運命は出会いをもたらすものです。
大人……男たちは、奥でお酒を酌み交わすが、女性や子供たちは共に喋ったり食事をしたりする。
「ねぇ?亮花!」
「はい!」
父親に贈られたかんざしをつけて、広に近づく。
「ねぇねぇ、亮花。はい」
「こら!広。好き嫌いしない!」
統はたしなめる。
「違うよ。ちゃんと食べるよ!兄ちゃん。好き嫌いなんかしたら、父さんに怒られる」
「それなら良し」
「……最近、兄ちゃんがますます口うるさくなってきた……」
広はぼやく。
その横で、喬はもぐもぐと美味しそうに食べている。
「喬……は美味しそうに食べるんだね」
「うん。お父さんとお母さんに小さい頃から言われてきたからね。それに、幾つも戦場を点々としてきたから、大事な食事は綺麗に食べる。楽しく美味しく食べるんだよ。でも、お父さんとお母さんは料理上手なのに、僕は下手で……狩もろくに出来なくて……食べるしか出来なくて……」
「で、でも、美味しいよって食べてくれる方が、父さんもお母さんも嬉しいんじゃないかな。俺……向こうで食べさせて貰った料理が美味しくて好き」
「へぇ、どんな料理?」
循が声をかける。
「えっと、小麦の粉を練って、広げた中に、野草や肉を味付けした餡を包んで、お湯でグラグラって。小麦がもちもちしてて、美味しかった」
「あぁ。張仲景老師の書簡の料理だよ」
近くで兄の子供たちの様子を見ていた均が笑う。
「大物を仕留めたから、それに時間もあって作ったんだよ、ね?」
「えー良いなぁ。俺も食べたい」
広がブーブーと言うが、統が、
「じゃぁ、広の怪我が治ったら、循兄さんと狩りに行っといで。私とお兄ちゃんはそれ以外の準備しておくから」
「ず、るーっ!兄ちゃん!喬兄ちゃんと一緒ばっかじゃないか!それに、循兄ちゃんと行くのは嫌だ!それなら、天藍兄ちゃんと行く!」
「へぇ〜?広。兄に向かってよく言った」
「兄ちゃん、すぐ逃げるじゃん!結局俺1人で退治するんだからな!」
「広が大物を狙いすぎるんだ!」
循と広が言い争う。
オロオロと、天藍は、
「俺でよければ……狩りにも行くし、荷物運びとか手伝うから……」
「よっしゃ!兄ちゃん。俺が元気になったら行こうな!」
「よっし!狩り班脱出!」
「それは無理ですよ。循兄さん。金剛兄さんいないから、仕方ないので私と行きましょう」
「仕方ないって何だよ、統!」
不満げな循に統は真顔で、
「兄さん弱すぎ、狩りには向いてません。でも、荷物持ち位はして下さい」
「くぅぅぅ……!ムカつく!」
「僕も行こうか?循お兄ちゃん」
喬の言葉に、循は真っ青になる。
「い、いい!喬は、母さんと一緒にいること!」
「僕も行きたいのになぁ……」
「あ、しょうしゅも行きたいのでしゅ」
目をキラキラさせる滄珠に、天藍が微笑む。
「滄珠は、喬と一緒にいてね?お兄ちゃんが捕まえてくるから」
「あい、いましゅ」
滄珠は大きく頷く。
「偉いね。滄珠は」
「えへへ……」
天藍にすぐに懐いた妹に、循は特に驚く。
「滄珠が、天藍に懐いた!」
「えっ?変なの?」
「人見知りなんだよ。滄珠」
「そうなんだ……あっ」
父親と姉に手を引かれ、近づいてくるのは舜花である。
「お久しぶりです。琉璃お姉様、循くん、喬くん、統くん、広くん、滄珠ちゃん。亮花ちゃんそしてこんばんは、均お兄さま、天藍」
「梅花どの、こんばんは。そして、舜花もこんばんは」
「こ、こん……こんば、は……の」
父親の後ろに隠れる少女に、子仲は微笑む。
「天藍は知っていると思うけれど、紹介するよ。私の娘の舜花。年は幾つだった?舜花?」
「や、やっちゅ……なの」
「8歳。偉いね。数が数えられるんだ。勉強したんだね」
喬はにっこりと笑う。
拾われてからずっと旅をしてきた孔明にそっくりな喬を見て、舜花は顔を覗かせる。
「こんばんは、舜花。僕たちは諸葛孔明の息子です。僕は喬。そして統と広、天藍お兄ちゃんは知ってるよね?こちらが循お兄ちゃん。金剛お兄ちゃんが一番上。で、妹の滄珠、7歳だよ。広の隣は亮花」
