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いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
胸いっぱいの憎悪を

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呆れた男ども

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 せせら笑いとともに吐き出された播磨の暴力宣言は、女性二人の心に張り巡らされた恐怖の緊張を一気に弛緩させた。その動機となったのは、氷花にとっては呆れであり、八千代にとっては驚愕の感情であった。もちろん、両者ともに播磨がこのような性格であり、自身で宣告した行動を一切の躊躇もなく実行できる人間であることを知っていた。自己利益と自らの友人を守るためであれば、あらゆる蛮行を犯せる稀有な人間であると理解していたのである。だからこそ、その言葉通りのことを実行するという緊張が両者には走った。そして、この無暗な破壊行為を止めなければならないという責任感が二人には沸いたのである。

 少年らしい暴走を止めるために湧き上がった理性の責任感は、それまで抱いていた死に関する緊張感とはまるで性質が違う。そこには喧嘩を仲裁するための属性が宿っており、この属性には彼らが追い求めている生活が滲んでいた。いわば、朗らかな闘争の匂いが充満していたのである。それは非日常的な緊張を忘れさせ、一時的にではあるが二人を和やかな日常へと回帰させた。したがって、空間に関して強張っていた二人の顔は一挙に弛緩され、想い人の友人に向ける表情、兄の友人へと向ける表情へと変貌したのであった。


「黄金の賢人。賢い人っていう称号を持っているんだから、もうちょっとまともなことを言ったらどうなの? 施設を壊すなんて私たちの計画そのものを破綻させかねないでしょ」


 播磨と瑞雲は、体が強直していた二人からそれが消え去ったことを表情や仕草、ことさら氷花のお小言から捉えた。ここに二人の、というよりは播磨の仕事は成就し、そのために暴力的な少年は自慢げに微笑を浮べた。傍らに立つ少年の表情に際して、異様な興奮に駆られている瑞雲もまた氷花と同じような表情を示した。呆れの溜息とともに、瑞雲はその緩やかさ一つな強張った表情にたわみを作り出した。

 同様の精神を宿していると考えていた者の応対に、播磨は眉間に皺を寄せた。氷花と八千代がそのような反応を示ししても、播磨の心持ちを煽り立てることはなかった。けれども、自らと道を共にしていたはずの男が勝手に道を外れて、自分の一人で歩もうとすることは苛立ちを煽り立てた。それはどれだけ程度が低くとも裏切り行為なのだから。微細な裏切りに際して、播磨は瑞雲の脇腹を小突いた。これに対抗するように瑞雲もまた播磨に呼応するような応対をして見せた。この小さすぎる小突き合いの応酬は、悪化することもなければ、改善されることもなく、ただただ播磨にお小言を言い続ける氷花を前にして繰り返され続けた。

 少年らの可愛らしい行動に説教を担当していた氷花は怪訝な表情を示した。自身の言葉を無視して、本当にくだらないお遊びに興じる男どもに対して憤りが生じたのである。そして、この呆れと憤りが混じったために氷花の表情は再び凝り固まってしまったのだ。

 真正面の美少女の纏う雰囲気が、お遊びの怒りから真剣な怒りへと変遷したことに二人の男どもは行為を即時停止させた。そうして、艶やかな水色の髪を耳にかけてジトっとした双眸をこちらに向けている少女に微笑を注いだ。

 氷花は微かに緩んだ表情を示した瑞雲に関しては感動を覚えた。親友が殺されたことで感情が定かでなくなってしまった想い人が、かつての柔らかさを一部分的にでも取り戻した様が恋慕の情を揺さぶったのである。ただし、それによって顔を赤らめたり、目を潤ませたりはしなかった。これは瑞雲の隣に立つ、鬱陶しいほど清々しい満面の笑みを浮かべる播磨がいたからだろう。純粋な感情は、苛立ちによって中和されたのである。

 氷花がキッとこちらを睨みつけてくることに播磨は若干の恐怖を覚えた。生命に関する恐怖ではない。播磨の覚えたそれというのは気高い少女の機嫌を損ねてしまった自分という存在に対する恐怖であった。


ご覧いただきありがとうございます。

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