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月亮の輝きを……【破鏡の世に……第二章】  作者: 刹那玻璃
進む道は楽なものではないと誰もが知っているのです。
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帰還

 荊州の街に、一台の馬車と3騎の馬が入っていく。

 門前で留められたものの、


「参謀、諸葛孔明しょかつこうめいの弟の均。そして、糜子仲びしちゅう将軍の令嬢と、親族の……」


 馬から降り立った、深紅の髪と青い瞳の美貌の女性。

 武装はしているが、それすらも彼女の美しさを損なうことはない。


「こちらで身分証明は出来るかしら?」


 差し出したのは、3つの通行証である。

 書かれているのは、前もって書簡を送っていた為に、梅花メイファの父、子仲より送られていた通行証には『閻珊瑚えんさんご』『諸葛天藍しょかつてんらん』『糜舜花びしゅんか』と記載されている。


「閻珊瑚さまと、天藍どの、舜花さまでしょうか?」

「わ、私が諸葛天藍です。よろしくお願い致します」

「舜花は……」


 馬車から出てこようとする舜花を、梅花が止める。


「舜花?お外に出ては駄目ですよ。後でご挨拶するのよ?」

「おねえしゃまも?」

「えぇ、そうよ」


 やり取りをして、確認をすると、


「お通り下さい」


と声がかかる。


 馬を降り均は、


「天藍。馬車を。私の後を付いてきて。まずは子仲どののお屋敷に向かうから」

「は、はい‼」

「私はどうしようかしら?」

「馬車の中に。母上」

「そうね。中で見ているわ」


馬車に乗り込み、ゆっくりと移動していく。


「あ、天藍は又後で案内するけれど、まずは、着いてきなさい。キョロキョロして道に迷うといけないからね?」

「はい」


 しかし、周囲の人々は黒髪と瞳が多く、天藍のように金色に近い栗色の髪は珍しいはずだが、人々が、


「おや?金剛こんごうさまじゃないなぁ」

「本当だ。兄弟だなぁ」


とのんきな声が聞こえる。

 変な顔もされず、逆に手を振る人すらいる。


「天藍?にこにこ笑っておくといいよ。これから住むからね?」


 均の言葉に頷き、ニッコリと笑い頭を下げる。


 しばらく進むと、趣のある大きな屋敷の前についた。

 馬を降りた均は見知った兵士に、


「失礼します。糜将軍はお帰りでしょうか?諸葛均です」

「あぁ、お久しぶりです。均さま。主人はおられます。馬と馬車はこちらにてお預かり致します。どうぞ」

「ありがとうございます」


振り返った均は、


「お母さん、天藍、梅花、舜花も行きましょう」

「は、はい。お祖母様、どうぞ」


馭者席から飛び降りると出入り口に回り、手を差し出す。


「ありがとう。これ位は大丈夫なのよ?」

「いえ、お祖母様がもし怪我をしたら、大変です」


 続いて梅花メイファを助けて、そして一人奥に小さくなっている舜花を見る。


「舜花?到着したよ?降りようね?」

「……やっ!」

「やっ!じゃなくて……」


 馬車に乗り込んだ天藍は、ひょいっと抱えて馬車を降りる。

 すると穏やかそうだが父達の言っていた有能な官吏といった印象の男が、均と珊瑚と話をしている。

 その横で梅花と話をしていた母性に満ちた優しい笑顔の女性が、振り向く。


「まぁ‼舜花?お帰りなさい」


 近づいてきた女性は、天藍の抱いている痩せた少女を覗きこみ微笑む。


「お帰りなさい。お母さんよ?お母さんは美梅メイメイ。舜花と同じお花の名前ね?」

「おかあしゃん?」

「えぇ。貴方のお母さんよ。そしてこちらはお父さん」

「おとうしゃん……?」

「舜花?よく無事で戻ってきたね。それに偉い偉い。今、均どのに伺ったが、色々お手伝いやお勉強をしていたのだって?」


 子仲は養女とは言え、生き別れた時の琉璃りゅうりと同じ位の幼い娘をそっと抱き上げる。


「家に帰ってきたんだから、少しゆっくりして、お父さんとお母さんたちと過ごそう」

「おとうしゃん……えと、舜花、ただいま帰ったの、でしゅ。おとうしゃん、おかあしゃん、だ、だいしゅきでしゅ」


 たどたどしいものの、姉に習った挨拶をするその姿に、子仲は微笑む。


「お帰り。舜花」


 その横で美貌の珊瑚と美梅が、すぐに意気投合し、


「では又、落ち着いてからお伺いさせて頂きます。奥方さま」

「いえ、美梅とお呼び下さいませ。閻珊瑚さま」

「では私も珊瑚と。本当にありがとうございます」


と挨拶をし、天藍を見る。


「天藍?いらっしゃい」

「あ、は、はい‼は、初めまして。天藍と申します。年は、金剛こんごう……金剛兄上の一つ下になります。よろしくお願い致します」

