朝、早々の騒ぎ
「お前、何だその古くてダサい挨拶は?」
「あら、これアタシのお気に入りの挨拶なんだけどそんなに変かしら? 薊はこういってるけど皆はどう思う?」
秋等は口調に似合わない屈強な体で不服そうな顔をしながら後ろにいた馬鹿どもに秋等は質問を投げかけた。
そんな不満げな顔をされてもよ、ダサいものはダサいんだからさ。大体もう使われてない挨拶って言うのは時代に淘汰されてきたものなんだから使う方がおかしいんだよ、考えて見ろよ古文に出てくるような言葉で挨拶するやつなんて現代に居ないだろ? こんなの暴論かもしれないけどさ。普通の感覚を持ってる人間だったらこいつを良いと思わねえよ。
薊は心の中でちょっとした講釈を垂れていた。
そして質問をされた馬鹿どもは馬鹿どもで困惑していた。それもまあ分からなくもない。なんたって朝登校してきてそうそうにこんな図体の大きいちょいと黒光りした体の訳の分からない銀髪野郎に疑問を投げ付けられたのだから。
しかし中には臆することなく答える者もいた。いや憶するなんて大それた言葉を使うほどではないと思うが、つまり彼らは堂々と答えたのだ。
その者とは群衆の前に居た二人の人間であった。ちなみにこいつら秋等ほどの特徴は無い人物なので詳しくは明かさないでおこう。
「いや、俺も薊の言うとおりだと思うぜ。その挨拶は流石にないと思いますわ」
「俺もそう思う、マジで」
回答を聞くと彼は自分らしい大げさな態度で驚いて見せた。
「まあ! そんなこと言っちゃうの! レディーには良くないことも良いって言わなきゃダメって親に習わなかったのかしらあなたたち、だからガールフレンドの一人も出来ないのよ!」
秋等は一番言っていけないことを馬鹿どもひいては薊に言ってしまった。男子だらけの空間において最も人を傷付けてしまうことを。
そしてアホたちは頭の中で思ったことを同時に大きく口に出した。
「「「「お前に言われたくねえよ! このカマクソ銀髪筋肉ダルマ!」」」」
「あらあらら? アタシにそんなこと言っていいのかしら? アタシ一人でもあんた達倒せるかもしれないのよ?」
秋等は言われたことが頭に来たのか煽るように群衆に言葉を投げかけた。
野郎、ぶっ飛ばしてやろうか。
「「「「「ああ! やってやら! この野郎!」」」」
「ええ! やってあげるわ! あなたたち、二度とアタシに暴言を吐けないようにしてあげるわ!」
今この2年B組の教室に戦いが始まろうとした。が、ここで一人この酷くどうでもいい喧嘩を諌める者が間に入った。
「君たち、朝から喧嘩とか馬鹿かい? こんなカマ野郎に本気になるなんてアホだよ」
そいつは顔立ちの良い、我が悪友であった。
ふざけやがってこの野郎、こいつもぶっ飛ばしてやろうか。俺は、いや俺たちはこいつのことが許せないんだよ! あとお前みたいなイケメンも大っ嫌いだ。
薊は心からの呪詛を思った。
「瑞雲てめえ! 俺たちはこいつを殴らねえと気が済まねえんだよ! あとどうせならお前のその嫌に整った顔も殴りたい!」
俺が一つ叫ぶとそれに続くように馬鹿たちもあの勇気ある二人を筆頭にしてヤジを飛ばしてた。
「そうだこの顔だけイケメン野郎が!」
「ふざけんなよ! このクール気取りが!」
「「「そうだ! そうだ! エセイケメンが!」」」
そうだお前らもっと言ってやれ! というかこいつらなんでこういった時にしか本気になれないんだろ、俺もそうだけど哀れなもんだ。
一人達観しているとかっこよく登場した瑞雲は俯き、肩を震わせた。
「てめえら! 人がせっかく諌めてやろう思ったのによ! てめえらがその気だったら僕もやってやるよ!」
瑞雲は顔をその俯けた顔をあげると自分を喧嘩に参加する旨を叫んだ。
「あら! あなたも参加するの? なんだか楽しいことになりそうね!」
「良し! てめえらやるぞ、第一目標はあの筋肉ダルマだ。あの細マッチョエセイケメン野郎瑞雲は後回しでいい、あんな奴どうにでもなるからな!」
