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21 でっかい料理人


 いろいろと手を打った甲斐あって、従業員を確保することができた。

 ざっと20人くらい?

 冒険の傍ら、駅の切り盛りを助けてくれるそうだ。

 彼らにとっても、この駅は深層への大事な足がかりだからね。


 これで私はワンオペから解放される。

 あとはふんぞり返って部下にもっともらしい指示を出しておけば安泰だ。

 ふんぞり返る用の椅子を作ってもらわないとな。

 黒曜石の椅子とかカッコイイな。

 魔王みたいでさ。

 どこかに腕のいい石細工はいないものだろうか。


「あ、あのぉ! なななナナ、ナインさんですよねぇぇ!?」


 従業員の給金をどうしようかと考えていると、えらく高いところから声が降ってきた。


「うぇ、デカ……」


 声のほうを見て私は3歩ほど後ずさりした。


 見上げるほどデカイ女がいた。

 胴といい腕といい脚といい、丸太のように太い。

 それでいて太っているように見えないのは、それだけ上背があるからだ。

 髪が緑なのもあって巨木にすら見える。


 冒険者ってみんな基本デッカイよな。

 私、よくこんな奴らにまざって、ひと月近くやってこられたなぁ。

 まあ、小人族みたいな規格外の小ささの奴もいるけどさ。


「い今、でででデカいってぇ……」


 デカさの割に小さくて可愛い声だった。

 もし、世の中にしゃべる猫か犬がいたら、こんな声であってほしいものだ。

 もしかして、デカイのはコンプレックスだった?

 失礼だったか。

 勘弁してくれ。


「あなた、たしかライオのパーティーの……えっと、シャイナだっけ?」


 私はうろ覚えの名前を口にした。


「は、はははハイ! わた、わたしシャイナです!」


 緑の髪をぶんぶん振ってシャイナは肯定を示した。

 そして、大きくて可愛い声で言った。


「ここで働たたてて、たたい!」


 カミカミじゃないか。

 でも、可愛いな。

 大きさも込みで可愛い。

 まるで巨大なぬいぐるみみたいだ。


「ダメですかぁ……」


 泣き出す一歩前の悲痛な面持ちが見下ろしてくる。

 ダメなものか。

 大歓迎だ。

 君には道の駅のマスコットになってもらいたい。

 いや、冗談だ。


「シャイナは料理、得意かな?」


 厨房担当を探していたところなんだ。

 料理が得意だと助かる。

 冒険者は大雑把だからね。

 血抜きすら面倒くさがる奴ばかりなんだ。

 

「と得意なことぉ……、料理くらいしかありませぇぇん……。しゅみましぇぇん!」


 ついに泣き出してしまった。

 悪かった、私が悪かった。

 よくわからないが、落ち着いてくれ。

 料理ができるなら十分すぎるからさ。


 大きな背中を押して、とりあえず、厨房へ。

 二人分のエプロンを繋ぎ合わせると、シャイナのサイズにピッタリだった。

 牛刀を持たせてみたが、おかしいね。

 果物ナイフにしか見えない。


「さっそく何か作ってみてよ。材料はあるだけ使っていいからさ」


「すすすごいですね! こんなにも食材がいっぱぁいだなんてぇー!」


 厨房の片隅に山と積まれたダンジョン食材に、シャイナは大きな瞳を輝かせている。

 ドラゴンの首みたいなものもあるが、あれも食べられるのだろうか。


「腕にヨリをかけて作らせていただきまぁす!」


 終始緊張しっぱなしで体を縮こまらせていたシャイナだったが、まな板と向き合った瞬間、体が数倍にも大きくなった気がした。

 慣れた手つきでエビ系魔物の殻を引っペがし、背ワタをちゅるんと抜き取った。

 トントントン、と牛刀が小気味よい音を立てている。


 あっけに取られている間に、厨房は芳しい匂いでいっぱいになった。

 ここしばらく嗅いだことのない、ちゃんとした料理の香りだった。


「できましたぁ! ダンジョンエビのグラタンでぇーす!」


 私の前にドカンと置かれたのは、まさにグラタンとしか言いようがない代物だった。

 ミルクの香ばしい匂いで私の口はすでに唾液でいっぱいになっている。


 冒険者たちも匂いに釣られてやってきた。

 ギャラリーが見守る中、私はゴクンと喉を鳴らして焦げ目のついたグラタン皿にスプーンを差し込んだ。

 どろっとした白いソースを持ち上げると、チーズが糸を引いた。

 ミルクとかチーズとかどうやって手に入れたのだろうって野暮な疑問は、もはやどうでもよかった。


 フーフーして、ぱくっ。


「……ッ!!!」


 舌に電撃が流れて、私の脳は長い悪夢から覚めた。


「美味しい!」


 それ以外に何の言葉がある?

 うまい!

 デリシャス!

 ひゃっはー!

 要するに、美味しいのだ。

 味にうるさい領主邸のコック長でもこれには10点満点を出さざるをえまい。


「シャイナくん! キミ、採用っ! 今後ともぜひ最高の料理を作ってくれ!」


 私は全部平らげた上でそう評した。


「嬉しいですぅ! これで、ナインさんに恩返しができまぁぁすぅ! ああああぁぁんん!」


 泣き声がわんわんと反響して居合わせた冒険者たちが耳を押さえてしゃがみ込んだ。

 声もでっかいね。

 ほら、シャイナ。

 冒険者たちが食べたそうな顔をしているよ。


「うぅぅ頑張りまぁすぅー!」


 ダンジョンに名料理人が誕生した瞬間であった。


ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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