舜花と天藍
天藍が最近困るのは、年齢が自分よりも6才位年下だろうと思われる舜花だった。
自分の生い立ちも余り言えないが、休憩で小川を見つけると裸になり、水浴びをする。
その度に、父や祖母に叱られ、連れ戻されるのだが、
「いやぁぁ‼お着替えしない‼」
「えっと~?舜花?お着替えきちんとできると、可愛いよ?ね?お母さんに天藍?」
「えぇ、そうね。今日はお姉さまの飾りを借りて、可愛い格好にしましょうね?」
となだめられ、着替える。
しかし、クルミ色の瞳に赤茶色の髪には、梅花の衣装などは少し色が合わず、ぶぅぅと頬を膨らませる。
「おねえしゃまはきえい。れも、舜花変‼」
半泣きになる舜花に、
「向こうについたら、沢山選んで貰おうね?ここは道中だから……」
と均はなだめる。
その様子を見ていた天藍は、自分の小さい頃も戦乱で転々としていたものの、綺麗な服を着た同年齢の子や、勉強をしたり、玉を身に付けていた子供が羨ましかったものである。
自分は男だから可愛いとかと言うのは良く解らないが、昔、実母が内職でしていた事を思いだし、ごそごそとただ一つ持ち出したものを探し、他には食料を探すのと一緒に見つけに行った。
「えっと……舜花?」
ある時、一人離れたところで必死に言葉の練習をしていた舜花は、びっくーんと振り返る。
「にゃに?舜花はえんしゅうしてうにょ‼」
「あ、えっとね……」
フーフーと毛を逆立てる獣の子供のような舜花に、差し出す。
「舜花、えっとね……古いもので悪いんだけど、少し直したんだ。これ、使って欲しいなって……」
「……にゃに?」
「これは確か、西の方でとれる石で、瑠璃って言うんだ。余り上等のものではないけど……私は使わないから……」
差し出された釵に、躊躇う。
「のーして?」
「俺は、釵を使わないから……それに、舜花に似合うかなって」
「いーの?」
「うん。つけてあげるね?」
ようやくまとまるようになった髪に、小さな石のついた飾りを挿す。
「あ、良かった……可愛い。小さいけどごめんね?」
「……お、おにいしゃん、あいがとう」
頬を赤くしてモジモジとしつつ、お礼を言う。
「ううん、良いんだ。使ってくれるだけで。勉強頑張ってね?」
そっと離れようとした天藍の袖をつかみ、舜花は頬を赤くしてつかえながら小声で告げた。
「て、てん、てんりゃんおにいしゃん……あにょね?しゅんか、おしゃべり変にゃの……えんしゅうしてうにょに、じょうじゅににゃらないにょ……おにいしゃんじょうじゅらから、うやましい……にょ。いじわゆしてごめんにゃしゃい」
ペコンと頭を下げる。
その可愛らしい仕草に、天藍は微笑むと、
「良いよ。俺もまだちゃんと喋れないし、ほら、多分舜花は色々な言葉を聞いているんじゃないかなぁ?だから、沢山の言葉が混乱してしまうんだと思うよ」
「ほんとお?」
「本当。俺もまだ下手だから、一緒に頑張ろう、ね?」
「うん‼お、おにいしゃんあいがとう。だいしゅき‼」
と抱きつかれ、驚くが、引くことなく抱きしめる。
ちょっと胸が暖かく感じるのは何故だろう……。
しばらくして、
「天藍~‼舜花?どこ?休憩終了だよ‼」
と言う均の声に、
「じゃぁ、舜花、一緒に行こうか?」
「うん‼」
と二人は手を繋いで3人の元に戻る。
「あれ?どうしたの?仲直りしたの?」
「あら?可愛い飾りね?素敵だわ」
「本当。舜花、作って貰ったの?」
3人に交互に声をかけられ、舜花は大きく頷く。
「にゃの‼おにいしゃんあいがとうってゆったの‼」
「偉いね‼ちゃんとお兄ちゃんに言えたんだ?」
均は誉めながら、
「天藍も器用だね。それに可愛いね」
「えと、似合うかなって……喜んでくれたから嬉しい、です」
頬をうっすら染める天藍に、均と珊瑚は後で話し合う。
「天藍……兄さまに似ちゃったのかも……」
「良いじゃないの。可愛いわよ。琉璃もあんな感じだったのかしら、ウフフ」
「かなり寝込んでいたから、少し動けるようになるとダァァ~って脱走。兄さまが捕まえると『いやにゃぁぁ~‼』って。衣は脱ぐのは嫌だって、手当をするのに出来ないって、兄さまが脱がせるのに必死だったみたいですよ。お母さん」
「あらあら、逆だったのね。舜花は着るのが嫌~‼だけど。あぁ、そうだわ。均?舜花は小さいでしょう?梅花の衣は大きすぎると思って仕立て直したのよ。それに、良く動く子だから裾も……これならいいと思うのだけど、どうかしら?」
引き寄せて広げる衣に、均は、
「あ、本当ですね。これなら……でも、袖は?」
「お転婆だから、袖は梅花のままにしておいたわ。向こうに戻る間に話し方だけでなく最低限の仕草を覚えて欲しいから」
「そうですね。舜花は努力家で頭がいい子だから、すぐできるようになりますよ。それでなくても、舜花は喋られないと言ってますが、私が幾つかの地域の言葉を話しても、聞き分けることができるんですよ。喋れないよりも耳がいい。この方がすごいと思いますけどね」
「そうね。すごいと思うわ。でも、仲良くなって良かったわ」
二人の見ている向こうでは、梅花が、
「あぁぁ、ずるいですわ‼舜花は私の妹ですの」
「梅花どの。えっと、仲良くなりました」
「おねえしゃま。おにいしゃんにもやったのでしゅ」
「まぁ。可愛い‼似合うわ、舜花」
妹を抱きしめる。
「お家に帰ったら、色々着せ替えもしましょうね?お父様もお母様もきっと待っていてよ?」
「おとうしゃま、れしゅか?」
「えぇ。舜花は私の妹だから、お父様もお母様も待っているわ。帰りましょうね?」
あともう少しで荊州にたどり着く……。
そして、均の兄の孔明は、戦いに向かっているのだった。




