20話 外れ枠は誰かの当たり枠で
俺がいつも通り宿で休んでいる時にそれは起こった。
『ダンシング女神ちゃんなんです〜』
いつも通りそんなことを言いながらクネクネして近付いてくるアルスカ。
「お兄ちゃん!」
『ぶべっ!』
その時ティアによって扉が勢いよく開かれて扉を叩きつけられたアルスカ。
しかし
『効きまちぇーん。私神だからw』
あんたが効いていなくても向こうも聞いていないぞ。
そんなことを思いながら聞き返す。
「一体なんなんだ?」
「そ、それが!宿の前に獣人大集合なんですよ!」
「な、何だと?とにかく見に行ってみよう」
そう返事をして俺は部屋を出て宿の外に向かうことにした。
ガヤガヤガヤガヤ。
宿を出る前から騒がしい声が聞こえてきた。
「やな予感がするな」
そんなことを思いながらも俺は外に出た。
「聖者様!」
「聖者様が出なさったぞ!」
俺が外に出ると獣人達が一斉にそう言ってきた。
何だ何だ。
「聖者様!うちの子が熱を出して!」
「聖者様!うちの子は風邪で」
「聖者様!うちの子は毒キノコを食べて!」
どうやら俺を医者か何かと勘違いしているらしい。
というより何でそんなに一斉に何かにかかったりしてるんだ?
「治しては貰えないでしょうか?私たち獣人を診てくれるお医者様などおらず、ここに私たちを診てくれる聖者様がいるという話を聞いて遥々やって来たのですが」
そういうことか。
俺の噂が王都中に広まっているらしいな。
仕方ない。
俺はラストエリクサーを取り出すと
「いったんパーティを組んでくれ」
パーティを組ませてから俺は全員に均等にラストエリクサーを振りかけた。
それで治る子供たち。
「これで大丈夫だ」
「「「ありがとうございます!聖者様!」」」
そう言ってお礼だ、と俺に皮袋を押し付けてくる獣人達。
誰もが皆笑顔だった。
ガチャのハズレ枠のはずが、そんなハズレ枠でもこんな風に誰かを笑顔に出来るんだな。
俺にとってのハズレでも誰かにとっての当たりなのかもしれない。
そう思った。
※
そうして1週間。
翌日から何処から聞いたのか俺の宿に獣人どころか人も押しかけるようになった。
どうやら腕のいい医者がいるらしいとの話を聞いて来ているらしい。
中には
「最近彼女が………」
みたいなそれ俺に話すことか?!みたいな奴もいた。
それ別のやつに話すべきだよね?!
と、一々対応も面倒になり俺は回復アイテムを貧乏な人でも買えるように低価格帯で販売を始めたのだがそれが飛ぶように売れた。
と、別にそれは特段問題では無いのだが最近妙な事が続いていた。
「またか」
「またなんですか?」
隣でシエルが首を捻る。
「今日は蛇の死体だな」
最近ポストに動物の死体を入れるという嫌がらせが続いていた。
お陰で宿の女将がうるさいのだ。
「私が犯人をとっ捕まえます」
そう言ってモップを片手に気合いを入れるシエル。
「気持ちは嬉しいが危ないことはさせられないな」
そう言ってモップを取り上げる。
俺がやるしかないだろう。
「で、でもラグナ様はお忙しい身です」
「でもシエルに危ないことはさせられない」
そう言って頭にポンと手を載せる。
「きゅー//////」
「ど、どうした??」
「はっ!なんでもありません!//////」
そう言って彼女は俺から離れていった。
どうしたんだろう。
「兄ちゃん」
その時入れ替わるようにシャルがやってきた。
「また入れられてるんだ」
「あーそうなんだよな」
さっきシエルとした話をする。
「私に何か出来ることはないか?」
「ふむ、そうだな」
盗賊は夜目が利くという。
「俺と一緒に犯人を捕まえてくれるか?きっと犯人は夜に入れに来ているはずだ」
「分かったぜ」
パアッと顔を明るくさせる彼女。
「どうしてそんなに嬉しそうなんだ?」
「ようやく兄ちゃんの役に立てるからだぜ!ずーっと世話になりっぱなしだったからな。ここらで恩返ししたいと思ってたんだ」
そういうことか。気にしなくていいんだが。
「なら、いっちょよろしく」
「おうよ!」
これで彼女ととりあえず夜ポストを見張る約束は取り付けることが出来た。
さて、後は夜を待とう。
※
そうして夜になった。
俺達は宿の屋根の上に陣取って何処から目標が来るのかを観察することにした。
宿は通りに面していて左右に道が伸びている。
俺よりは盗賊であるシャルの方が見えるはずだから彼女頼みではあるが一応俺も盗賊の心得スキルを使っておく。
「兄ちゃん目標はどっちから来るんだ」
「分からない」
「てか暗いな」
「暗いな」
スキルを使ってもまだ暗い。
彼女の方はもっと見えていることだろう。
俺のはしょせんスキルで仮の盗賊になっているだけだ。
明かりは月明かりだけ。
そんな中ひたすら監視を続ける。
「………」
その時ザッザッと足音が聞こえた。
右側の通路からだった。
「兄ちゃん」
「よしきた。どっちだ?」
足音は聞こえたが姿はまだ見えない。
「分からない。ってこれ………」
何か言いかけた彼女だが
「よしきた、右だな」
月明かりで見えた。
「え、ちょ!」
シャルが何か言っているが俺は先に降りてその人影を拘束した。
「お前か?!」
組み伏せた男に訊ねてみる。
「ぐ!何故私がいるのが分かった!」
「何の話だ?お前がのそのそ歩いてくるのが見えただけだ」
「違うよ兄ちゃん」
その時遅れてやってきたシャルがそう口にした。
その顔には驚愕が浮かんでいた。
何に驚いているんだろう。
「今のは闇の抱擁だよ。途中から姿を消して近付いてきたのに何で分かったの?というか凄いよ、今の気付くの」
その闇の抱擁というものを俺は知らないがこういう時にも俺を褒めることを忘れないシャル。
いい子だな。
俺は究極雷帝竜を1日かけないと倒せないのにそんな俺に凄いと言ってくれるなんて。
だが今はそうやってニヤニヤしている場合じゃない。
その手には皮袋が握られていたので中を見てみるとやはり動物の死体だった。
「何の目的だ?」
「手紙を読んでいないのか?」
「え?手紙?」
そう言えば、と俺は死体と一緒に投げ込まれていた手紙の事を思い出していた。
そんなもの読んでいなかったな。




