかしげる康太を見て、海輝は確信した。康太と遥の仲は今うまくいっていないようだが、どうやら問題があるのは遥の方だと。
(さて…)
あとは直人と次郎だ。この二人はいかにも感じ悪そうだし、遥が荒れている理由はこの二人にあるのかもしれない。
「なあ、舞鳥。山城は俺たちとつるみたくねえんだよ」
「ほっとけばいいじゃん」
「だいたい、あんな付き合い悪い奴に振り回されてたら、こっちがしんどいだけだって」
「あいつ、昔は付き合いよかったのにな」
「舞鳥、今さら言ったとこでしょうがねえよ」
「前も、おまえ誘ったのに、山城の方から拒否しただろ」
「しかもあいつにバカとか言われたし」
…次郎はこればっかりである。
「なんであいつそんなこと言うんだ?」
「知らねーよ。なんか面白くないことでもあって、当たってんだろ」
(ん?)
海輝は思わず直人と次郎の顔を覗き込んだ。二人とも、ただ単に言いたいことを自由に言っていると言う感じがした。つまり、特に遥に対する悪意のようなものは見られなかったのだ。もっとも、バカ呼ばわりされたことに関していえば、だいぶ怒っているようだが。
(とするとこれは一体どういうこと?)
海輝は考え込んだ。最近の遥の態度や言葉、康太たちのやりとり、そして自分の考えを思い返す。
…そして。
(解った)
これは一種の「公式」だ。男子によくありがちな。
「お、おい。どうした港」
「…舞鳥君。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんだよ」
「君は、今の山城君をどう思う?」
「どうって…」
康太は考え込んだ。横から、早く話を済ませたいらしい直人と次郎が口を突っ込む。
「付き合い悪い陰気な野郎」
「陰で悪口言うしか能のないめんどくさい奴」
(やっぱそこか。素直に話さなきゃよかったかな)
「あと、俺は」
舞鳥が考え考え言う。
「二人のに加えて、単純に『どうしちゃったんだ』かな」