「「「「分かったぜ! 大将!」」」」
そうして再び喧嘩の火蓋が切られようとした。が、再びそれ止める者が現れた。
そいつは教室のドアを開ける際に出せる最大の音を出して現れた。
「貴様ら! 早く席に着け! もう予鈴は鳴ったぞ! 全くお前らはいつになったら小学生から成長するんだ」
「「「「「えーい」」」」」
そいつは担任だった。
やつは大きく呆れたようにそう言った。
俺たちはその言葉を聞くと今までの騒ぎがどれだけ馬鹿だったのかということを悟り、さっきまでの覇気がどこ吹く風、早々に席に着いた。
「はあ、全くお前らときたら全くやる気が微塵も感じられないな」
うっせえバーカ。このクソ先公、お前ごときに何言われようがやる気なんて出ねえよ。
薊はいかにも子供っぽい悪態を心の内でついていた。
でも、こんな悪態も昨日行ってた通りあの先公にはお見通しなんだろうな、じゃあなんであいつはあの態度を変えねえんだよ。クソが、腹立つぜ。
「まあ良い。まずは連絡だ、昨日行った魔術検査の結果が出たので黒板に張っておいた後で気になったものは見ておくといい。ついでだから言っておくがこのクラスで最も優秀だったものは瑞雲武彦だ。まあお前ら全員ドングリの背比べだったけどな。あと当日欠席した狩谷は魔術検査を明日やってもらう、いいな狩谷」
桜花はそういうと秋等の方へ鋭い視線を送った。
「はーい、分かったわ室ちゃん先公」
また秋等は独特な言い回しで返事をした。
「貴様、その言い方を変えろと何回言ったら分かるんだ。まあでも貴様がその呼び方をしても何故か腹が立たないから別に良いか。いや、どう考えても良くないだろ!」
あのクソ先公なにノリツッコミしてんだ。まさか転職してお笑い芸人にでもなるつもりかそれはやめといたほうが良いぜ、全然面白くないから。ほらクラス中シンとしてるだろ、向いてないって。お前が向いてるのは為政者くらいだよ。でもそれすらも俺には向いてないと思うがな。
そんなことを考えると桜花はハッと冷静になり自分が何をしたのかを理解すると年相応の若い淡い朱色を顔に浮かべ一つ息をのんだ。
「っんん! えっとそうだ何か他に連絡は……、ああそうだ! ちなみに今日、喜多は地調不良で欠席だ」
桜花がその一言を言うとクラスはドッと驚きに包まれた。なぜならあの馬鹿は一回も休んだことが無かったからだ。馬鹿は風邪をひかないという言葉を体現したような男だったからだ。
「まあ、騒ぐな。私も聞いたときは驚いたからな。良し、これでホームルームを終える。解散!」
彼女は恥ずかしさからかすぐに教室から出て行った。
そして俺は奴が出て行ったことを確認すると瑞雲の座席へ向かった。
「おい、瑞雲」
「うん? なんだい君」
瑞雲は窓辺の席で黄昏ていた最中に声を掛けられたことで驚いのか、その表情はムッとしたものであった。
「まあ、そう怒んなよ。朝のことは謝るからさ」
「いや、よせやい。あれは僕も悪かったからね。で、何か用事でもあるのかい?」
「おうそうだ。今日の放課後喜多の見舞いに行くぞ」
「おっとそのことかい? 実は僕も昨日あいつから連絡が来たから行こうと思ってたんだよ。それにしてもなんだい? 君らしくないね何時もの君だったら鬼の様に着信を入れて風邪を悪化させようとするくせに。僕の時もそうだったし」
瑞雲は怪訝な顔をしながらそう茶化すように言った。
「いや、それとこれとは別だよ。俺とお前が違うように、お前とあいつも違うんだ」
「なんだいそれ? まあいいや、分かった一緒に行こうか」
「ありがとさん、あとそうだついでに狩谷も誘っておいてくれやい」
「狩谷も?」
「そうだ、誘っておいてくれ。頼んだぜ」
俺は疑問に思った瑞雲を無視してもう少しで始まる長い授業の準備をするため己が席へと向かった。
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