幕引き
アトランテと呼ばれた女性は杖を構え魔法を詠唱し始めた。それを見て不呪王はすかさずアトランテの懐に飛び込んだ。まるで瞬間移動でもしたかのように。そして地面に両手をついた。
「朽ちろ」
アトランテの四方から漆黒の荊が地面を突き破りアトランテの身体を貫く。
しかし、次の瞬間にはアトランテの身体は木の幹のようになった。
「遅い、アトランテ様の本体はもうそこにはない」
声を発したのはカグヤだったが、雰囲気が前とは別人だった。カグヤはレイピアを鞘から引き抜き不呪王に向かい突き立てる。
咄嗟に不呪王は避けたが、カグヤの攻撃は止まない。不呪王の後を追うように猛スピードで距離を詰める。ひたすら不呪王を斬りつける。
不呪王は漆黒の荊を用いてガードに徹し反撃のチャンスを窺っているが、なかなかそのチャンスは訪れない。それどころか反撃などさせないとばかりにカグヤの攻撃スピードが上がっていく。
だがそれでも、カグヤの一瞬の隙を突きカグヤの背後から這い出た荊がカグヤの身体を貫いた。
「所詮王に仕える程度の小物。王である我に歯向かうなんて早すぎたのだ」
すると、カグヤはニヤリと笑った。途端、不呪王は瞬間移動でカグヤとの距離を大きくとった。
「何がおかしいのだ」
「いえ。ただ、少々貴方があまりにも必死だったので。私のような小物に対して」
不呪王はとどめをさすようにいくつもの荊を操りカグヤの身体を串刺しにした。
不呪王とカグヤの戦いをソウタとユーティリアは黙って見ているしかなかった。
「あれって本当にカグヤだよね ?」
ユーティリアは信じられないものでも見たかのような目でソウタに尋ねた。
「どうだろう。見た目は確かにカグヤだけど、雰囲気や喋り方がまるで別人だ。それに、レインは一体何者なんだ」
ソウタは姿を消したレインを探したが、近くにはソウタとユーティリア、そして不呪王とその不呪王に串刺しにされたカグヤしかいなかった。
「カグヤ、レインの姿が変わった後からレインのことをアトランテ様って言ってたよね」
「あぁ、不呪王はカグヤのことを王に仕える小物って……そういうことか」
カグヤを串刺しにした不呪王は再びソウタ達に狙いを定めた。
「とんだ邪魔者が入ったがそれはもう消えた。後は貴様ら人間を皆殺しにして終わりだ」
不呪王は再び詠唱を唱え始める。今度のは今までの物とは違い自身の前に黒い鏡のような物を造り出した。
「暗転死塵」
鏡の中を黒い渦が巻き始める。
「ソウタ、どうするの !このままじゃ街ごと」
「落ち着いて、多分あの攻撃は俺たちにも街にも当たらない。なぜなら」
「終わりだ」
不呪王は街に向けて手を差し出した。鏡の中から人の形をした大量の怨霊が飛び出してきた。ソウタ達の前まで来た瞬間、一人の人物がソウタ達の前に立った。
「カグヤ !」
カグヤは手に持ったレイピアを地面に突き立て胸の前で手を合わせた。突如カグヤの前から街にかけて光り輝く大きな薄い膜が出来た。不呪王が召喚した怨霊達はそれに沿って上に上がりやがて消えていった。
「どういうこと ?」
「この魔法の発動には、術者と従者が必要なの」
声を出したのはいなくなったはずのアトランテだった。
「レイン、どうなっているか説明して。貴女は一体何者なの」
「ユーティリア、彼女は多分……」
「その説明は私がするわ」
前にいたカグヤが振り返った。
「アトランテ様は北の魔王、そして私は魔王に使える従者。華纏王、それがアトランテ様の呼び名」
「ソウタ、それにユーティリア今まで騙していてごめんなさいね。これも全て不呪王を討つための作戦だったの」
