表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
運命を憐れむ人々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

895/1366

あいつの恐ろしさ

すいません。

私事により今後、十月中は不定期更新となります。

 伊野が正直に紡いだ情報に、八千代は目を見開いた。しかし、言葉に関する反応は目を見開くだけであり、それ以外は特に何も反応することは無かった。伊野はあまりにも動揺の体裁を見せない彼女に、逆に驚きを受けた。それは本来、彼女が受けるべき驚きの作用を貰ったような感覚である。ただ、一切動揺していないよう見える彼女の様子は伊野の目には怪しく映った。もちろん、一瞬の感情を切り取ったまでの反応でしか無いし、そこから得られる情緒的な動きには限度がある。とどのつまり、伊野が彼女から得たモノのは写真一枚程度の情報でしかない。したがって、現在、伊野が彼女の情動に対して訝し気な視線を向けていることは、自分自身の動揺を肯定する工程に過ぎないのである。もっとも、伊野自身、自己肯定をしなくとも恥じらいを覚えずに済んでいる。伊野の感情の動きは、全て伊野に帰着しており、他の人間を通して得られた客観的な評価は、現状の伊野の感情には含まれていないのだ。しかし、それでも伊野は自分が初めてこの情報を聞いた時に自らが感じ得た衝撃を彼女が被っていないことに、何か苛立ちを覚えたのである。先輩としての自尊心が傷つけられてしまったためである。

 自らの自尊心を保つために、自分のことを訝しんで来る伊野に対して、八千代は悪い感情を抱かなかった。それ以上に、彼女は伊野からもっと紫雲龍鳳に関する情報を聞き出したかったのである。このため、彼女は伊野に毅然とした態度を示すだけで、伊野の大人げない表情が自らに向けてくる刃に対して感情を示すことは無かった。この淡白な彼女の応対は、さらに伊野の感情を逆撫ですることとなった。

 しかし、感情を煽られたところで伊野が感情を爆破させることは無かった。もちろん、大人げない苛立ちは止まることなく、伊野の内側に蓄積されていった。そして、伊野は自らの内側で積みあがる苛立ちに自覚的であった。したがって、彼女は自らの感情に思考の主導権を奪われることなく、理性的な判断をすることが出来た。すなわち、自らの知っていることを全て八千代に紡ぐことである。


「紫雲龍鳳と戦う理由が君は知りたいかい?」


「はい」


 このため、伊野は自らの感情を一度落ち着かせるために八千代に向けて、答えの分かり切った問いかけを投げかけた。もちろん、彼女は伊野の想像通りの回答を発した。


「なら、教えてあげよう」


 そして、八千代の回答を聞いた伊野は、彼女と同じように腰に手を当てて、若干胸を張った。ほんの少しでも伊野は自らが先輩であることを示したかったのである。後になれば、恥となることは分かっていたが、それでも伊野は見せかけの威厳を欲したのである。


「実は、信じられない話かもしれないけど紫雲龍鳳って人間は、人間じゃないんだよ。非科学的なことだけど、本当のことらしいんだよ。播磨は数千年を生きる化け物と言っていたよ。直系の子孫が言っていることだろうから間違いないことだよ。絶対にね。そんな僕たちの数百倍の年月を生きている人間? は、どうやらこの世界を崩壊させ居たらしいんだよ。それはあの日、あの時、新庄とあいつとの対話で確実になったことだよ。あいつらは、何かしら対等の契約を結んでいるらしいからね。大体にして、僕たちが今ここでのんびりと休むことが出来ていることはあいつらの契約のおかげなんだよ。じゃなきゃ、あの時、僕らは全員抹殺されていただろからね。例え、播磨や山科、楚日が居たとしてもあの二人を同時に相手にすることは不可能だよ。新庄は言わずもがな、紫雲を相手にするのは誰であろうと無理だよ。あいつは勝つことは誰にもできない。なんでかっていう理由を理論的に言えないのが、酷く虚しいけど、あいつには絶対に勝てない自信があるよ。それこそ、奇跡が起きない限りね」


 見せかけの威厳を欲した理由は、伊野の様を客観的に見ることが出来た八千代にはすぐわかった。伊野はこれから語る情報の中に含まれる自らの尊厳を傷つける情報に対し、恐れを抱いていたために、その予防線として無意味な尊厳を自らに付与したのである。これを認知した彼女は、息を飲み、伊野が頑張って先輩としての体裁を守ろうとしていることに一種の感動を覚えた。だが、それ以上にこの都市の中で、いや世界の中で最高の力を誇っており、この都市が創るにあたって掲げられた大義を体現する存在ですら敵わない紫雲龍鳳という存在に、彼女は恐れを抱いた。

 しかし、その恐れはあくまでも絶望的な恐れではない。十死零生の恐れではなく、大きな希望をまだ自分たちは持っているということが前提の恐れである。したがって、彼女は伊野よりも現状に対して楽観的な視点を持つこととなった。だが、これは決して紫雲龍鳳という存在を侮っている訳ではない。侮っていないが、それでも彼らならば無事にやってのけるであろうという確信を持っていたために抱いた楽観的な視点である。


ご覧いただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