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トンネルの先には  作者: 椎名れう
16/30

少女の呟き〜どうしても気になる〜

港海輝がスーパーの近くで山城遥を見かけたのは、その日の夕方のことだった。

何日か前、海輝はクラスの学級委員長の飯谷律子と言い争った。自分の言うことに万全の自信がある律子とやり合うのは怖かったが、クラス中から冷たい目で見られている遥を放っておくことができなかった。それに、律子のやり方に前から反感を持ってもいた。

結果的に海輝は律子を説き伏せるのに成功した。クラスのメンバーも遥のことを敵視するのをやめたのだ。おまけに、普段滅多に喋らない女子(海輝は読書に没頭しているから、特定の友人はいない)から

「すごいね」

と声をかけてもらえた。海輝にとっては、良い結果であったのだ。

でも、被害者のはずだった遥は全然喜んでいなかった。それどころか、

「うっさい、黙れ!」

と叫んで廊下に飛び出してしまったのだ。顔は、よく見ていなかったけれど、多分怒っていたと思う。

「山城君に助け舟を出してあげたかっただけなのにな」

自分は遥を助けたと思っているけれど、実はただの自己満足なのではないだろうか。

(ううん、それは違う)

では、何がいけなかったのか。それとも、ただ単に遥が自分を苦手なだけなのか。

(そういえば、舞鳥君たちとの問答の時も、私のことうっとうしそうに見てたな)

そこまで考えていたら、遥の姿が目に入った。海輝はためらわなかった。

「山城君!」

スーパーから出てきた遥はギョッとしたように立ち止まった。だというのに、海輝の姿を認めるや否や、無視してそのまま歩き出そうとした。海輝はぴったりと横に並ぶ。

「スーパーで買い物してたの?」

「…見りゃ分かるだろ」

冷ややかな返事。

「ジャガイモじゃん。カレーに入れるの?」

「…入ってなかったから、今入れる」

「すごいね、お母さんのお手伝い?」

途端に、遥の顔つきが険しくなった。口調も突然激しくなる。

「おまえ、うっとうしいんだよ! いつまでついて来るんだ!」

「私の家もこっちなんだもの」

「だいたい、あんな女が『お母さん』だあ?! ふざけんのも大概にしやがれ!」

「?」

なぜ 遥がこんなに過剰に怒るのか、海輝には分からなかった。遥は小さいビニール袋を持った腕を、そして肩を大きく揺らしていたが、突然ハッとしたように海輝に背を向けて走り去ろうとした。

と、その時、道路の反対側から三人の男子がこちらへ歩いて来るのが目に入った。遥はそれを見るや否や、またハッとして、今度は海輝のほうにバックしてきた。海輝は三人の男子に瞳を凝らした。

「あれ、舞鳥君と金村君と長野君じゃんか」

「俺は別の道から行く。あいつらなんかに会いたくない」

「なんでさ」

「…あいつらは本当はバカのくせに、俺のことをバカにしているからだ」

「何言ってんの」

「見てわかんねえのかよ! あいつらは、のうのうとしてるじゃねえか! それが俺にはムカつくんだよ!」

言い捨てて、さっさと走って逃げて行く。海輝は跡を追う気になれなかった。

もちろん、今の遥の状況を知りたいとは思っている。そのためには、康太たちと話さなければいけないような気がした。話してみないと、わからないことはある。

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