少女の呟き〜誰かに似ている〜
最近の女子は、ファッションや身だしなみに気を配りすぎるせいか、話しかけるすき一つ見せないと男性は困ったような顔で言う。彼の仕事場の話らしい。
「そこへ行くと君は、実にゆるゆるとした感じがする。それに中身も面白い」
初対面の人間になんでもはっきり言う人だ。
(たしかに私は『キチンと』してないけどさ…。身なりは悪くないって言ってたじゃん…)
褒められているのか、けなされているのか分からない。海輝は笑っていいものか迷った。男性は、そんな海輝を見て少し笑ってから「話を聞いてくれんか」と言って真剣な顔をして隣に座り込んだ。
「ど、どうしてですか」
「さっき私は、君の話を聞いたじゃないか」
「あ、取引のおつもりだったんですか。これはうかつでした」
「違うよ。さっきの君を見ていて、なんとなく思いついたことだ」
「…ま、私でよければ」
「ありがとう」
それで、聞かされた話というのは男性の息子のことだった。彼の息子はどうしようもない反抗者で、叱っても叱っても夜遅くまで隣町に遊びに行くらしい。
「おまけに、普段は私と話をしようともせん」
「それはお辛いことでしょう。多分反抗期なんですよ」
「うーん。だがな、家事はきちんとこなすのだよ」
「家事? 奥様のお手伝いですか?」
「そ…うだ。…家内は怠け者でな。」
「それはまた…孝行ですね」
「孝行者と、反抗者。どっちを信じて良いのやら」
海輝は考え込んだ。多分どっちも本当なんだろう。だとすると…。
「反抗者ですね」
「うーむ」
「でも、それは家事が原因なのかも」
「とするとなんだ。は…息子は家事をして孝行しているが、そのせいでストレスが溜まって反抗しがちだと。…なるほど!」
「いえ、あくまで可能性です。でも、どっちか一つだけが真実っていうことはないと思います。少なくとも、あなたのお話を聞く限りでは…」
「いや、そうかもしれん! 家内と結婚したのはそのためだった。…たしかにこれはいかん! あ、ありがとう!」
男性の目にはもう、半分海輝は写っていないらしい。独り言と返事をごちゃ混ぜにしたまま、どこかヘ走り去って言った。
後に残された海輝は当惑しつつも、どこか幸せだった。
(あの人は変な人だけど、いい人だったな)
もう、空き地に用はない。立ち上がって帰ろうとしたとき、ふとあの男性の顔が見知った誰かに似ているような気がした。
(あれ、誰だっけ)
いくら考えても、分からなかった。




