発表
ふう、今日は遅刻せずに学校に来れたぜ。
いつもだったら遅刻ギリギリに到着してるけど伊野さんの登校時間に合わせたおかげで余裕をもって登校できた。というか第一技術学区の方が第十技術学区よりも始業時間が早いのか、こんなところにも意識の差があるなんてな不思議なものだよ全く。
本当にこの調子だったら毎日伊野さんが家にいてもらった方がこっちとしてはありがたい、なんたって遅刻がなくなるからな。いや、でも遅刻しない俺とか本当の俺か? それってもしや俺のキャラとして大事なものを打ち消してしまうのでは?
なんて心底どうでもいいこと考えながら俺は昨日掃除していないせいか少々埃臭い静かな廊下を歩いた。
「というか誰もいないな、あと始業まで五分だぞ。普段遅刻している俺が言えたことじゃないんだけどさ、本当に大丈夫なのかこの学校? 人っ子一人いねえじゃねか」
今現在、廊下を歩いている限り、人影は一つも見つからなかった。加えてあの馬鹿どもの賑やかな声も全くしなかった。しかしこれもこの学校にとっては日常であった。いや普通に考えて学生がこの時間になっても彼以外いないのが日常というのは大問題であろう。が、この愛すべき落ちこぼれたちしかいない学校にとっては全然問題ではないのだ。むしろ教師の中には馬鹿どもが来ない方がありがたいと思っている者も多い。はたしてそんな心持で教育をしている者は教育者と呼べるのだろうか。
それでもここは学校である、学び舎である。なので愛すべき者たちは来るのである。お上が腐っていても己に決めれらた運命を全うするために。
「まあいいや俺が心配しなくともあいつらはしっかり来るだろ」
心配無用、というか心配するだけ無駄だろ。
こういうどうでも良いことに頭を使わないでもっと勉学に頭を使えってあのクソ先公は俺にいつも言ってるしな。俺ってあの野郎の言葉を憶えてんのか驚きだよ。でもあいつも俺の内情を良く知っていたしなもしかして俺とあいつって相性がいいのか? うん、考えて見たけど全然相性が良くねえやむしろ気持ち悪いわ。何が相性が良いんだよ、疑問に思った俺が憎いよ。なんで朝からこうも変な気分にならなきゃなんだよ!
彼は少しの驚きと憎い相手のことを思いながら強めに教室の扉を開けた。
教室を開けてみると新鮮な空気がそこにあった。
いつもなら充満している男の匂いが無く、それに替わって穏やかな春の匂いにが充満していた。ひたすらに穏やかである、青春という激烈な時期には見合っていない空気である。
また彼がいつも見ている込み合った馬鹿どもも誰ひとりいないのでがらんとした例えるならおせちの入っていない重箱のような寂しい風景であった。
彼はその光景があまりにも新鮮だったのか扉から片手が離れず呆然とした様子で目を見開いたまま突っ立った。
「たまにはこうして早く学校に来てみるのもいいのかもしれないな」
誰もいない空間で一つ呟いてみた。やけに響く、不思議なものだ。いつもならかき消される呟きも誰もいないとこうもはっきりと聞こえるのだからな。取り敢えず席に着くとしますかな。
彼はそのまま席へと歩いて行った。しかしふと一つ黒板に大きく何かが張り出されているのを見つけた。
なんだ、こんなに大きく張り出して?
やはり人というもの何か気になったら確認したがるもので彼は席に着くという目的から張り出されているもの見るという目的へと変わった。
「お! 魔術検査の結果じゃねえかよ、今年は一体誰が使徒なのかしら? まあ伊野さんは自分から今回もばっちり使徒だって言ってたから分かるけど他の人はどうなってんだろ」
『魔術検査上位十二名 聖十二使徒をここに表す
第一位 ペトロ ”新庄狭野” 三年
第二位 ヤコブ ”楚日白檀” 三年
第三位 ヨハネ ”月山菊祥” 三年
第四位 アンデレ ”諸橋彰” 三年
第五位 フィリポ ”五篇杏璃” 三年
第六位 バルトロマイ ”吉備薫” 三年
第七位兼第八位 マタイ ”不動景乃” 一年
第八位兼第七位 トマス ”不動陸奥” 一年
第九位 アルパヨ ”日光侑那” 二年
第十位 タダイ ”伊野上夜” 三年
第十一位 シモン ”火野雅人” 三年
第十二位 マタイ ”氷花美紀” 二年
また今回は特別に措置として第七位及び第八位は兼任とす』
「去年とほとんど変わってねえや、代わってんのは七位と八位と十二位だけじゃん。そうすると去年の二年生と一年生って皆優秀だったんだ。しっかしなんだ七位と八位の兼任って言うのはさ、苗字と学年だけ見るとこいつら双子か? 二人して優秀とかすげえな。どんな才能持ってたら先輩押さえてそこに割り入れるんだよ」
薊が感嘆としながら魔術検査の結果を見ていると廊下からがやがやと相変わらずな馬鹿たちの賑やかな声が聞こえてきた。中には女性的な口調の馬鹿もいた。
おお、来やがったかあいつら。あと秋等もしっかり来たみたいだな、しかしあいつの声って良く通るんだな喜多と同じくらい通るんだな。
「うぃーす」
薊は一つやる気のない挨拶を御一行にした。
するとやはりやる気のない挨拶と対応したやる気のない挨拶が返ってきた。
ただ一人を除いては。
「「「うっす」」」
「おっはー! 薊!」
古ッ! 何百年前の挨拶だよ。
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