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欠陥魔族生涯課題  作者: ほーぷ
放たれる刻
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僕の「実力」は

 魔族の中では、高い戦闘力を持つことで知れ渡っているエリンシル家。代々より魔術方面で数々の戦果を挙げており、互いの領地を脅かすような争い事が起きた際には、これほど頼りになる戦力は他にない、と言わしめたほど。


 しかし最近になっては、この一帯を統治する新王が穏健な政治を行った影響か、血みどろの戦争事は極限的に少なくなった。互いを尊重し合い、有事の際には出来るだけの支援をする。また過激な集団が現れた際には武力で以て対抗する――――エリンシル家はその一役を買っている。


 故に鍛錬は怠らない。いついかなる時であっても、有事の際に己の任を全うするため。先駆けて武を奮わねば当家の恥だ、とはエリンシル家の現当主であるゴース・トラン・エリンシルの言葉だ。


 それは人間の歳で言えば少年の類に入るアルジエーネにも課される役であった。本来であるならば15歳になったアルジエーネは立派にその力を振るうべきだと、周りから急かされる。代々から若年でありながらも恐るべき力を発揮すると伝えられていたために、それが当たり前だと周りが思っている所為だ。


 ――――しかし、実力が伴っていなければ前に出ても無謀を晒すだけ。誰しもがそう思っている、そしてアルジエーネ自身も思っている、故に恐れているのだ、周りの声を。


「・・・そうだ、そのまま集中してみろ」


「・・・・・・・・・・・」


 壁の随所に古い近衛隊が装着していたらしい、錆び付いた鎧のモニュメントと、いくつかの剣と槍が飾り付けられ、後はただ冷たい床と天井が広がっているだけの修練場の一点で、2人の魔族が立っている。


 アルジエーネは従者からの伝言を聞き、修練場に来てからというもの、魔術の鍛錬に励んでいる。エリンシル家のなお一層の成果を上げることを考えれば、自身もやらなければならないという責任感が日に日に増してくる。しかし劣等感の方が徐々に勝りつつあるのが、最近の心境だ。


 隣にいるのは、エリンシル家の長男であるグランバート・トラン・エリンシル。


 アルジエーネより頭1つ背が高く、薄い青色の長髪を持つ。彫りが深く鋭い目だが、今はそこに威圧するような力強さはない。刺々しいデザインの鎧の上から金色の刺繍の入ったマントを羽織っており、腕を組みながらアルジエーネの修行の成り行きを見守っていた。


 その傍らには、大きな槍が地面に突き刺さっていた。大きな穂先は突くだけでなく斬ることも可能としており、長男のグランバートは魔術家系であるエリンシル家の中では特異である武闘派。無論魔術も使えるので、その戦闘センスは極めて高いと周囲からの評判も厚い。


 そんな将来有望の兄直々に魔術を教わっているのだから、一定の成果を上げたい。焦りのようなものを感じながら、グランバートの言う通りにして現在進行中の魔術をせめて発動はさせたいと、集中するも・・・・・・。


「・・・・・・・・・ッあ・・・!」


 胸がとたんに苦しくなり、腕が痺れる。専門家が言うことには魔術の不可に耐えられなくなったせいで、この症状が起きるのだとか。あまりの苦痛に集中は途切れてしまい、いい線まで行った魔術の行使も中断せざるを得なくなった。


「やはり、ダメか・・・マナは感じられるのだから、形にはなると思ったんだがな」


「・・・・・・・・・兄さん、ごめん」


「いや、いいんだ。ゆっくりと成長していこう。納得のいく結果が出るまでは、俺も付き合うと決めたからな」


 まだ苦痛の収まっていない胸を抑えながら、アルジエーネは申し訳なく思う。謝罪の言葉は並べるものの、兄の顔が今どうなっているのか怖くて直視できない。何年も魔術の鍛錬をしているというのに未だ目立った成果を上げていない分、失望している表情を見るのが怖い。


 そういう顔をする人ではないことも分かっているのだが、柔和な顔をして励ましてくれる兄の顔を見る度に無意識に自分を責め立ててしまう。


「しかし、三節ルーンでも不可能とは・・・医療科の言う通り、中々に厄介なんだな」


 アルジエーネは、全く魔術が使えないわけではない。しかしエリンシル家において”魔術が使える”という定義は、少なくともその発動で一定の戦果を挙げられることを意味する。


 基本的な知識も備えているし、魔術の発動に必要であり、万人の体内に蓄えているマナもアルジエーネの身体には蓄えられていることも、エリンシル家が持つ技術を以て判明させた。魔術を行使する材料は整っているのだ。