アトランテは深く頭を下げた。それを見てカグヤも一緒に頭を下げた。
「レイン、一つだけ聞かせて欲しい。どうして魔王である君たちが戦うんだい ?本来なら魔王同士、街を狙うものなんじゃないの ?」
ソウタの質問にアトランテは下を向いた。
「それは……」
突如大きな音を立ててソウタ達と街を覆っていた光の膜が光の粒となって散っていく。そこには怒り狂い着ていたフードがドス黒い色へと変わった不呪王が立っていた。
「アトランテ、何故我の邪魔をする ?」
不呪王が静かに問う。その問いにアトランテは黙って不呪王を見ているだけだった。
「答えろ !」
不呪王はアトランテに向け漆黒の波動を撃った。しかし、その攻撃はカグヤによって阻まれた。
「自分が消される理由さえもわからないなんて随分と落ちたね」
カグヤが煽るように言った。
「貴方の最近の行動は目に余るものばかり。貴方は魔王の枠から外れて貰う、かの御方からの命令よ」
アトランテは杖を突きつけた。
「我が何をしたという。まさか、人間を殺したからなんて言わないだろうな。それならば貴様らも同罪なは……」
「他の魔王の領地を侵略、そして同胞を殺した罪よ。見に覚えのないなんて言わないわよね」
「な、なぜ、それを」
不呪王は驚愕の表情をして一歩引いた。
「ソウタ、奴を倒すのを協力してくれる ?そうすれば、私とアトランテ様はここから去るわ」
街の方には傷ついた兵たちが戻っていっている。最後尾にはレオやなるべく戦闘に長けた者で固められ何体かのスケルトンと戦っていた。
「いいけど、街に危害は加えない ?」
「加えないわ、今回はその為に来たんじゃないんだから」
カグヤは手に持ったレイピアを構える。ソウタも片手剣を生成する。
「ユーティリア、援護は任せる」
ソウタは不呪王に向けて突っ込んだ。カグヤも後を追うように走り出す。
「人間と従者風情が我を甘くみるな !」
不呪王はソウタとカグヤに手を向ける。
「黒死の闇烈」
黒く禍々しいつららのようなものがいくつも形成されすぐさま飛んでいく。
「ミラー・キャンセル」
ソウタとカグヤの前まで来た攻撃は目の前で別空間へと飛ばされた。
「アトランテ !」
アトランテはすでに別の詠唱に入っていた。
「天界の師よ、悪しき者を貫く武を私に、天神の殺り手」
詠唱を終えたアトランテの手には杖でなく3メートルはありそうな光り輝く槍を持っていた。
「これで終わり」
アトランテも不呪王との距離を詰める。
不呪王は即座に大量のアンデットを生成、漆黒の荊を操りなんとか3人の攻撃を捌こうとする。
しかし、アンデットはアトランテの槍による攻撃でその大半が光の粒子となって散る。仮にその攻撃を逃れたとしてもソウタとカグヤにより次々と蹴散らされる。
「邪魔だ !」
荊がアンデットごと貫きソウタ達に向かっていく。そこで、アトランテがソウタ達より少し前に出ておよそ10本近くあった荊を全て捌ききった。
「貴方の攻撃を捌くなんて赤子をあやすよりも簡単なことよ」
「うおぉぉぉぉ !」
不呪王は咄嗟に亜空間から大剣を取り出す。しかし、もう遅かった。
「薔薇狂想曲」
「これで終わりだ !」
不呪王が剣を振り下ろそうとした時にはもうカグヤの薔薇の蔓に見える斬撃とソウタの生み出した十字の斬撃が不呪王の身体を斬り裂いていた。胴体を斬られた不呪王は一言も発すること無くその場に倒れた。
生き残った4人の姿を明るい夕陽が照らし防衛戦は不呪王討伐により幕を閉じた。




