01章00話 プロローグ
──魔塔。
その塔は、神に仇をなすかの如く天へとそびえ立つ。
世界の真実を探求し、魔導の極致を追い求める至高の研究機関。
法の外に君臨し独自の権力を有するその場所は、表向きこそ清廉な学舎だが、裏では倫理を無視した非人道的な実験が密かに行われていた。
* * *
「よく来てくれたな、ミラルダ」
銀糸のように輝く長髪を揺らし、男は対峙する女へ軽く頭を下げた。
「畏まって何よアルバス。ミラと呼んで」
フードを深く被り、顔の右半分を前髪で隠した女が不敵に微笑む。
アルバスは顎髭に手を当てると、部屋の中央に鎮座する『氷の棺』へと視線を落とした。
そこに横たわるのは、かつて竜の軍勢を打ち払ったとされる『五英雄』が一角。
――《七色の竜人》ゼブルの遺体。
「見てくれミラ……かつて世界を破滅から救った英雄の肉体だ。その英雄の英雄がかぶっているのだ……ふっ」
「あなたイカれてるの?」
「お前の死霊術で、この遺体から強さを抽出し、別の器へ移せないだろうか?」
「単に呼び起こしたらいいじゃない」
「それではダメだ。魂の削れた死屍では、本来の力から劣化してしまう」
ミラは口角を歪に吊り上げると、低く不気味な声で囁いた。
「ふふ……なら、成果の出ない『不要な生徒』を使って、実験させていただいてもよろしいかしら?何人か壊れると思うけど」
「問題ない。ゴミの使い道としてはいいアイデアだ」
魔塔の最上階で、狂気と無慈悲に満ちた密約が交わされる。




