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いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
運命を憐れむ人々

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もっと愉快に

 技術都市という紫雲の荘園とも呼べる存在の本質についてメスを入れた伊野の言葉は、薊をうならせた。確かに合理的に物事を見れるであろう紫雲であれば、ばれてしまえば自らの地位を危ぶませる要因となる施設を都市に建てるはずがなく、また都市内で製造した違法な物資を外部に流出させる必要性は全くない。これは合理性に反していることであり、およそ紫雲の意思に反していることである。

 しかしながら、伊野の考察に際して薊は一つの疑問符を浮かべた。それは上級政治委員なる者たちの存在である。幾千年もの時間を生きる賢者であれば、そんな者たちの利権を都市内で跋扈させないよう事前に手が打てたのではないか、そして最悪の発想であるがその者たちを洗脳して、自らの手駒として扱えるのではないかというのが彼の抱いた疑問である。権力というの金や実績を代償として生まれる特権のはずだが、この形而上的な概念を打ち滅ぼす現実的な暴力的手段があれば、それらの権力は打破されるはずなのである。この理は歴史の中の繰り広げられてきた革命が証明したことである。したがって、この理に則した革命、権力の転覆が技術都市の運営上で生じても何らおかしくないのである。この思考の道程より、彼は極めて高位の知識と特殊な力を持ち合わせている紫雲が、上級政治委員という外の世界より招かれた一般人に付き従っているのかが、妙に引っかかったのである。

 薊の思考の内に出来た瘤であったが、これを解消するヒントが無かったわけではない。彼は第十三研究所に潜り込み、かのナマズ顔の医者と対面したときに、上級政治委員がどのような連中なのか医者から聞いていたのである。他人から聞いた話でしかないが、政府が金を得るために都市に介入し、本来は秘密都市としての側面を持たせようとしていた紫雲の案を蹴って、無理やり大々的な国家事業とした。そして、その介入した役人たちが今の上級政治委員なのであると、彼は拷問に晒された医者から聞いたのである。つまり、技術都市を創るという紫雲の目的は叶ったが、紫雲が本来やりたかったことが意図しない権力の介入により妨げられ、現在のような歪な構造の権力が作り上げられたのだ。現在も続くこの事実から察することが出来るように、紫雲は技術都市を創る以前にも政府の役人に屈している。したがって、この都市を創り上げる前後に紫雲は何らかの契約を、政府に逆らうことの出来ない契約を政府と結んだのである。もっとも、そのような愚策をあの賢人が取るとは到底思えないのであるが。

 だが、到底考えられないとしても、現実として実力と権力の関係は逆転しており、生じるはずの下からの革命は起っていない。むしろ、紫雲はこの不合理な都市構造に満足すら覚えている始末である。ことは難解であり、その契約が一体何なのか物事の全体像を掴むことの出来ていない薊にはさっぱり分からないことであった。

 見通しのつかない問題を直面した薊であったが、いくら考えたところで答えなど分からないと早々に、思考に蹴りをつけた。そして、自らのやるべきことに意識を集中させた。


「まっ、華美な装飾も悪い気はしないんだけどね」


 正直、まんざらでもない表情を浮かべながら相互的な意味合いを持つ哀愁の息を伊野は吐き出した。


「名誉はあってなんぼのもんですし、そいつが通用する場所なら散々使った方が得ですぜ」


「現金な考え方だ。けど、薊の言うことは正しいね。せっかく、こんな一生涯で持てるか持てないか分からない特権を持ってるんだから、存分に振るわなきゃね。どっちみち、高校出たらこの特権も剥奪されるんだし。腐った上層部に感謝しながら行こうじゃないか」


 胡散臭い薊の言葉に乗るように、伊野もまたあくどい表情を浮かべながら自らに付与された特権の使い方を考え直した。存分に使って、上の連中を存分に迷惑をかけてやろうという元から傾いていた思考を、より傾けたのである。これにより、伊野の脳裏には数々の悪事が浮かんだ。もっとも、伊野の考える悪事は新庄が実行している悪事に比べれば、ほんの些細なものでしかないのであるが。

 権力を扱う際に自らに課していた制限を緩和させた伊野の笑みにより、柔軟な緊張が薊にもたらされた。同時に手段を手に入れたことによって、彼は目的物に対して具体的なイメージを持つことが出来た。したがって、彼の足は軽くなり、一刻も早く、新庄の部屋に向かいたいという興奮を得たのである。


「伊野さん、それで俺が行くべき部屋は何て名前の部屋なんですか?」


 そして、薊は自らの興奮に感情を任せて、新庄の部屋の所在を伊野に尋ねた。


「五十四号室だよ。扉の横側に部屋番号が書いてあるから参照してくれよ」


「分かりました」


「なら、よろしい。それじゃあ、君のいく場所は僕らとは逆方向から向かった方が近いからここで僕らとはお別れだ。終わったらIDパスに連絡入れるから、忘れることなく出てくれよ」


「オッケーです」


 こうして三人はそれぞれの道に分かれた。

 一方は軽い足取りで、もう一方はどこか揃っていない足取りで。


ご覧いただきありがとうございます。

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