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月亮の輝きを……【破鏡の世に……第二章】  作者: 刹那玻璃
季常さんが机上空論から実践に飛び出しました。
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まずは落ち着き、怪我の治療の確認です。

 孟起もうきは、自らの屋敷に案内する。

 そして、息子の金剛ダイヤモンドや、義兄弟の龐令明ほうれいめいなどに移動中に詳しく聞いた兵達の疲労に、怪我の悪化がないか確認もあり兵舎に人々を収容し、医師を派遣させる。


 そして、


「待って下さい‼私も‼皆の元に……」

「何だ、この小さいのは」


孟起に見下ろされ、


「わ、私は荊州の生まれ、馬季常ばきじょうと申します。参謀の端くれとして‼」

「季常どの」


ヘロヘロとする孔明こうめいを支えるようにしつつ、趙子龍ちょうしりゅうが、


「参謀は3人。その内二人が大怪我。貴方がすべきことは、どちらが優先か?考えられよ」

「……そ、そうですね。ありがとうございます」

「こちらからも数名、出している。それよりもこれがどういうことか、説明を頼む。それと雲母きらら。女人に幼い子供たちを。休ませて差し上げてくれ」

「はい」


 優雅な格好をしているが、隙のない女性。

 士元しげんが令明が支えるようにして、連れられていく姿を見送っていた球琳きゅうりんは、彼女に気がつく。


「と、突然の、訪問に申し訳ございません。私は、荊州の龐士元の妻、馬球琳と申します。そして息子のこうと、娘の琳瓊りんけい玉葉ぎょくようと申します」

「まぁ、お会いしとうございました。私は、黄雲母……金剛の母でございます。従姉妹で義妹、琉璃りゅうりに便りを……」


 微笑む。

 雲母を見ると、全体的に琉璃に顔立ちが似ている。

 儚げな印象の琉璃に比べ、何かを乗り越えた強さが見える。


「ご主人様のご容態はこちらで、まずはお休み下さいませ。長旅にお疲れでしょう……お子さまも」

「お母さん……しんどい」


 珍しく宏が母親にぐする。

 二人の娘もしがみつく。


「ねえ‼お兄ちゃん、お姉ちゃん‼僕んち行こう‼お休みできるよ‼」


 ピョコンと飛び出したクリクリとした瞳の、金剛を幼くした印象の男の子がにっこり笑う。


「お母さん。行ってきます‼行こう?僕は孔雀くじゃくよろしくね‼」


 3人を誘い、先に入っていく。


「……それに、梅花メイファさまも、どうぞ」


 案内していく。

 ゆっくりと歩いていく中で、


「……あぁ……良かった。ありがとうございます……」


震える声で囁く球琳に振り返り、雲母はそっと近づく。


「……本当に大変でしたわね……」

「何で……何でこんなことに……」


 立ち止まり、顔を覆う球琳。


「何で……何で、私は無力なんだろう……何故……嘆くしか出来ないのだろう‼」

「……球琳さま」

「夫を……士元を……支えられるよう……子供たちに……」

「頑張りすぎなくて、良いのですよ」


 雲母は微笑む。

 今度は苦笑に近い。


「私も、昔は貴女のように、全てをと思っていました。けれど、ダメだとたしなめられたのは孔明さまだったのですよ」

「兄上の……?」

「あの方は、妾同然の立場の私に『選びなさい。金剛の母として生きますか?戦いを続けますか?』と、私は母を選びました。貴女も、沢山背負わなくていいのだと思います。ただ、今は休んで下さい。そして、家族の為に生きたらいいと思います。貴女も頑張りすぎですわ。昔の私と同じです」


 抱き締め、慰める。


「私も義母もおります。貴方は一人ではないのですよ」

「き、雲母……さま……」

「大丈夫ですわ……まずは休みましょう、ね?梅花さまも」

「はい」


 屋敷には、深紅の髪の美貌衰えぬ珊瑚さんごが待っていた。


「まぁ、ようこそ。いいえ、お帰りなさい。我が家へ」




 馬家に、娘と嫁が帰還した日である……。

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