「小さな灯りの向こう側」
次の日。
朝から、部屋の空気は少しだけ変だった。
気まずい。
というより。
修が、妙にフィアナを意識してしまっていた。
「……」
フライパンを見つめる。
ベーコンを焼く。
じゅううう。
頭の中では、昨日の言葉が何回も再生されていた。
『修さんも、好きです』
「……うわぁ」
思わず声が漏れる。
恥ずかしい。
フィアナは、そんな修の様子に気づいていないのか。
テーブルで、のんびり牛乳を飲んでいた。
「修さん」
「っ!?」
「焦げてます」
「うわっ」
ベーコンが真っ黒だった。
フィアナは、きょとんとしている。
「今日の修さん、変です」
「そ、そんなことない」
「あります」
フィアナは真顔だった。
修は視線を逸らす。
まともに顔を見れない。
すると。
フィアナが、少し不思議そうに首を傾げた。
「……もしかして」
修の心臓が跳ねる。
「昨日のカレー、辛かったですか?」
「違うわ!」
フィアナは、本気でそう思っていたらしい。
「違うんですか?」
「違う」
「では、ベーコンですか?」
「食べ物から離れろ」
フィアナは、うーん、と悩み始める。
修は、少しだけ安心した。
この天然さに、救われてる気がする。
朝ご飯を食べ終えたあと。
修は洗い物をしていた。
その隣で。
フィアナが、ふわっと小さな光を出す。
ぽう。
暖かい灯り。
修は思わず見つめる。
何回見ても、不思議だった。
フィアナは、その光を見ながら小さく笑う。
「修さん」
「ん?」
「わたくし」
「この魔法、好きです」
「灯りのやつ?」
「はい」
フィアナは、手のひらの光を見つめる。
「城では」
「もっと大きな魔法ばかり求められてました」
「強い魔法とか?」
「はい」
「でも」
フィアナは、優しく笑った。
「修さん、この小さい光を、すごいって言ってくれました」
修は少し黙る。
そんなこと、もう忘れかけていた。
でも。
フィアナは覚えていた。
「だから」
「この魔法、好きです」
部屋の中に、小さな灯りが揺れる。
修は、なんだか胸が熱くなった。
誰かに。
自分の言葉を、
こんなに大事にされたことがなかったから。
修は、少し照れながら笑う。
「……そっか」
フィアナも笑う。
その時だった。
ぴこん。
突然。
フィアナの魔法の光が、大きく揺れた。
「え?」
部屋の空気が、少し震える。
修の顔が変わる。
フィアナも、驚いた顔をした。
そして。
手のひらの光の中に。
一瞬だけ。
見知らぬ“城”の景色が映った。
高い塔。
白い壁。
そして。
誰かの声。
『――フィアナ様』
ぶつん。
光が消える。
部屋が静まり返った。
修とフィアナは、しばらく動けなかった。




