21話 黒の聖者
俺に組み伏せられた男が口を開いた。
「私達はお前に出ていって欲しいだけだ聖者」
「え?」
どういうことだ?出ていく?
「お前が獣人を治しているのは知っているしそれについてとやかく言うつもりはなかった。でもな、お前は私たちの患者も集め始めた。人間だよ。人間の患者までもがお前を頼るようになった」
そう言った男。
そう言えば、最近は人間の客も多かったな。
「お前のラストエリクサーは何でも治してしまう。そんなアイテムを格安で売るわ、来た患者を格安で治すわってそんなことされてたら私たち本来の医者が潰れてしまうんだよ」
そこまで言われてようやく気付いた。
そういうことだったのか。
俺がラストエリクサーや回復アイテムを格安で提供していたからこいつから客を奪ってしまった、と。
「それはごめんよ」
「え?」
男が間抜けな顔を作った。
俺が何を言ったのか分からない。そんなような顔をしていた。
「ごめんよって。あーそうか。俺が格安で回復アイテムを売っていたから本来の医者から客を奪ってたんだな」
現状を確認した。
なるほどそういうことだったのか。
「しかし、俺にした嫌がらせ忘れてないだろうな?」
髪を掴んで聞いてみた。
「そ、それは?」
「こういうことだよ」
組み伏せていた男の手の指を1本折ることにした。
「うぎゃぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!」
悲鳴を上げる男だがその後すぐに
「ヒール」
回復魔法を男にかけてその傷を癒す。
そうしてから拘束を解いた。
「ま、今までの嫌がらせはこんなもんて事で」
「ゆ、許してくれるのか?」
「気にすんなよ」
俺がそう言ってやると
「せ、聖者様!!!私は貴方を唯一神とします!」
そう言って泣きついてくる男だった。
「それは勘弁してくれ」
男を引き剥がす。
俺は神になれるような人間じゃない。
「ほ、本当に申し訳ないことをした」
そう言って土下座する男。
1つ聞きたいことがあった。
「動物達の死体はどうやって用意した?」
「実験で出てしまった死体を使いました」
「実験、ってのは?」
「ラストエリクサーのような道具を作れないかという実験です。その結果試作したアイテムで死んでしまった動物達がいましたのでそれを。現状エリクサーでしか治せない人達もいるので作成を急いでおりまして」
そういうことか。
別に仕方ないとは言わないが。
動物達の死体に関してはこちらで供養しておいた。
「俺に良くないイメージを持っているやつは何人いる?」
「分かりません。王都医者協会のメンバーは殆ど貴方にいいイメージを持っていないと思います」
「王都医者協会?」
初めて聞くフレーズに戸惑う。
何だそれは。
「王都中の権威のある医者が集まった団体です。今回私はそこで貴方の話を聞き何人かで結束して貴方を追い出そうとしました。貴方が王のお気に入りである事も存じていたので直接はどうも言えず」
なるほどな。そんな経緯があったわけか。
「よしきた。なら俺をそこに連れて行ってくれないか?その王都医者協会とやらに」
俺がそう言うと
「「え、えぇぇぇぇぇぇぇ?!」」
シャルと男が同時に悲鳴に似た声を上げたのだった。
※
翌日。
その王都医者協会というのは王城に本部があるらしい。
案内された俺だが早速何十人も集まっていて、医者達の視線が俺に集まっていた。
「あ、あれが黒の聖者………」
「あんな子供が………か?」
そんな声が聞こえてきた。
どうやら俺は黒の聖者と呼ばれているらしい。
ま、そんなことはどうでもいい。
「ささっ聖者様こちらへ」
男に案内された俺は前にある教壇のような場所に立つことにした。
そして口を開く。
「先ずは集まってくれて助かった」
そう言ってここに集まった奴らに目を向けた。
何人かが目を逸らしたりして露骨な反応を見せる。
「俺がここにいるということは何人かは察していると思うが俺はお前たちの企みを知ってる。それはここの横の男が吐いたからな。だが責めないでやって欲しい」
そう言って男を守るような発言をすると男は涙を流し始めた。
「な、なんと慈悲深いお方だ」
そして俺に土下座してきた。
「聖者様!私は貴方だけを慕います!」
そんなことを言い出した。
「そこで俺から1つ言いたい。ごめんよ、と。お前らの客を取ってすまなかった、と」
そう言ってから俺は続ける。
「そこで、だ」
俺はアイテムポーチから10本ほどエリクサーを取りだした。
それをゴトっと音を鳴らして机に置いた。
「ここにエリクサーがある。お前たちがエリクサーを作り出そうとしていたという話は聞いている。これを使いその生成に役立てて欲しい。俺が言いたいことは一つだ。誰かの足を引っ張るんじゃなくて全員で手を取り合って医学の発展を目指そうということだ」
そう言うと
「確かに我々は何をしていた?」
「誰かの役に立てるための医学か」
「そうだ。足を引っ張るんじゃないみんなで手を取り合うんだ」
会場内からはそんな声が聞こえ始めた。
どうやら考え方を改めてくれたらしい。
だが1人
「聖者さんよ」
俺に声をかけてきた奴がいた。
紫色の髪を短く切った男だった。
「俺もあんたの噂は聞いてるぜ、でもなあんたの実力を目にした訳じゃない」
そう言いながら立ち上がるとコツコツと足音を鳴らしながら俺の方に近付いてくる紫髪。
そうしながら他のメンバーにも顔を向ける男。
「そうだろう?お前ら?!黒の聖者さんの実力を見たことあるやついんのか?!そんな何も知らない奴の言うこと聞けんのか?!」
紫髪がそう言った瞬間。
「確かに」
「確かに我々は見ていない」
そんな言葉が聞こえてくる。
その中
「は?!意味わかんねぇし!兄ちゃんの実力は本物だ!」
「そうですよ!お兄ちゃんの実力は本物ですよ!」
「そうです!ラグナ様は凄いんですから!」
「くくく………我が弟子の暗黒究極パワーを舐めているな?」
シャル達がそう口にしているが
「俺は見てないんだよ。分かるか?」
意地悪げに紫髪が言うと黙ってしまうシャル達。
『ダンシングなんです〜踊ります〜困ったら踊れって言われてます〜』
アルスカは1人踊っていた。
「決まりだな」
紫髪がそう呟いて俺の真ん前に立った。
「実力見せてよ黒の聖者さん」




