天藍の住む家
「お母さん、先に天藍と戻りますね。部屋の割当てしなきゃ」
循は天藍を引っ張る。
「こっちこっち。天藍。こっちの家に弟と妹が一人づついるから紹介するよ」
「こっちの?」
循の言葉にふと問い返すと、循は、
「あ、私は一応ここの養子。実の両親があっちに住んでるんだけど、私以外女の子ばかりだし……お母さんが危険だからこっちにいるんだ」
「ご両親は……?」
「いや、双子の姉が私より強いし、父が文官にしては強いから大丈夫。でも、この家は父さんと金剛兄さんと、この統と、統の二つ下の広は強いけれど、広は大怪我してまだ本調子じゃないし、お母さんと滄珠が危ないから」
「危ない?」
「そう。あ、広……じゃない。亮花と桃花」
裏口から顔を覗かせるのは、10才位の女の子と赤ん坊である。
「循お兄様、喬お兄様、統お兄様?」
「あぁ、亮花。紹介するね。私と同じ年の兄弟、天藍。天藍。彼女が馬季常叔父さんの一人娘の亮花」
「えっ?老師の?」
「老師?」
「あ、私は父上方に引き取られるまでは、ほとんど勉強をしたことがなくて、体調が優れなかった父上が老師に頼んで、読み書きや発音、地域の言葉を教えて下さって……途中でお別れしてからは、お父さん……均父上に、梅花どのやお祖母様……でも、老師が付ききりで教えて下さったので、ある程度まで……本当に尊敬しているんだ」
天藍の一言に、3兄弟は顔を見合わせ、
「あの叔父さんが……本当に変わったんだね」
「うん。ビックリ」
「でも、ここに居ないのはどうしてですか?天藍兄上」
「えと、父上と共に別の道に……詳しくは均父上がご存知だと思う。私は勉強と武器の扱い方と礼儀作法で精一杯だったので……ごめんなさい」
統の一言に頭を下げる。
すると端正な美貌の少年が、少し表情を変える。
「いえ、兄上を責めているのではなく……」
「あ、お兄ちゃん。統は将軍見習いなんだ。お父さんが目標だからすごいよ?」
喬は弟を自慢げに話す。
「それに、金剛お兄ちゃんとよく訓練をしてるんだよ。あ、もうすぐしたら幼馴染みの索兄さんが来るよ。幼馴染みの中では一番強いよ。きっと仲良くできると思うよ。お兄ちゃんの二つ上だよ」
「へぇ……すごいなぁ。俺はそんなに習ってないから……」
「大丈夫。索兄さん。僕が最初に会った時、野生児だったから」
喬の一言に、統は何故か遠い目で、
「私は5歳……広は3歳、索兄さんが9歳……力は強かったけれど短絡的思考で、私が二人の面倒を……」
「統は疲れて寝込んじゃったんだよね?ガリガリに痩せてて」
「お父さんとお母さんとお兄ちゃん居なかったら、私は死んでたと思う……」
「やだよ~‼統がいないと僕困る~‼」
統よりも華奢な少年がしがみつく。
が、必死の喬よりも、統の嬉しそうな表情に驚く。
「仲がいいんだね……」
「うん。僕、本当に武力が弱くて……昔は元気だったんだけど、最近、ちょっと……だから甘えちゃうんだ」
「ちょっとじゃなくて、かなりだよ。昔は戦場に立って采配を振るって、馬に乗って早駆けにも耐えてきたけど、最近は宮城を歩いてても座り込んで……統は離れた訓練所にいるから、私が迎えに行って」
循は険しい顔になる。
「体調が良くなるまで静養させたくても、あのクズ君主が……」
「君主と言うと……」
「劉玄徳サマサマだよ。今は益州、蜀、成都にいる……あっ!」
ふらっとよろめいた喬を統が支える。
「お兄ちゃん。休もう」
「あ、あの、俺が抱いていこうか?統が俺より強いのは解るけど、体は俺が大きいから」
恐る恐る提案する。
多分統の方が大きいとは言え、抱くのは無理だと思ったのである。
一瞬悔しそうに俯いた統の頭を循が叩き、
「じゃぁ頼むよ。統と喬が同じ部屋、私が広と一緒。だから天藍は、兄さんと一緒の部屋になると思うから、案内するよ」
「ありがとう。でも俺はそんなに立派な部屋じゃなくてもいいよ?それにお祖母様もいらっしゃるし……」
「立派な部屋ってそんなものじゃないよ?見ての通りの所で、一応離れに亮花のお母さんと、父さんのお姉さんの家族が滞在されてるけど、働き手はいないから何かあったら近所の皆さんに来て貰うんだ」
「近所と言うと、糜子仲さまと奥方さまにはご挨拶させて戴いたんだ。梅花どのと舜花と仲良くさせて戴いていたから」
「舜花……あぁ!僕の直属の上司が子仲様だから、本当に嬉しそうだったよ。娘がって」
喬は微笑む。
父の孔明に瓜二つの笑顔は、統がデレデレと言うか表情を緩ませる程可愛らしい。
それに、運動を禁じられていると言うのは本当らしく、痩せていて余り筋肉らしいものはなく軽い。
裏口から入ると、杖をついた少年が立っていた。
統に良く似ているが、やんちゃそうなガキ大将と言った雰囲気で、大きな瞳で天藍を見る。
「兄ちゃんが、天藍兄ちゃん?」
「あ、うん、初めまして。天藍です。よろしくお願い致します」
「……兄ちゃん……」
はぁぁ。
ため息をつく。
「兄ちゃんさぁ?循兄ちゃんと同じ年だろ?もっと威張ってもいいんだぞ?俺、4才も下だぞ?下のガキにナメられたらどうするんだよ」
「えっと……俺は金剛……兄さんの昔住んでいた地域の生まれだから、方言が強くて、うまく話せないから、老師に教えて貰ったんだ」
「老師?」
「季常叔父さんだって」
喬が説明する。
「……季常叔父さんなら喋る……。でも、余り兄弟に対してそういう言い方すると、よそよそしくなるんだぞ?もっと砕けた喋り方したら?」
「えっと……前に兄さんに言われて、均父さんと喋る時の喋り方したら、父さんに『絶対に喋らないように‼』って……詳しく聞いたら、私の話す言葉はここでは使わない言葉が多いんだって。喋っても皆に解らないからまずは基本をって。そうすれば、広や循に習うといいって。教えてくれるかな?」
「……いいよ。あ、俺より兄ちゃんの方が良いかな?」
「統はとても丁寧だって聞いた。すごいなぁ」
「陰険に聞こえるよ~」
「広?」
統が弟を睨む。
「違うよ~循兄ちゃんだよ。うん」
「誰が陰険だい?」
今度は循は睨む。
「それよりも天藍と喬の部屋に案内しないと。行くよ。広は後で」
「大分良くなったんだけど、まだ胸が痛いんだよね。早く治したいんだ……俺。でも、母さんや滄珠たちの近くにいるのは嬉しいけど。じゃぁ、天藍兄ちゃん。後でね?」
広はすぐ近くの椅子に坐り、手を振る。
そして、天藍は循に促され歩き出したのだった。




