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愛した人は復讐相手でした〜囚われ姫?は冷血皇帝の甘い蜜に抗えない  作者: 蒼良美月


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1.楽興の刻

※新作です。よろしくお願いします。思いのまま書いたご都合主義なところや、矛盾点が多くありますが、あまり気にせず軽い読み物として読んでください。

 ——ドォンッ!!


 腹に響く重低音が、ルクシアン城の重厚な大理石を揺らした。


「城門が……! 城門が破られたぞッ!!」


「逃げろ! 漆黒の軍勢だ! シュナイゼル帝国の悪魔どもが雪崩れ込んできたぞ!!」


 300年以上続く由緒ある「ルクシアン王国」の誇る白亜の居城は、わずか一瞬にして地獄の絵図へと変貌していた。


 血飛沫が、鏡のように磨き上げられた壁を鮮血の赤で染め上げる。


 絹のドレスを血で汚して逃げ惑う貴族たち。財宝を抱えて転倒し、そのまま兵の鉄靴に踏みつぶされる家臣たち。


 命乞いの言葉すら掠れ、剣の身が肉を断つ生々しい断末魔が廊下に響き渡る。


 周辺諸国を瞬く間に平定し、世界を恐怖で叩き潰してきた軍勢——その中心にいるのは、氷の笑みを浮かべる一人の男だった。


 皇帝、レオナルド・オーウェン・シュナイダー。


「……汚いな」


 血煙と炎が立ち込める大広間。降り注ぐ血の雨の中を、彼は一滴の返り血すら浴びぬように、ゆっくりと、優雅に歩を進めていた。


 夜の静寂をそのまま裁断したかのような漆黒の軍服姿に胸元で冷たく光る黄金の飾帯。腰に差した美しき飾剣からは、絶え間なく赤き雫が滴り落ちている。


 国宝級と謳われる完璧な造形の顔立ちを持ち、甘く絶美なマスクでありながら、そこに宿る双眸(そうぼう)は、生きとし生けるもの全てを凍てつかせるほどに昏(くら)く、冷たい。


 贅沢三昧に呆け、民を飢えさせ、世界を腐敗の淵へと追いやった愚かな王どもを次々と屠(ほふ)ってきた男。


 平和ボケした世界を、力と恐怖でねじ伏せ統一しようとする暴君の足音が、今、城の最上階——玉座の間へと迫っていた。





 ◇◆



 ——ギィ……ィィィ。


 重厚なオーク材の扉が、甲高い音を立てて内側へ押し開かれる。


「ひっ……! ひああああああっ!!」


 玉座の間に満ちていたのは、正気を疑うほどの濃密な血の匂いと、絶望の叫びだった。


 部屋の隅でガタガタと膝を突き合わせ、互いに抱き合っているのは、ルクシアン王国の国王、その妻である王妃、そして美しい二人の王女たちだ。


 優しく穏やかだが、王としての能力など皆無の父。


 自然を愛するだけで世間知らずの母。政治に興味もなく贅沢に甘んじてきた姉たち。


 城の外で孤児や浮浪者が溢れかえっている現状から目を背け続けた愚者たちが、今や死の恐怖に顔を歪ませ、惨めに床へ這いつくばっていた。


「頼む……! 頼む、命だけは助けてくれぇぇっ!!」


「財産なら……国でも……何でもあげるわ! だから、私たちを殺さないで……っ!」


 情けない命乞いが、冷たい石造りの天井に空しく響く。


 だが、その惨めな一族の陰で——ただひとり、静かに呼吸を整える者がいた。


 ──彼の名はケビン・コンラッド・ルクシアン。ルクシアン王国王家の正当な血を引く唯一の王子だった。


 華奢な体躯、透き通るような白肌、愛らしい瞳。まるで北の森に棲む愛くるしいリトルバニー(子ウサギ)のような美少年。


(……ふんっ。愚かで、惨めで、救いようのない豚どもめ)


 震える両親の背中を見つめながら、ケビンの心の中では冷徹な罵倒が渦巻いていた。


(僕はずっと待っていたんだ……無能な家族を排除し、僕の手でこの愛するルクシアン王国を再興させるその日を! それなのに……! なぜ、この男が横から全てを奪いに来るんだ……っ!!)


