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月亮の輝きを……【破鏡の世に……第二章】  作者: 刹那玻璃
進む道は楽なものではないと誰もが知っているのです。
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父と祖母と共に……。

 天藍(てんらん)は一応練習をして馬には乗れるが、父と祖母の3人とそして、金剛(こんごう)の婚約者である梅花(メイファ)ともう一人と5人となると、馬はせいぜい馬車と共に3頭、一頭だての馬車である。


 一応気を使い馬車の中は女性陣に提供し、馭者としてか、もしくは馬に乗るようにしていた。

 梅花は可愛らしいが、かなり怪力で強弓を使うのだという。

 それは凄いとは思うが、当然恋愛関係になることはない。

 兄の奥さん……兄の恋人としか思えないのだ。

 しかし、無視と言うよりも一人っ子だったこともあり、少し兄弟や異性とどういう風に距離を置くか、戸惑っているのである。


 それに、自分の戦う術は、元がなっていない。

 祖母の珊瑚(さんご)に武芸の稽古をつけて貰っているものの、まだまだである。




「今日はここで休むよ~‼」


と言う父、均(きん)の手伝いを今はしている。

 薪を探したり、火をおこす為の小枝なども取りに行く。

 戻ってくると、


「よーしなのです‼久しぶりに強弓の特訓を……」


と出てきたのは、男装の少女である。


「矢が勿体ないから、そこの木に的を置いて撃ち込むんだよ」


 均の一言に、


「気を付けますわ」


と射かけている姿を見て、天藍(てんらん)は首を傾げる。


「あれ?」

「ん?どうしたの?」

「あ、あの、梅花さま」

「梅花で結構ですわ。天藍どのは兄弟ですもの」

「じゃぁ、梅花。あのね?集中力を鍛えるのはいいと思うけど、的は必ずしも一定ではないので、籠城や牽制にはむいていても、そのままだと敵を待ち構えて打つことになるから……逆に敵に狙われるかも」


 天藍の一言に梅花は目を見開く。


「じゃぁ、天藍どのはどうされますか?」

「えっと、一斉攻撃のこう!」


 弓を構えるふりをして視線と構える方向は上である。


「馬は余り多くないし、後方支援だったら真正面を射ると味方を射る。つまり、飛距離をあげる為に斜め上に射る。そうすると遠くの走ってくる敵に当たる。普通の弓よりも強弓は威力が強いから、飛距離は伸びるし、うまくいけば敵を減らすことができる」

「そうですわね‼天藍どののおっしゃっていることは正しいですわ。一対一ではありませんものね。後方支援に回せますわ。でも、そうすると鏃(やじり)とか、矢羽の回収は難しいですわね」

「そういう時には、敵が射てきたものを抜いて射返す事になると思う」

「そうですね。戦いの間ですもの」

「それに良いものは残しておくと良いと思う。後で本当に大事になった時に使えるでしょ?」


 天藍の言葉にうんうんと頷く。


「それは良いことですわ。帰ったら訓練してみますわね。師匠がおりますの」

「師匠?」

「黄漢升(こうかんしょう)将軍ですわ。父にも習っておりましたけれど」

「……良いなぁ。俺、金剛に敵わないし、きっと君にも敵わない」

「頑張りましょう‼私は怪力だけで、全く役立たずですもの」


 梅花の一言に、珊瑚が、


「梅花、天藍?いらっしゃいな。そろそろ食事よ?」

「はい!」


二人はかけていく。


「で、天藍?勉強は進んだかな?」


 食事をよそいながら均は問いかける。


「えっと、覚えようとしているのですが……すみません」


 何度も読み直す為、切れかかっている紐で繋いだ竹簡を取り出す。


「ここの辺りが良くわからなくて……」


 父に見せる。

 すると、均は、


「あぁ、天藍?ここはね?」


と例えを用いて説明する。


「……えっ?こうしてはダメですか?」

「いや、天藍の方法は、こちらの方法で使われるからね。父さんは、兄さま程は勉強していないけど、ある程度は解るよ。でも……良く進んだね……父さんはビックリだよ」

「本当ですか?良かった‼」


 嬉しそうに笑う天藍に4人は微笑む。

 最初は警戒していると言うか怯えている少年に、大丈夫だろうかと特に均は心配していた。

 しかし、思ったよりも早く警戒心は失せて、好奇心や梅花たちともうまく距離が取れるようになった。

 進歩である。


「じゃぁ、天藍。お祖母様と一緒に、梅花に発音を教わること。この国は広いし、発音が違うと意味が変わってしまうからね。通訳として最適なのは金剛と喬(きょう)だけど、喬は余り丈夫じゃないからね。今のうちに覚えておいて損はないよ。父さんは舜花(しゅんか)と片付けるから」

「はい‼頑張ってす‼」

「はーい。舜花。まずは舜花が言葉を喋れるようにしないとね?」


 因みに、舜花は梅花よりも5歳位年下だろう子供で、漢中の手前での戦闘直後、梅花についていた侍女たちがついてきては危険だと、怪我人と共に送り返していたのだが、途中で拾った戦争孤児である。

と言うのも、半分野性児で均の兄の孔明(こうめい)が、


「琉璃(りゅうり)の小さい頃以上だね……」


と言う程、裸で暴れまわり、噛みつき……凄まじかったのだが、梅花になついた。

 その為、梅花の妹として今回連れて帰っているのである。

 衣はまだ全部は着込めないが、裸はダメだと姉に言い聞かされ、頭や体を綺麗にして貰うと、ひどいくせ毛の赤茶色の髪と、瞳は明るいくるみ色の少女になった。


「うーん、頑張って……る?頑張ってな?」

「頑張ります‼だよ?ちょっと惜しかったね?」

「頑張ります‼頑張りですとどう違うですか?」

「そうだねぇ……」


 片付けながら説明を始める。

 そして、梅花は書簡を広げ、単語を読むと音の高さを繰り返す。


 現代中国では『(zi)』と言う言葉を発音するのに、四声(しせい)と軽声(けいせい)、合わせて5つの発音方法があり喋る。

 しかし、この発音は最近になって整えられた音であり、昔は数十もあったらしい。

 その上、日本ですら地域には方言があるように、中国でも広東語、北京語、四川語など、地域によって発音や漢字すら変わってくる場合もある。


 その為、現在の西安(しーあん)、当時の長安よりも西の発音から、元々現在の上海に近い地域出身で、現在は荊州に住んでいる梅花に、荊州近辺の発音を二人に教えるように頼んだ。

 代わりに梅花も、大好きな恋人の金剛の生まれ育った地域の言葉を、二人に習うことができるので嬉しいらしい。


「うーん。よくわかんにゃい……」


 器用な均の真似をしようとするが、うまくいかず頬を膨らませる。


「どちて、ししょーはできて、舜花、でない?」

「それは、舜花は頑張ってるけど、私や梅花のお話と、お祖母様や天藍の話し方が混ざっちゃったんだね?帰ったらちゃんと直そうね?でも、少しでも3人とお話しできるようにしようね?」

「むぅぅ。おねえしゃま、しゅき。でも、てんてんやっ!」

「てんてん……天藍だよ。年上のお兄ちゃんを呼び捨てにしないの。舜花は多分、あの頃の琉璃位だから、8才位かな……」

「てんてんお話ししてないも‼」


 益々頬を膨らませる。


「天藍はお話下手だからね。舜花に何を言って良いのか解らないんだよ。嫌いじゃないんだよ?」


と宥め、15年程前の兄夫婦の再来かと思ったのだった。

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