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月亮の輝きを……【破鏡の世に……第二章】  作者: 刹那玻璃
進む道は楽なものではないと誰もが知っているのです。
83/84

破鏡の世に……第1巻記念番外編……本当にありがとうございます

 孔明こうめいは一人降りしきる雨の中を、柔らかくなった土を耕そうと出て行こうとしたが、弟のきんと、同居中の友人、月英げつえいに止められた。


 今のうちに一度掘り起こしておくことで、水が下まで浸透する。

 この間までしばらく雨が降らなかったので、土は下は硬い粘土のようで上は乾ききっている。

 次の種を蒔くときに困ることになる。

 その為掘り起こそうと意気込んでいたのだが、


「兄さん。頼むからやめて。兄さんが風邪をひくとは思わないけど、雨の日くらい休もうよ」

「そうだそうだ」


 普段は二人に反対されても普通は行くのだが、今日の孔明は素直に意見を聞くしかなかった。

 何故かというと、


「ねぇ、兄さん。琉璃りゅうりの様子が変なんだけど……相変わらず熱は下がらないし、食欲もないから、ご飯を食べさせてあげてくれない?」

「あ、そう言えば、何か泣いてたような……」

「……休みます」


 孔明は背負いかけた荷を下ろす。

 そして、それを片付けるのを均に任せ、家に入っていく。

 すると、ズルズルと言う音とともに、真っ赤な顔をしたやせ細った少女が壁伝いに歩いてくる。


「琉璃!」


 慌てて駆け寄り、小さい体を抱き上げる。


「どうしたの?喉が渇いた?頭が痛い?お腹空いた?」

「……お兄ちゃん……何処か行くにょ?」

「雨が降っているからね。行かないよ。琉璃。それよりも、一人でここまで来たの?」


 硬直する琉璃の手を自分の肩に乗せ、微笑む。


「今までより歩けるようになったみたいだけど、無理はダメだよ?お兄ちゃんか黒髪の均お兄ちゃんか、金色の髪の月英お兄ちゃんに、何かあったら言うようにするんだよ?」

「んっと、んっと……おてつらい……」

「おてつらい……お手伝いするの?」

「う、うん!」


 ウンウン頷く琉璃に、


「ダメだよ。お兄ちゃん許しません」

「のして?」


瞳を潤ませる琉璃に、孔明はうろたえるが、その後ろから、


「琉璃。兄ちゃんの実家から荷物が届くんだ。琉璃のものもあるからお部屋で待っていて欲しいんだけど」


月英である。

 今日は男装である。


「兄ちゃんの父さんが商人で、色々と各地の同業者のツテを借りて新しい、珍しいものを探しているんだ。先日船が届いたから見て欲しいって言われていてね。一緒に琉璃の衣も仕立ててもらったからね。いつまでもそんな古着は、兄ちゃんの哲学に反する……」

「れも、あにゃないれしゅ。ビリビリないれしゅよ?お、お兄しゃん……」

「男物の古着は絶対にダメ〜!琉璃は可愛い女の子だからダメ!にいちゃんは……」

「月英兄さん、落ち着いて!」


 その後ろから均が止める。


「琉璃がびっくりしてるから」

「あっ、ごめん!にいちゃんは、怒ってないからね!」

「あいれしゅ。げ、げちゅえいおにいしゃんやしゃしいでしゅ」


 その言葉に、月英は感動し涙ぐむ。


「ど、どうしよう……可愛すぎる……」

「どうどう……ほら、兄さま。琉璃と部屋に行って。後で琉璃の分は持って行くから」

「あ、あぁ、じゃぁ、琉璃。月英お兄ちゃんと、均お兄ちゃんにまた後でって」

「げちゅえいおにいしゃん、きんおにいしゃん」


 手を振り、そして最近できるようになった笑顔を向ける。

 その笑顔に月英と均は硬直する。


 気づかず二人は去って行くのだった。


「……うわぁ……自分の子供が笑いかけてくれた感じ?師匠」

「おい、お前よりも年上だが、琉璃みたいに大きな娘はいないぞ!」

「まぁ、結婚してないし、女装だけだもんね……」

「悪かったな」


 渋い顔をしつつ、月英は均を促し歩いて行ったのだった。

書き下ろしです。

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