 心の中の殺人鬼が、猛烈に牙を剥く。怒りと殺意で頭が狂いそうだった。


 だが、ケビンは瞬時に自らの感情を完璧に殺し、脳内で計算を弾き出した。


(今は戦っても勝てない。今、この場で奴に歯向かえば一瞬で首が飛ぶ。生き残らなきゃ意味がない……! 僕が大好きなこの美しい我が国をいつか再建するために、どんな屈辱に塗れても、生きてここを出る……!!)


「ふ……くぐっ……あぁ、お父様、お母様……っ!」


 一瞬。ほんのコンマ一秒の判断。


 ケビンはその美しい青い瞳にみるみるうちに涙を溜め、華奢な身体を子ウサギのように小さく震わせた。


 恐怖に怯え、守られることしかできない「可憐で無知な少年王子」の皮を、完璧に被ってみせたのだ。


 静かに歩み寄ってくるレオナルド皇帝。

 その息を呑むほど美しく彫刻のような顔に、優雅な笑みが浮かぶ。


「これが300年続いた由緒ある王家の無残な末路か。醜いものだな」


 冷徹な声が玉座の間を打つ。

 レオナルドの手が腰の飾剣にかけられた。


 ──命を刈り取る絶望の瞬間。


「ひっ……あ、悪魔……! 来ないで……っ!」


 ケビンは悲鳴を上げながら、庇うように家族の前に転がり出た。


 涙をポロポロとこぼし、上目遣いにレオナルドを見上げる。


「お願い……です……陛下……! 家族を……僕たちの命を、お助けください……っ。何でも……何でもしますから……っ!!」


 ケビンは可憐な容姿を最大限に利用し、恐怖に狂ったふりをして媚びを売る。身を粉にして許しを乞う哀れな子ウサギを完璧に演じた。


(どうだ……? 哀れだろ? 殺す価値もない可憐な子供に見えるだろ……!?)


 心の中で冷たく舌を打ちながら、命乞いを続けるケビン。


 だが。


「……ふうん」


 視線の高さが合った瞬間、レオナルドの美しい双眸が、怪しく細められた。


(なに……!?)


 ケビンの背筋に、ゾクリと凍りつくような悪寒が走る──




 ◇



 完璧な演技のはずだった。恐怖に震える可憐な王子そのもののはずだった。


 しかし、レオナルドの冷徹な眼光は、ケビンの「可愛らしい演技」の皮を一枚脱がせ、その裏に潜む鋭い牙、命に対する凄絶なまでの貪欲さ、そして一瞬だけ覗いた、したたかな計算高さを——完全に見抜いていた。


(この小僧……恐怖の渦中で瞬時に自分の立場を理解し、生に執着して演じて見せたか。ふっ……)


