「こんなところで終われるかよ」
その“目”は。
空そのものより巨大だった。
亀裂の奥。
闇の中で、
ゆっくりと開いていく。
赤黒い瞳。
生き物というより、
災害だった。
修の全身に、
鳥肌が走る。
「……なんだよ、あれ」
フィアナの顔が、
青ざめていた。
「嘘……」
声が震える。
「“深淵級”……?」
修が振り返る。
「知ってるのか?」
フィアナは、
唇を噛み締めた。
「あれは……」
「向こうの世界でも、伝説災害扱いです」
修の血の気が引く。
伝説災害。
つまり。
本来なら、
出てきちゃいけない存在。
その巨大な目が、
ゆっくりこちらを見る。
瞬間。
ズンッ――!!
重圧。
空気が、
潰れたみたいだった。
修が膝をつく。
「ぐっ……!」
呼吸が苦しい。
周囲の建物が、
ミシミシ軋み始める。
フィアナも、
顔を歪めていた。
「存在するだけで、世界を侵食してる……!」
空の亀裂が、
さらに拡大する。
街の上空が、
完全に異世界へ塗り替わり始めていた。
赤い月。
黒い雲。
見たこともない景色。
逃げ遅れた人々が、
泣き叫ぶ。
修は、
歯を食いしばった。
「止める方法は!?」
フィアナは、
苦しそうに答える。
「核を破壊して、ゲートを閉じるしか……!」
「ならやるぞ!」
「でも!」
フィアナが叫ぶ。
「あの深淵級がいる限り、ゲートは閉じません!」
修が空を見る。
巨大な目。
どう考えても、
勝てる相手じゃない。
その時。
深淵級の瞳が、
淡く光った。
フィアナの顔色が変わる。
「修さん、伏せて!!」
次の瞬間。
空から、
黒い光線が降ってきた。
――ゴォォォォォッ!!
街が消し飛ぶ。
ビルが蒸発した。
爆風が、
何十メートルも吹き飛ばす。
修は、
咄嗟にフィアナを抱き締める。
衝撃。
熱風。
視界が真っ白になる。
地面を転がりながら、
修は必死にフィアナを守った。
やがて。
煙が晴れる。
そこには。
巨大な一直線の破壊跡が残っていた。
道路も。
ビルも。
全部消えている。
修は、
息を呑んだ。
「……冗談だろ」
フィアナの手が、
震えていた。
「勝てない……」
その言葉は。
今までで一番、
弱々しかった。
でも。
修は、
ゆっくり立ち上がる。
足は震えていた。
それでも。
光の剣を握り直す。
フィアナが、
涙目で叫ぶ。
「無理です!!」
「相手は深淵級なんですよ!?」
修は、
苦笑した。
「じゃあさ」
「勝てる方法、考えるしかないだろ」
フィアナが、
目を見開く。
修は、
空を睨みながら言う。
「俺」
「フィアナと、まだ映画行ってないし」
「遊園地も行ってない」
「一緒に暮らす約束もした」
光の剣が、
さらに輝きを増していく。
修は、
静かに笑った。
「だから」
「こんなところで終われるかよ」




