今更だけど、あいつは不思議だ。
「で、結局その事件は解決したのか」
幼稚園児は、爪でトンネルの壁を引っ掻きながらつまらなさそうに聞いてきた。
「まあな。港が『責任は三人にあるんだよ』なんて言って、終わりだ。先生もそんなに責めてなかったし。あ、あと港が三人と花瓶の片付けをしてたな」
「ふうん」
幼稚園児はあくびをした。そんなに退屈か?
ここは「願いを叶えてくれる」トンネル。で、この幼稚園児はトンネルの住人らしい。
「今日はそんな話をするためにトンネルに来たのか」
「ちがわい。もちろん気晴らしが目的」
「それで安心した」
「ついでに聞きたいんだけど、あんたこの話をどう思う」
「は?」
「あくまでついでだけど、感想を頼む」
俺には、港の行為が不自然に思えてしょうがない。なんでわざわざ争いの輪に入っていこうとしたのか。しかもうっとうしがられても、逃げようとはしなかったし。
「港のやったことは偽善だ」
「偽善?」
「そう。あいつはカッコつけたいだけよ。まあ、それは偽善というか、自己満足と言うべきなのかもしれん」
透き通るような声が瞬時におっさん声に変わった。こいつは本当に不思議な奴だ。
「わかったか」
「わかった。で、もう一つ」
「なんだよ」
「あんたはなんだ」
「は?」
「あんたは何者かって聞いてんのさ。多分、見た目通りの幼稚園児じゃないんだろ」
「そんなことか」
幼稚園児はふふんと笑った。さっさと答えろよ。
「お化けか? それとも幽霊か?」
「そんなケチなもんじゃない」
「じゃあ…」
「そこらへんで、やめときな」
幼稚園児の目がギランと光った。
「恥ずかしいのか?」
「そうだ。俺は恥ずかしがり屋の不思議ちゃんだ」
絶対嘘だ。でも、これ以上追求できそうにない。また、「ギラン」が始まるかもしれない。俺はさっき奴が壁を引っ掻いていた爪を思いだした。
「わかったよ。じゃあ、例の岩頼む」
「任せておけ」
とたんに奴は上機嫌になった。そんなに正体を知られたくないのか?
「今日は誰がいい?」
「じゃあ、金村」
「承りました!」
幼稚園児は早速岩を出現させる。俺はよじ登り、罵詈雑言を浴びせた。あいつには恨みがある。そう思うと集中できた。それに、向こうが無抵抗というのが、何より面白い。
俺がさっぱりした気分で岩から下りると、幼稚園児は三角座りになって(そのままじゃねえか)考え事をしていた。
「もう、帰るぞ」
声をかけても返事がない。そのまま立ち去ろうとした時、俯いている奴の口から僅かに言葉が漏れた。
「港海輝…あいつは厄介だ」
港?
「放っておくと、客が減っちまう…」
客?
「なんとかしなくては…でも、このトンネルに奴を呼ぶわけにはいかないし…」
何を言ってんだこいつは。しかも、いつもより声が無茶苦茶低くて気味悪い。これは早々に退散した方がいいな。
俺は後ずさりしながらトンネルを出た。再び光を目にするまで、奴に背中を見せるのが怖かったからだ。




