父と祖母と共に……。
天藍は一応練習をして馬には乗れるが、父と祖母の3人とそして、金剛の婚約者である梅花ともう一人と5人となると、馬はせいぜい馬車と共に3頭、一頭だての馬車である。
一応気を使い馬車の中は女性陣に提供し、馭者としてか、もしくは馬に乗るようにしていた。
梅花は可愛らしいが、かなり怪力で強弓を使うのだという。
それは凄いとは思うが、当然恋愛関係になることはない。
兄の奥さん……兄の恋人としか思えないのだ。
しかし、無視と言うよりも一人っ子だったこともあり、少し兄弟や異性とどういう風に距離を置くか、戸惑っているのである。
それに、自分の戦う術は、元がなっていない。
祖母の珊瑚に武芸の稽古をつけて貰っているものの、まだまだである。
「今日はここで休むよ~‼」
と言う父、均の手伝いを今はしている。
薪を探したり、火をおこす為の小枝なども取りに行く。
戻ってくると、
「よーしなのです‼久しぶりに強弓の特訓を……」
と出てきたのは、男装の少女である。
「矢が勿体ないから、そこの木に的を置いて撃ち込むんだよ」
均の一言に、
「気を付けますわ」
と射かけている姿を見て、天藍は首を傾げる。
「あれ?」
「ん?どうしたの?」
「あ、あの、梅花さま」
「梅花で結構ですわ。天藍どのは兄弟ですもの」
「じゃぁ、梅花。あのね?集中力を鍛えるのはいいと思うけど、的は必ずしも一定ではないので、籠城や牽制にはむいていても、そのままだと敵を待ち構えて打つことになるから……逆に敵に狙われるかも」
天藍の一言に梅花は目を見開く。
「じゃぁ、天藍どのはどうされますか?」
「えっと、一斉攻撃のこう!」
弓を構えるふりをして視線と構える方向は上である。
「馬は余り多くないし、後方支援だったら真正面を射ると味方を射る。つまり、飛距離をあげる為に斜め上に射る。そうすると遠くの走ってくる敵に当たる。普通の弓よりも強弓は威力が強いから、飛距離は伸びるし、うまくいけば敵を減らすことができる」
「そうですわね‼天藍どののおっしゃっていることは正しいですわ。一対一ではありませんものね。後方支援に回せますわ。でも、そうすると鏃とか、矢羽の回収は難しいですわね」
「そういう時には、敵が射てきたものを抜いて射返す事になると思う」
「そうですね。戦いの間ですもの」
「それに良いものは残しておくと良いと思う。後で本当に大事になった時に使えるでしょ?」
天藍の言葉にうんうんと頷く。
「それは良いことですわ。帰ったら訓練してみますわね。師匠がおりますの」
「師匠?」
「黄漢升将軍ですわ。父にも習っておりましたけれど」
「……良いなぁ。俺、金剛に敵わないし、きっと君にも敵わない」
「頑張りましょう‼私は怪力だけで、全く役立たずですもの」
梅花の一言に、珊瑚が、
「梅花、天藍?いらっしゃいな。そろそろ食事よ?」
「はい!」
二人はかけていく。
「で、天藍?勉強は進んだかな?」
食事をよそいながら均は問いかける。
「えっと、覚えようとしているのですが……すみません」
何度も読み直す為、切れかかっている紐で繋いだ竹簡を取り出す。
「ここの辺りが良くわからなくて……」
父に見せる。
すると、均は、
「あぁ、天藍?ここはね?」
と例えを用いて説明する。
「……えっ?こうしてはダメですか?」
「いや、天藍の方法は、こちらの方法で使われるからね。父さんは、兄さま程は勉強していないけど、ある程度は解るよ。でも……良く進んだね……父さんはビックリだよ」
「本当ですか?良かった‼」
嬉しそうに笑う天藍に4人は微笑む。
最初は警戒していると言うか怯えている少年に、大丈夫だろうかと特に均は心配していた。
しかし、思ったよりも早く警戒心は失せて、好奇心や梅花たちともうまく距離が取れるようになった。
進歩である。
「じゃぁ、天藍。お祖母様と一緒に、梅花に発音を教わること。この国は広いし、発音が違うと意味が変わってしまうからね。通訳として最適なのは金剛と喬だけど、喬は余り丈夫じゃないからね。今のうちに覚えておいて損はないよ。父さんは舜花と片付けるから」
「はい‼頑張ってす‼」
「はーい。舜花。まずは舜花が言葉を喋れるようにしないとね?」
因みに、舜花は梅花よりも5歳位年下だろう子供で、漢中の手前での戦闘直後、梅花についていた侍女たちがついてきては危険だと、怪我人と共に送り返していたのだが、途中で拾った戦争孤児である。
と言うのも、半分野性児で均の兄の孔明が、
「琉璃の小さい頃以上だね……」
と言う程、裸で暴れまわり、噛みつき……凄まじかったのだが、梅花になついた。
その為、梅花の妹として今回連れて帰っているのである。
衣はまだ全部は着込めないが、裸はダメだと姉に言い聞かされ、頭や体を綺麗にして貰うと、ひどいくせ毛の赤茶色の髪と、瞳は明るいくるみ色の少女になった。
「うーん、頑張って……る?頑張ってな?」
「頑張ります‼だよ?ちょっと惜しかったね?」
「頑張ります‼頑張りですとどう違うですか?」
「そうだねぇ……」
片付けながら説明を始める。
そして、梅花は書簡を広げ、単語を読むと音の高さを繰り返す。
現代中国では『(zi)』と言う言葉を発音するのに、四声と軽声、合わせて5つの発音方法があり喋る。
しかし、この発音は最近になって整えられた音であり、昔は数十もあったらしい。
その上、日本ですら地域には方言があるように、中国でも広東語、北京語、四川語など、地域によって発音や漢字すら変わってくる場合もある。
その為、現在の西安、当時の長安よりも西の発音から、元々現在の上海に近い地域出身で、現在は荊州に住んでいる梅花に、荊州近辺の発音を二人に教えるように頼んだ。
代わりに梅花も、大好きな恋人の金剛の生まれ育った地域の言葉を、二人に習うことができるので嬉しいらしい。
「うーん。よくわかんにゃい……」
器用な均の真似をしようとするが、うまくいかず頬を膨らませる。
「どちて、ししょーはできて、舜花、でない?」
「それは、舜花は頑張ってるけど、私や梅花のお話と、お祖母様や天藍の話し方が混ざっちゃったんだね?帰ったらちゃんと直そうね?でも、少しでも3人とお話しできるようにしようね?」
「むぅぅ。おねえしゃま、しゅき。でも、てんてんやっ!」
「てんてん……天藍だよ。年上のお兄ちゃんを呼び捨てにしないの。舜花は多分、あの頃の琉璃位だから、8才位かな……」
「てんてんお話ししてないも‼」
益々頬を膨らませる。
「天藍はお話下手だからね。舜花に何を言って良いのか解らないんだよ。嫌いじゃないんだよ?」
と宥め、15年程前の兄夫婦の再来かと思ったのだった。