 しかし、満足に魔術を発動できない。その原因は医療班によって”不明”であると診断され、類を見ない症状だという。アルジエーネが心置きなく魔術が使えるように、既に5年もの研究が進んでいるのだが、一向にその原因を突き止めることは出来でいない。


「・・・それでも、やらなきゃいけない・・・」


「・・・あぁ、そうだ。いつかお前と活躍出来ることを楽しみにしているからな」


「・・・・・・・・・うん」


 静かにアルジエーネは頷く。そう、原因が分からないと言って立ち止まっているのも無駄になるとも感じているから、鍛錬はする。実際、魔術の発動までに必要な工程のクリアは、少しずつ出来るようになってきているのは事実。それでもまだ、発言までには至っていないだけで。


 三節ルーンというのは、所謂魔術の初歩の初歩といったところ。火の玉を投げ飛ばしたり、風を起こしたりする程度のもので、ある程度魔術を極めたものから言えば”妖精のいたずら”程度の効果しかないもの。


 それですらこの苦戦。上級の魔術を使えるようになると四節、五節とルーンの組み合わせが増えていくわけだが、今のアルジエーネには想像もつかない次元になってくるから、まだ考えなくてもいい。とりあえずは基礎が固まっていなければそこに至るなど、到底不可能なのだから。


 ルーンとは言語に相当するものだ。エリンシル家によらず、魔族の世界では魔術は”目に見えない異形が起こす奇跡”とされており、異形と自分達は互いに干渉できないが、ルーンでなら命令することが出来るとのこと。


 体内のマナを寄り代とし、ルーンとして異形に語りかける。そうすることで異形はルーンに乗せられた事象の期限を読み取り、複数のルーンを噛み合せた現象を対象に引き起こすのだという。あくまでも魔術の現象を起こしているのが異形である、というところが魔族特有の思想だ。


 人間だとまた違った思想らしい。アルジエーネはせめて知識は蓄えていなければと書物を読みあさった事があったが、人間が行使する魔術については如何せん本が少ないために中々知る機会はない。思想や使う魔法といった、表面的な事柄しか書かれていなかったが、魔族とはまた違った考え方があるらしい。


「同じ魔術を使っているのも疲れるだろう。アルが使える魔術で体でも動かすか?」


「・・・・・・うん」


 アルジエーネが使える魔術とは、身体強化と瘴気放出。本来であるならばこれらは魔術とは言い難い。


 身体強化は、ただ内側にあるマナを表面化させるだけ。だけといってもマナ同士のぶつかり合いを中和させたり、ある程度の物理的衝撃を緩和することも出来る。マナを自由に動かせるならば機動力も増したり、一動作の勢いも増強させることも可能だが、アルジエーネはそれすら未熟なものなので、効果は薄目。


 瘴気放出はマナを拡散させるだけ。本来であるならば己のマナを相手にぶつけて威圧、もっと効果があれば相手の身体的不調を誘うことも出来る基本技なのだが、これもアルジエーネが使うと、相手にとってはただの”見えない波”が少し身体を押してくるだけ、のようだ。


 これらはルーンを必要としない。つまり見えない異形に語りかけること無く発動できるものであるため魔術とは呼ばれにくいのだ。


 そして、こういうものであるならばアルジエーネは使用できる。ということは、アルジエーネにはルーンを生成することが出来ない何かに見舞われている、とグランバートは推察しているが、専門的なことは医療班に任せている。


「そうか。俺の槍を貸してやるから、俺に攻撃を仕掛けて――――」


 ――――その時、修練所の大きな扉が音を立てて開く。誰かが来たことであるその合図を受け、グランバートは言葉を切り、両者ともその入口の方を見る。


「あっ、いましたお兄様ぁ!」


 そこに見えたのは小さな少女。その胸元には、ずんぐりと太っていて間抜けな顔をしていて、群青色の毒々しい見た目だが非常に愛嬌のある人型のぬいぐるみを抱えており、それを手放すまいと強く抱き抱えながら、忙しない足取りでこちらに向かってきた。


 兄のグランバートと同じ薄い青色の髪を頭の左右でまとめて垂らしている。戦う姿とは思えない黒色のドレスを身に纏い、走る度に裾についているフリルが可愛らしく揺れている。


「・・・・・・エリス」


「やはり休憩するか、丁度いいしな」


 そのまま特訓を続けようかと思っていたが、アルジエーネとグランバートにとっての可愛らしい妹が乱入してきたために、ゆっくりと語らいながら休憩することに依存はなかった。


いきなり訳がわからない単語が出てきて疑問かと思いますが、

世界観や用語の説明については追々物語で展開していきますので、

ひとまずは脳内補完をお願いします。

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