第一話 この夏の始まり
壁一面を覆う広大なガラス窓から、抜けるような青空の輝きが惜しげもなく差し込んでいる。
様々な言葉が行き交うアナウンスが、ひんやりと乾いたロビーに絶え間なく響いていた。
旅行客で溢れるフロアの片隅で、美知子は、ショーウィンドウに映る自分を気恥ずかしそうに直す。久しぶりの、再会に少し張り切り過ぎただろうか。
二十歳になった娘は学期末の休暇を迎え、留学先のアメリカから帰国したのが、この夏の始まりだった。
到着ロビーのざわめきのなか、美知子は人の波を探すように辺りを見渡す。
その時、遠くの方で手を振りながら近づいてくる人影があった。歩くたびにふわりと揺れる長い髪。背が伸び、手足もスラリと長く、その表情は見違えるほど大人びた我が子の光里だった。
「もぉ~、お母さんどこ見てたのよ!」
光里が笑いながら駆け寄ってくる。
「お母さんたらーあんなに大きく手を振っていたのに、全然気付いてくれないんだから!」
「ごめん、ごめん、しばらく見ないうちに、綺麗になっちゃって…… どちら様かしら? と思ったわよ!」
「おばあちゃん…… 今の光里を見たら、きっと驚いて、嬉しさのあまり…… 腰を抜かしちゃうかもねぇ」
そう言う美知子に、光里は少し照れたように肩をすくめて笑った。
「もぅ…… 大袈裟なんだから」
待ちわびていた愛娘との再会に喜びを噛みしめる美知子だった。
「ねぇ。どこかでお茶でも飲んで、ゆっくりしよっか」
光里はすぐさま、美知子の腕に自分の腕をギュッと絡ませ、弾んだ声で応えた。
「だったら、美味しいスイーツ食べたいな」
「そんなことだろうと思ってね…… スイーツが美味しそうなお店、探しておいたの。さ、行くわよ」
美知子は得意げに胸を張った。
その自信満々な顔の裏で――
昨夜から慣れない手つきでインスタを開き、必死に店を探していたことは、もちろん内緒だ。
並んで歩き出す二人の足取りは、これから始まる夏を祝うように、高らかに弾んでいた。