「お兄しゃん……いっぱい」
「舜花。お姉様と一緒に、喬くんたちと一緒に食べましょうか。天藍くんもいるし」
「そうだね。後で迎えにくるから、食べていなさい」
「……くゆ?おとうしゃま」
首を傾げ、父親を見上げる。
「あぁ、来るよ。だから、仲良くね?」
「あいっ」
頭を撫でられ、嬉しそうに頷く。
「じゃぁ、梅花と舜花をよろしくね」
子仲は、手を振り去っていった。
「梅花どの、舜花ちゃん……でいいかな?こっちにどうぞ」
循は空いている席を勧める。
「ありがとうございます。じゃぁ、舜花どっちがいい?」
「……んっと……こっち」
天藍に近い席を示す。
「そう。じゃぁ、並びましょうね」
姉と並んで腰を下ろすと、渡された器に載せられた食べ物に目を輝かせる。
「あいがとうごじゃいましゅ。いただきましゅ」
「わぁ、偉いなぁ。挨拶できるんだ」
広は目を丸くする。
「それに、その言葉、どこの辺りのかな?」
「ご、ごめんなしゃい……」
「えっ?何で?」
俯く舜花に天藍が、
「舜花?違うよ?広はね、変だって言っているんじゃなくて、舜花の言葉を自分でも話せるようになれるかな?どこの方の言葉で、自分も教えて貰って話せるようになれるかなって言いたいんだよ、ね?」
「そ、そうだよ。実は俺も大分忘れてるけど、ここよりもっと遠い所の生まれなんだ」
「しょうなのでしゅか……あた……舜花は、テンリャンおにいしゃまのしゅんでいた、漢中のあたりでしゅ」
「俺と統兄ちゃんは常山郡……冀州常山国真定県出身」
「俺は涼州天水郡冀県」
「私と兄様は、徐州瑯琊郡陽都県出身」
天藍と均が名乗ると、舜花はキョトンとする。
「一杯……おにゃまえ……どこでしゅか?」
「あぁ……」
絹に描かれた地図を広げた均は、示す。
「ここが今いる辺り。で、天藍の出身地がここ。で、金剛の父親の出身地が司隷扶風郡茂陵県。揚州蘆江郡舒県が、循の出身地。統と広はここ。私と兄様とはここだね。で、子仲さまは徐州東海郡朐県。亮花の出身地は荊州南郡襄陽宜城県だね。琉璃は荊州南郡襄陽。琉璃のお父さんは河南郡出身だって聞いてるよ」
「一杯ですね。私は小さい時から許昌に行っていたので……」
亮花は地図を覗き込む。
そして滄珠は声を上げる。
「おじしゃま。こんにゃに広いところから、おにいしゃまやおねえしゃまたちが一緒。しゅごいのでしゅ。ホントは会えにゃかったかもでしゅね」
「そうだね。本当は会わずに生きていたかもしれないね。滄珠はお利口」
「そしゅたら……舜花……おとうしゃまと、テンリャンおにいしゃまたちと会えにゃい……?」
瞳を潤ませる舜花の頭を撫でて、天藍は微笑む。
「大丈夫だよ。今のようにでなくても、きっと会ってる。ね?喬」
「そうだよ。僕たちときっと会ってる。大丈夫だよ。泣かないで」
「……あい。おにいしゃま。あいがとう」
子供たちは地図を見ながら話している。
特に、天藍の生まれた地域のことや、統の生まれて逃げてきた道のりについてである。
滄珠は思い出したように叔父を見る。
「おじしゃま。どうしておかあしゃまのいたこっちにきたのでしゅか?」
「えっ?えっと……うーん……逃げてきた!」
「逃げて?」
循も首を傾げるが、ほろ苦く笑う。
「曹孟徳の父親が徐州州牧の部下に殺されて、怒った曹孟徳が民を無差別に虐殺し始めたんだ。長兄は義母と妹と揚州に逃げて、私たちは親族を頼って姉さんたちと4人で逃げたの。あちこち逃げて、荊州襄陽に落ち着いたんだよ」
「……!ごめんなしゃい……しりゃなかったでしゅ……」
「教えてなかったからね。それに滄珠たちのお父さんである兄様も教えたくなかったと思う。特に兄様は滄珠や喬……それに統、広、循、天藍に辛い世界を見せたくなかったと思うんだ。もっと幸せな世界を知って欲しいって……琉璃と、皆を幸せにしたいってずっと言っていたと思うから」
子供たちの頭を撫でる。
「幸せになって……その為なら、私も兄様も戦えるから……」
均の声はふわっと広がり消えた……。




