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いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
運命を憐れむ人々

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ちょっと湿っぽく

 二人の親友の口から紡がれる薊への評価に、氷花は首を傾げた。今ここで口を開けて眠りこけている少年が、自らの想っている人間からそこまで評価されるような人間だとは思えなかったのである。しかし、二人が彼のことを包み隠さず評価していることは事実であり、そしてまた彼を最も近くで見続けていた八千代もまた二人の意見に同意しているところをうかがうと、氷花は自らの彼に対する認識が謝っているのではないかと自らを疑った。もっとも、自分自身を疑うったところでそれは自らの主観的な認識であるため、これを彼らの認知に近似させることは困難を極めることであった。したがって、氷花は自らの認知を歪めることなく、自らの意思を持ちづけることとした。これは認知的な不可能というどうしようもない要因が中心にありはしたが、それ以上にこれ以上彼の背中に重責を負わせないようにするという意思もあった。つまるところ、彼に対する氷花の随分と遠回りな気遣いであった。果たして彼は、目覚めてから氷花の気遣いに気付くのだろうか。それは彼が起きなければ分からないことである。

 観測しなければ分からないことを考えても仕方がない。加えて、氷花は自らの感じていた退屈を数えられる程度の言葉のやり取りで解消することが出来た。このため氷花は大して好きでもない少年に対する話題を打ち切り、再び活字の世界へ飛び込むことが出来た。自らの作った二枚のフレンチトーストはすっかり冷めきって、出来たての美味しさを失っているところを見ると、未だに夢の世界を彷徨う二人の少年に苛立ちを覚えるが、それ以上に氷花は読みかけの本に没入したいという気分であったのだ。

 ただ、気分が変わる瞬間に限って人は邪魔するモノである。いや、これは決して意図的なモノではなく、偶発的なモノであり、氷花が自らの行動を阻害した人間に対して苛立ちを覚えることは、立場違い甚だしいことである。しかしながら、人間は大抵の問題を自らに求めず、外にいる人間に求めてしまう。この人間的な自然法則は例外なく氷花にも作用して、先ほど瑞雲の制止を無視して得手勝手出て行った三人の年上に対し、反射的な睨みを利かせてしまった。

 地上の新鮮な空気を吸い終え、肺に溜まった鬱憤を全て吐き捨てた三人は安住の地に戻ってきた瞬間、睨みつけられた。これに三人は目を見開いて驚いた。

 だが、三人は人の感情を悟るのが非常に得意な人種であるため、氷花が自らの感じた直感的な感情に従って動いていることを理解した。このため、三人は氷花より受け取った敵意を上手く噛み砕いて、理解に落とし込み、瞬時に平時の表情に戻った。

 睨んでしまった氷花からすれば、突発的に表情を変えて、また突発的に表情を変えた先輩方は非常に優れた人間性を持っているように思えた。それは現状を冷静に鑑みることが出来、そしてまた冷静に状況に対処することの出来るある種の審美眼を持っているのだから、認知的には当たり前のことであった。

 しかし、この認知は錯覚であることに氷花は気付いた。なぜなら、この地下室に再びやってきた三人組は三人ともそれなりに人格が捻じ曲がった人間であることを知っていたためである。

 ただし、人格が歪んだ三人であるが、三人は三人とも氷花の突発的な言動をニマニマと意地の悪い笑みを浮かべながら弄りまわすことは無かった。弄ぶことなく、妙に冷静な微笑を整った顔に浮かべながら部屋に戻ってきた。


「まだ寝てんのかよ。どんだけ疲れてんだよ。もう、陽も登り切ってるんだからよろっと起きた方が良いと思うぜ」


 そして、山科と伊野はキッチンに向かい手を洗い始めた。二人の表情はどこか浮かないところがあり、悲壮感を背負っているように見えた。

 ただ、二人に反して播磨はソファで眠り続ける薊の下に足を運び、その額を人差し指でとんとんと叩きながら愚痴を呟いた。もっとも、播磨の声音にはどこか安らかに眠る彼に対する羨望が含まれているように思えた。


「まだ、寝させてあげましょうよ。寝ていれば静かなんですから」


「妹の君が実兄に言うことか? でも、まあ、今は静かにしてもらってた方が良いな」


「今は?」


「そう、今は。ほら、こいつ予想外のことがあると何かと議論に発展させようとするだろ。いや、そいつは瑞雲も変わらねえことなんだけどよ」


 八千代の発言に苦笑いを浮かべた。


「けど、こいつよりかは理性的で瑞雲は良いさ」


 そして、播磨は腕を組みながら瑞雲に視線を送った。ヴァイオレットの美しい輝きに、瑞雲はぺこりと会釈をした。


「だからよ、瑞雲。一つだけ報告だ。さっき、お前さんが俺に聞いてきたことの答えさ」


 瑞雲が会釈を終えると同時に、播磨は薄っすらと笑う。これに瑞雲は固唾を飲む。


「俺たちはもう一人片付けなきゃいけねえ敵が出来た。ただ、標的としては変わっちゃいねえからそこだけは安心してくれ。ただし、そいつもまた率先的に片付ける対象だ。名前は五篇杏璃、イカレ野郎だ」


ご覧いただきありがとうございます。

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