破鏡の世に……第1巻記念番外編……本当にありがとうございます
孔明は一人降りしきる雨の中を、柔らかくなった土を耕そうと出て行こうとしたが、弟の均と、同居中の友人、月英に止められた。
今のうちに一度掘り起こしておくことで、水が下まで浸透する。
この間までしばらく雨が降らなかったので、土は下は硬い粘土のようで上は乾ききっている。
次の種を蒔くときに困ることになる。
その為掘り起こそうと意気込んでいたのだが、
「兄さん。頼むからやめて。兄さんが風邪をひくとは思わないけど、雨の日くらい休もうよ」
「そうだそうだ」
普段は二人に反対されても普通は行くのだが、今日の孔明は素直に意見を聞くしかなかった。
何故かというと、
「ねぇ、兄さん。琉璃の様子が変なんだけど……相変わらず熱は下がらないし、食欲もないから、ご飯を食べさせてあげてくれない?」
「あ、そう言えば、何か泣いてたような……」
「……休みます」
孔明は背負いかけた荷を下ろす。
そして、それを片付けるのを均に任せ、家に入っていく。
すると、ズルズルと言う音とともに、真っ赤な顔をしたやせ細った少女が壁伝いに歩いてくる。
「琉璃!」
慌てて駆け寄り、小さい体を抱き上げる。
「どうしたの?喉が渇いた?頭が痛い?お腹空いた?」
「……お兄ちゃん……何処か行くにょ?」
「雨が降っているからね。行かないよ。琉璃。それよりも、一人でここまで来たの?」
硬直する琉璃の手を自分の肩に乗せ、微笑む。
「今までより歩けるようになったみたいだけど、無理はダメだよ?お兄ちゃんか黒髪の均お兄ちゃんか、金色の髪の月英お兄ちゃんに、何かあったら言うようにするんだよ?」
「んっと、んっと……おてつらい……」
「おてつらい……お手伝いするの?」
「う、うん!」
ウンウン頷く琉璃に、
「ダメだよ。お兄ちゃん許しません」
「のして?」
瞳を潤ませる琉璃に、孔明はうろたえるが、その後ろから、
「琉璃。兄ちゃんの実家から荷物が届くんだ。琉璃のものもあるからお部屋で待っていて欲しいんだけど」
月英である。
今日は男装である。
「兄ちゃんの父さんが商人で、色々と各地の同業者のツテを借りて新しい、珍しいものを探しているんだ。先日船が届いたから見て欲しいって言われていてね。一緒に琉璃の衣も仕立ててもらったからね。いつまでもそんな古着は、兄ちゃんの哲学に反する……」
「れも、あにゃないれしゅ。ビリビリないれしゅよ?お、お兄しゃん……」
「男物の古着は絶対にダメ〜!琉璃は可愛い女の子だからダメ!にいちゃんは……」
「月英兄さん、落ち着いて!」
その後ろから均が止める。
「琉璃がびっくりしてるから」
「あっ、ごめん!にいちゃんは、怒ってないからね!」
「あいれしゅ。げ、げちゅえいおにいしゃんやしゃしいでしゅ」
その言葉に、月英は感動し涙ぐむ。
「ど、どうしよう……可愛すぎる……」
「どうどう……ほら、兄さま。琉璃と部屋に行って。後で琉璃の分は持って行くから」
「あ、あぁ、じゃぁ、琉璃。月英お兄ちゃんと、均お兄ちゃんにまた後でって」
「げちゅえいおにいしゃん、きんおにいしゃん」
手を振り、そして最近できるようになった笑顔を向ける。
その笑顔に月英と均は硬直する。
気づかず二人は去って行くのだった。
「……うわぁ……自分の子供が笑いかけてくれた感じ?師匠」
「おい、お前よりも年上だが、琉璃みたいに大きな娘はいないぞ!」
「まぁ、結婚してないし、女装だけだもんね……」
「悪かったな」
渋い顔をしつつ、月英は均を促し歩いて行ったのだった。
書き下ろしです。




