まずは落ち着き、怪我の治療の確認です。
孟起は、自らの屋敷に案内する。
そして、息子の金剛や、義兄弟の龐令明などに移動中に詳しく聞いた兵達の疲労に、怪我の悪化がないか確認もあり兵舎に人々を収容し、医師を派遣させる。
そして、
「待って下さい‼私も‼皆の元に……」
「何だ、この小さいのは」
孟起に見下ろされ、
「わ、私は荊州の生まれ、馬季常と申します。参謀の端くれとして‼」
「季常どの」
ヘロヘロとする孔明を支えるようにしつつ、趙子龍が、
「参謀は3人。その内二人が大怪我。貴方がすべきことは、どちらが優先か?考えられよ」
「……そ、そうですね。ありがとうございます」
「こちらからも数名、出している。それよりもこれがどういうことか、説明を頼む。それと雲母。女人に幼い子供たちを。休ませて差し上げてくれ」
「はい」
優雅な格好をしているが、隙のない女性。
士元が令明が支えるようにして、連れられていく姿を見送っていた球琳は、彼女に気がつく。
「と、突然の、訪問に申し訳ございません。私は、荊州の龐士元の妻、馬球琳と申します。そして息子の宏と、娘の琳瓊、玉葉と申します」
「まぁ、お会いしとうございました。私は、黄雲母……金剛の母でございます。従姉妹で義妹、琉璃に便りを……」
微笑む。
雲母を見ると、全体的に琉璃に顔立ちが似ている。
儚げな印象の琉璃に比べ、何かを乗り越えた強さが見える。
「ご主人様のご容態はこちらで、まずはお休み下さいませ。長旅にお疲れでしょう……お子さまも」
「お母さん……しんどい」
珍しく宏が母親にぐする。
二人の娘もしがみつく。
「ねえ‼お兄ちゃん、お姉ちゃん‼僕んち行こう‼お休みできるよ‼」
ピョコンと飛び出したクリクリとした瞳の、金剛を幼くした印象の男の子がにっこり笑う。
「お母さん。行ってきます‼行こう?僕は孔雀よろしくね‼」
3人を誘い、先に入っていく。
「……それに、梅花さまも、どうぞ」
案内していく。
ゆっくりと歩いていく中で、
「……あぁ……良かった。ありがとうございます……」
震える声で囁く球琳に振り返り、雲母はそっと近づく。
「……本当に大変でしたわね……」
「何で……何でこんなことに……」
立ち止まり、顔を覆う球琳。
「何で……何で、私は無力なんだろう……何故……嘆くしか出来ないのだろう‼」
「……球琳さま」
「夫を……士元を……支えられるよう……子供たちに……」
「頑張りすぎなくて、良いのですよ」
雲母は微笑む。
今度は苦笑に近い。
「私も、昔は貴女のように、全てをと思っていました。けれど、ダメだとたしなめられたのは孔明さまだったのですよ」
「兄上の……?」
「あの方は、妾同然の立場の私に『選びなさい。金剛の母として生きますか?戦いを続けますか?』と、私は母を選びました。貴女も、沢山背負わなくていいのだと思います。ただ、今は休んで下さい。そして、家族の為に生きたらいいと思います。貴女も頑張りすぎですわ。昔の私と同じです」
抱き締め、慰める。
「私も義母もおります。貴方は一人ではないのですよ」
「き、雲母……さま……」
「大丈夫ですわ……まずは休みましょう、ね?梅花さまも」
「はい」
屋敷には、深紅の髪の美貌衰えぬ珊瑚が待っていた。
「まぁ、ようこそ。いいえ、お帰りなさい。我が家へ」
馬家に、娘と嫁が帰還した日である……。