「まぁ‼15才?背が高いのね?初めまして。梅花と舜花が本当にお世話になりました」

「いえ、俺……私も、きちんと喋れるように姉上に教わったり、舜花と遊んでいました。私はひ……男兄弟だったので、とても楽しかったです」

「あら……」


 美梅は微笑む。


「あぁ、そうですわ。天藍どの。今日はお疲れでしょう?均どのと珊瑚さまと帰られて、また遊びに来て下さいね?」

「あ、ありがとうございます‼」

「じゃぁ、お母さん、天藍。馬車はこちらで預けるので、馬を引いて行きましょう」


 均は馬を引くと、何故か門を潜った。


「えっ?お、父さん?何で、門を潜るんですか?」


 珊瑚と後ろを追いかけつつ聞くと、


「え?ここからの方が家に近いんだよ。馬小屋に近いし、珍しい生き物も見られるし、近くのお屋敷の説明ができるから」


 均についていくと、屋敷の奥は広い農地や竹林、そして敷地の境のない屋敷が農地を取り囲むように子仲の屋敷も含め8軒の屋敷があった。

 畑や田んぼになっている所を回りながら、


「先程の屋敷が糜将軍の屋敷。その隣が、今は主はいないけど龐士元ほうしげん参謀の屋敷。そして、簡憲和かんけんわ将軍の屋敷、隣が龐令明ほうれいめい将軍の屋敷に私の屋敷に、天藍達の屋敷に、孫公祐そんこうゆう将軍の屋敷、で、張益徳ちょうえきとく将軍の屋敷だよ。あ、ここが、うちの奥さんと兄さまの薬草畑で……」

「……均……?」

「どわっ!ひ、久しぶりにビックリした‼いたの?玉音ぎょくおん

「いたの?じゃないわ‼このバカ亭主‼」


と、手にしていた収穫用の刃物を投げた。

 その咄嗟の攻撃に、珊瑚と天藍は防御も忘れ呆然とする。


「ダメだよ~?危ないなぁ」


 のんびりと武器をつかむと、


「玉音。ほら、琉璃の伯母上で、金剛のお祖母様の閻珊瑚さま。で、兄さまの息子の天藍」

「あ、申し訳ございません。このバカ亭主の顔を見ると殺意が芽生えて……私は習玉音と申します。浮気はしないけれど、自由にさせてと言うので許したのですが……本当に、私も子供たちも完全放置で勝手気ままに振舞い、今回は全く連絡すら……」


泣きはしないが、諦めのため息を漏らす。


「兄上からの便りに、この夫が着いていって色々としていることを知って……」

「だって、兄さまが『お前はキチンと書かないから、私が書く』って」

「当たり前だ‼お前は毎回『元気?兄さまが泣くので手紙書きました。じゃぁ』だろうが‼」

「あはは~だって、玉音なら絶対に大丈夫って自信があるから‼あ、でも、バカと一緒じゃ嫌だから、もう少し家族大事にします」


 怒るスッキリとした美人に、均の出会いは気になったものの、天藍は自分の家だと言われた屋敷から5つの影に気がつき、目を見開く。

 3人は自分よりも小柄だが少年。

 そして、少年と手を握って年は違うが、瓜二つの美少女が早足で近づいてくる。


「叔父さん‼お帰りなさい‼」

「それに珊瑚お祖母様、ようこそ‼」


 美少年と、黒髪だが父に瓜二つの少年が声をかける。


「ただいま~、じゅんきょうとう。それに、琉璃に滄珠そうしゅ。相変わらず美人だね~」

「妻の前で、兄嫁を口説くな‼」


 玉音に叩かれるが、一人警戒していると言うか人見知りが激しそうな美貌の凛凛しい少年に、珊瑚が、


「まぁ‼貴方が統?13だそうだけれど、本当に凛凛しい武将ね。それに滄珠も聞いていた以上に可愛いわ。初めまして。閻珊瑚と言います。金剛の祖母で琉璃の伯母です」


と微笑む。


「そして、この子が天藍。15歳なのよ。私の遠縁の子なの」

「よ、よろしくお願い致します。天藍です」


 頭を下げると、3人の少年の中で年長の循が、


「えぇぇ~!良いなぁ。天藍。私と同い年?身長負けてるよ」

「僕ももう少し身長欲しいなぁ……あ、初めまして僕は喬です。で、お兄ちゃんと同じ年の循お兄ちゃんで、僕の一つ下の統です。統?」

「えと……おばあさま、兄上、初めまして。統です。よろしくお願い致します」


と、その横からてててっと出てきたのは、まつげは長く瞳は青、髪はふわふわした金色の美少女。


「お兄ちゃん‼だっこ‼」


 無邪気に手を伸ばす少女を、ひょいっと抱き上げる。


「わーい‼お兄ちゃんありがとう‼あのね?あのね?滄珠なの」

「へぇー滄珠。綺麗な名前だね?」

「おかあしゃまが綺麗なのよ」

「滄珠ちゃん……お久しぶりです。お母様。琉璃です。そして、お帰りなさい。天藍くん。お母さんの琉璃です」

「お、お母さん……?」


 何度かまばたきをするが、目の前には天藍位の子供を持つ母親にしては、かなり若い美少女が立っている。


「えぇ。お母さんの黄琉璃です。よろしくね!天藍くん」


 琉璃は優しく微笑んだのだった。

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