 レオナルドの胸中に、かすかな興味が芽生えた。


「陛下、このような者たち、生かしておいても災いとなるだけです。即刻、首を撥ねましょう」


 背後に控えていた側近の騎士が、警戒を露わにして刃を抜こうとした。


「待て」


 レオナルドの短い一言が、場を制した。


「陛下!?」


「この小僧は連れて行く。『人質』だ」


「なっ……! しかし陛下、コンラッド王家の血を残すのはあまりにも危険です!」


「構わん。私の言葉に反論するつもりか?」


 絶対的な威圧感。側近はぐっと息を呑み、それ以上言葉を続けることができなかった。


 レオナルドは優美な手つきで、床に伏せるケビンの顎を、冷たい指先ですくい上げた。


 至近距離で交差する、美しすぎる二人の視線──


「名前は何という、リトルバニー?」


「……ッ、ケビン……ケビン・コンラッド……です……っ」


 可憐に唇を震わせながら答えるケビン。

 その指先をそっと撫でながら、レオナルドは甘美な笑みを深めた。


「ケビンか。……良い目だ。お前のその命、私が買い取ってやろう」


 レオナルドはケビンの細い腰を抱え上げると、まるで軽やかな羽毛でも扱うように容易く自らの腕の中に収めた。


 そして、一度も振り返ることなく、血の海と化した玉座の間を去ろうとする。


「あ……ケビン! ケビン!! お前だけ助かるつもりか!? 助けて、助けてくれぇぇ!」


「お捨てにならないで! ケビン!」


 背後で聞こえる、両親と姉たちの醜い叫び。


「陛下、残りの者たちは如何いたしますか?」


 側近の問いに、レオナルドは振り返ることなく足すら止めず、冷酷に命じた。


「殺れ」


「はっ!」


 ——グサッ!!


「ギャアアアアアッ!!」


 直後、玉座の間から響き渡る肉を穿つ音と、家族たちの絶命の悲鳴。


 自分の目の前で自国が消滅し、血の繋がった家族が惨殺されていく。


 だが、ケビンの脳裏に浮かんだのは──


(……あははっ! ザマぁ見ろ、クソどもが! 僕を散々甘やかして、飾り物にしてくれた報いだ!!)


 ケビンはレオナルドの胸に顔を埋め、恐怖に怯えて泣きじゃくる振りをしながら、心の中で狂ったように笑っていた。


 だが、その直後——腹の底から湧き上がってきたのは、狂気的なまでの暗黒の憎悪だった。


(……だけどな、レオナルド。僕の国を潰し、僕の獲物だった家族を横から奪った罪は重いぞ……。絶対に……絶対に許さない。僕の手で、お前の喉笛を掻き切ってやる……!!)


 腕の中で小さく脈打つ鼓動の激しさと、微かな身体の昂(たか)ぶりに、レオナルドは全てを察していた。


(ククっ……面白い。良いぞ、俺を狙うといい小僧)


 自分の命を虎視眈々と狙う毒蛇を、あえてその胸に抱く。


 レオナルドの薄い唇が、愉悦(ゆえつ)に歪んだ。


 城の外に出ると、白亜の美しい壁は炎に包まれ、深い森と湖が赤く燃え上がっていた。


 北の神秘的な大地に眠る美しいルクシアン王国300年の歴史は、今この瞬間、完全に崩壊したのだ。




 ◇◆



 レオナルドは、漆黒の愛馬の背へと一跳びで跨がり、人質として拘束したケビンを抱き寄せるように乗せた。


「くっ……っ」


 レオナルドの腕に固く閉じ込められ、ケビンは心の中で不快感に舌を打ちながらも、弱々しく身を縮めて見せた。


「落馬したら放置するからな。リトルバニー」


 耳元で囁かれる、氷のように冷たく、それでいて甘い声。


 レオナルドが手綱を引くと漆黒の馬は高らかな、いななきを上げ、真っ赤に炎上するルクシアン城を背に駆け出した。


 疾風のごとく駆け抜ける馬上で、抱えられたケビンの美しい青い瞳の奥は、可憐なウサギの光が消え、暗い殺意の炎が静かにメラメラと燃え上がっていた。


 命を狙う可憐な白い毒蛇と、それを見抜きながら寵愛する氷の皇帝。


 狂気と計算、そして偽りの愛に彩られた、二人の凄絶な運命の歯車が、今、激しく回り始めた——

「お忙しい中、最後までお読み頂き大変ありがとう御座います」

ここまでお読みになった時点でも構いませんので、広告下にある✩✩✩✩✩から作品へ評価を頂けると、執筆へのモチベーション維持に繋がります。また、続きが気になると少しでも思われたらブックマークも是非お願いします。









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― 新着の感想 ―
Xではお世話になっております。 新作、執筆お疲れ様です。 重厚なファンタジー小説すごいですね! リトルバニーの男の子可愛いです♡ でも、そこに秘めた殺意がまたギャップあってすごいです!
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