36 ナインの決断
ルークとルージュには道の駅に一泊してもらった。
食事は美味しいし、風呂は気持ちいいし、寝床は快適でどこを取っても評判だった。
特に、騎士団の面々は実家みたいにリラックスしていた。
私たち一家に振り回されて大変だったろうからね。
ゆっくりしてくれ。
弟妹たちもゆっくりすればいいのに、ルージュはシャイナに料理を教わり、ルークはというとマッカスに酒の飲み方を指南してもらっていた。
裸踊りする奴に教えを乞うてどうする?
反面教師としては最適だろうけどね。
ルージュが作ってくれた昼食をいただきながら、世間話に花を咲かせる。
「ふーん。地上は今、お祭りなんだ」
ロスガ卿は相当な悪政を敷いていたらしい。
息をするのにも税を課す勢いだったとか。
圧政から解放された領民たちは酔ったマッカスみたいに連日連夜踊り狂っているのだそうな。
「あの様子では、ボクたちが挙兵しなくとも」
「領民たちが蜂起して」
「ロスガ卿の治世は」
「終わっていたことでしょう」
代わる代わるそう話してくれた。
誰がリーダーになるかって大事なんだな。
元・領主の父上は牙のない太ったライオンみたいな人だったけど、あれはあれで適材適所だったのかもしれない。
昼食を食べ終え、ルージュはお上品に口元を拭い、ルークはお行儀よくシェフのシャイナに礼を述べた。
そして、
「姉上」
「お姉様」
声を揃えて言う。
「「では、地上に帰りましょうか」」
「「「ええええええええええええ!!!」」」
食堂に驚愕の声が轟いた。
居合わせた冒険者たちが食事の手を止めて、こちらを見つめている。
「帰っちまうんすか、ナインさん!」
「ずっとここに居てくれると思っていたのに」
「駅長、帰らないでくださいよ! 困りますよ、私たち!」
私の元に冒険者たちが殺到する。
しかし、素早く動いた二つの影がガーディアン像のように立ちはだかった。
「姉上は」
「お姉様は」
「ボクと一緒に」
「わたくしと一緒に」
「「地上に帰るのです! 引き止めないでいただきたい!」ですわ!」
現役領主2人組の猛ブロックだが、冒険者たちも負けていない。
「ナインさんがいないと俺たち困りますよ!」
「道の駅はどうするんですか!?」
「ナインさんがいないとオレら、明日にも喧嘩を始めちまいますよ!」
「誰が新しい駅長になるかで戦争になるわ……!」
「道の駅が潰れるのも時間の問題っすよ」
「冒険者の協調性のなさ、舐めないでくださいって」
「ナインさんだから安心して任せられるのに」
そこまで言ってもらえるのだから、光栄なことだ。
ただ、あんたたちさ。
いくらなんでも情けなさすぎない?
金魚鉢の熱帯魚じゃないんだからさ、共食いで全滅とかやめなよ。
せっかくできたオアシスなんだからさー。
ため息が出た。
誰がリーダーになるかが大事、か。
私が出て行くと本当にここは荒廃しそうだな。
「あ、姉上……!」
「お姉様……っ!」
「まさか、ここに残るなんて」
「おっしゃいませんよね!?」
ルークとルージュがそっくりな困り眉を並べた。
そりゃもちろん残るなんて言わないよ。
と言おうと思ったけど、すぐには声が出なかった。
鈍臭い私でもさすがに騎士団の厳重警護があれば、地上に戻れると思う。
ダンジョン暮らしに慣れて、ここに来たときより足腰も強くなったからね。
ここに残るか、地上に帰るか。
ひと月早く来てくれたら迷わなかったんだろうなー。
今は……。
どうだろう。
生まれつき裕福だった私にとって、自分の力でイチから作り上げたものは格別だ。
道の駅にも駅長という肩書きにも愛着がある。
それに、もっとこうしたいってアイデアがたくさんあって、冒険者たちの力にもなりたいと思っている。
階層主と命懸けで戦ってまで守り抜いたこの城を、迎えが来たからハイさよならってのは違うと思うんだよね。
ここは、私の城だ。
みんなで作り上げた私の城なんだ。
城主は城にいるもので、私の城はここなのだ。
だから、青空を拝むのはもう少し先でもいいかな。
なにより、冒険者たちが私を必要としてくれている。
需要に応えるのが、私の仕事だ。
今日まで支えてくれたみんなの気持ちを裏切ることはできない。
「姉上が戻りたくないという顔をしておられます……」
「お姉様がここに残る決意を固めておられます……」
ルークが頭を抱え、ルージュは手で顔を覆った。
「姉上は頑固だから」
「一度決めたらテコでも砲でも」
「動かない」
「のですわ……」
よくわかっているじゃないか。
さすが、私の弟妹たちだ。
階層主をけしかけられたって私は動かないよ。
「私はここで駅長を続けるよ」
決然と宣言すると、冒険者たちが沸いた。
ルークとルージュはガックシだけどね。
まっ、所要数日の距離だ。
王都よりは近いでしょう?
私は留学中だとでも思ってくれ。
それに、あんたたちのほうが領主に向いている。
私の10倍は頭が回るからね。
掛け合わせれば100倍だ。
傾いたルスト領をしっかり立て直してくれ。
いつの日か私が地上に戻ったとき、元気な町並みを見られるようにね。
「もう一泊くらいしていくでしょ?」
「もちろんです、姉上!」
「当然ですわ、お姉様!」
今夜も楽しくなりそうだ。
ガルス。
地上に戻れたらあんたの墓を作る約束だったけど、もう少し先になりそうだよ。
不満があるなら墓の下から這い出してくればいい。
道の駅『蜂の巣箱』は誰だって歓迎だ。
美味しい料理とうまい酒と安心な寝床と熱々の風呂と王国一の武具屋がある。
ゆっくりしていくといい。
そんなわけで、私の駅長ライフはもうしばらく続くのであった。
これにて完結です!
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