誰か助けてくれ。
次の日、学校に行くと、やっぱり舞鳥は膝にでかい絆創膏を貼っていた。男子も女子も心配そうな目を向けている。俺がやったんだぞと叫びたいのを我慢して、俺は舞鳥に近寄った。
「おい、それどしたんだよ」
「わかんねえ。急に転んでこうなってて。昨日は医者行ってたんだ」
「不注意なんだよ、気をつけろや」
抑えきれない胸の高ぶり。これが優越感ってやつかな。だってのに、舞鳥は笑う。
「ああ、昔からよく俺転ぶもんな」
なんだよ。その平気を装ってる感じ。むかつく。
「おい舞鳥」
「大丈夫かよ」
いつの間にか、俺を押しのけるようにして金村と長野が舞鳥の脇に立っていた。
「ああ、大丈夫。ころんだだけだし」
「ほんとか? 階段とか、手貸してやろうか?」
「骨折まではしてないんだよな?」
金村も長野も俺にはそっけないくせに、舞鳥には気配りを怠らない。いつでもそうだ。何でそんなに俺を無視するんかね。俺は何となく敗北感のようなものを感じた。こりゃ、今日もトンネル行ったほうがいいな。
「ちょっと、山城君」
いきなり肩を叩かれた。尖ったきつい女子の声。いやいや振り向くと、僅かな乱れもない制服を着た学級委員長の飯谷律子(いいたに りつこ)が険しい顔をして立っていた。いや、もともとこいつはこんな顔だったかな。
「なんだよ、飯谷」
「なにその目。その怖〜い目は」
「は?」
「なんで、舞鳥君を睨むのかって聞いてんのよ!」
ただでさえでかい声に、さらに教卓をバシッと叩く音が加わって、クラスの大半が俺たちに目を向けた。その中には、舞鳥や金村たちもいる。このままだと、俺がカッコ悪くなっちまう。
「睨んでねえって! なにを根拠にんなこと言うんだよ!」
「嘘ね。私見てたもん。あと山城君、金村君と長野君も睨んでたよね」
「は?! デタラメ言ってんじゃねえ!」
「大体、舞鳥君に声かけた時も、どっちかって言うと楽しんでた感じしたし」
「なわけねえだろ!」
飯谷が言い募り、俺が必死に抗う。奴の声はずっと単調で、自然と俺の声だけがでかくなる。周りのやつから見て、俺たちのうちどっちがもっともらしく映るか。言うまでもない、飯谷だ。
俺は必死で、クラス中を見回した。まじで誰か弁護に回ってくれ! だけど、みんな動こうとしない。ああ、やばい。が、その時だった。
「なあ、飯谷。ちょっと待てよ」
まさかの舞鳥が俺たちの間に入った。
「なによ、舞鳥君。あんた、睨まれてたのよ」
「山城はそんなことしねえって」
…偉そうに、カッコつけやがって。
「私の目は確かよ」
「俺も見たぜ」
どっかで見たことのある男子が、舞鳥の横に並んだ。誰だったけな…ああ、おとといの村陽だな。
「こいつ、舞鳥たち三人を睨んでたんだぜ」
「まじかよ」
「サイテー」
周りから次々と声が上がる。舞鳥は何か言おうとしたが、長野と金村に引っ張られて廊下に消えて行った。よく見てなかったけど、長野も金村も完全に俺から目を背けてたと思う。ああ…。
「ほらね、私が正しかったでしょ。嘘なんてすぐにバレるのよ」
勝ち誇るわけでもなく、淡々とした口調で言った飯谷はそのまま教室から出て行こうとした。万事休す。俺に向けられた幾多の冷たい視線は当分外されそうにない。ああ…。
「ちょっとやり過ぎじゃない?」
小さな声が教室の隅から上がった。耳のいい飯谷はきっと振り向く。
「どう言うことよ」
厳しい視線の先には、顔を真っ赤にした港海輝が立っていた。
やれやれ、またこいつかよ。




