欲求不満なんて今に始まったことじゃない。
人間、何が一体不幸かと言えば、こんな山に囲まれまくった盆地の田舎の、しかもいろんな意味でめんどくさい家庭に生まれることだろう。年寄りが村の名物と騒ぐ緑の濃い塩巻山や、親父の使っている箸を見るだけで俺は気分が悪くなる。
なんたって田舎なのだ。東京みたいに高層ビルとか、百貨店なんてありゃしない。コンビニやスーパーはあるっちゃあるが、小さい上に閉まる時刻が早すぎる。当然、カフェやゲームセンターなんて、三十分かけて電車で隣町に行かなきゃ入れない。俺みたいな中学生には欲求不満が溜まりまくる。
昨日、学校から帰ってすぐ、ガタガタいう電車に揺られて隣町のゲームセンターに行ってきた。一時間ぐらいで引き上げるつもりが、つい夢中になってしまい、結局家に戻ったのは真夜中だった。締め出しを食らった俺に玄関から親父の罵声が飛んできた。いや、アレはひでえもんだった。
「勉学をおろそかにして、しかもこんな遅くまでほっつき歩いている親不孝ものはうちにはいないわ! 野宿が妥当だ!」
「ちょっと遅くなっただけじゃんか」
「お前という奴は、我が家の恥だ!」
「こんな村には、なんもねーんだよ。遊び盛りの中学生の欲求を満たしてくれるものは!」
「反省ひとつしないつもりか遥! いいだろう、朝まで外で寝ていろ!」
怒鳴られたこととか、朝まで野宿したことはたいして苦痛ではなかったが、近所中に聞こえるくらいの大声で俺の名前を叫ばれたのは嫌だった。だいたい、遥なんて女みたいな名前…。
「おい、山城」
突然名前を呼ばれて、俺はハッと我に返った。同級生の舞鳥康太が俺の目を覗き込んでいる。
「あ、舞鳥。どした? 熱心に男の顔を覗き見しやがって 」
「うっせえ。もうすぐ休み時間が終わるって警告しにきてやったんだ」
なるほど。黒板の横の時計を見ると、あと一分で五時間目が始まるところだ。そして俺の机の上には何一つとして教材が準備されていない。
「サンキュー、舞鳥」
「気ぃつけろよ」
舞鳥はそれだけ言うと、くるりと背を向けて金村や長野達のところへ戻っていってしまった。何か話してってくれても良かったのにな。
周りで女子や男子が騒々しくしゃべっている中、俺は黙って数学の教材を机の中から引っ張り出した。




