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月亮の輝きを……【破鏡の世に……第二章】  作者: 刹那玻璃
季常さんが机上空論から実践に飛び出しました。
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《裏番外編》季常さんの、不器用ながら書いた返事です。

麗朱れいしゅどの


 優しい便りをありがとうございます。

 私は、今までの勉強だけでは全く駄目だと痛感し、今、共に向かいつつ敬兄けいけい孔明こうめいさまに師事し、もう一度勉強し直し、それを机の上でのものではなく実践出来るように、努力しています。

 まだ頼りない半人前以下ですが、それでも、今までの情けない姿を打ち消すように、努力を重ねて行こうと思います。




 昔のことになります。


 今更、言い訳にしかなりませんが、私が出仕する時実家に残していたのは邪魔になったからではなく、貴方が辛い目に遭わないかと思ったからです。

 実家を出ていると聞いた時には、貴方の実家に戻っているとしか考えていませんでした。


 本当に、大変な……辛い目に逢わせてしまい、申し訳なさに情けなくなります。


 今でもこのような中途半端な人間で、恥ずかしいと言うのに、本当にありがとう。

 私は、 貴方達の夫として父として、恥ずかしくない生き方をしていきます。

 では、一緒に届けるのは、前に渡せなかったものです。飾りや衣を姉上たちと選んで下さい。


 季常きじょう


 書き終えた季常はへとへとで、しかし、ぶん殴られるのを覚悟できんと、姉のいる方に差し出す。


「どれどれ……」

「ダメ出しするからな」


 論文か‼


と横で聞いていた士元しげんは心の中で突っ込む。


「……まともだ……書けてるよ‼球琳どの‼」

「本当だ‼季常‼こんなに真っ当な文章をかけるのか‼姉として、本当に嬉しいぞ‼」


 均に驚かれ姉には涙ぐまれ身の置き場がないが、素直に、


「が、頑張りました‼これから、む、娘の……亮花リィアンファに……って、何書けば良いですか‼姉上‼」

「例えば、何を書く」

「えっと、勉強をして論語、春秋、墨子、荀子、孫子……ギャァァ‼姉上に殴られた~‼」

「10才の娘に、何を覚えさせる‼」

「姉上は勉強してたじゃないですか‼」


半泣きで訴える。


「私は私だ‼それと、文字が余り上手ではないのだから『お便りありがとう。これからも時々こうしてやり取りをしてもいいかな?お父さんは文章が固い分かりにくいと良く怒られるので、色々と見たもの、聞いたお話を分かりやすく亮花に伝えて、色々と知って欲しいです。亮花も頑張って文字を勉強して、返事を下さい』位かな?そのまま写さないように?」

「えぇぇ‼」

「娘に初めての手紙だろうが‼自分の言葉で書け‼」

「は、はい‼」


 季常はうんうんと考えつつ、書き始める。


『亮花へ


 お便り本当にありがとう。


 お父さんはとってもびっくりして、嬉しくて泣いてしまいました。

 孔明伯父さんの息子のこう君は、同じ年だけどとても賢い男の子です。

 広君のお兄ちゃんたちも優しくて強いお兄ちゃんなので、何かあったら相談してお話ししてみて下さい。


 それと、これからもお便りを送ってもいいかな?

 お父さんは、とても文章が固くて読みにくい、分かりにくいと言われています。

 今日のこのお便りも、亮花にうまく伝えられるか、喜んで貰えるか心配です。

 でも、頑張って亮花にお便りを送れるように、色々と見たり聞いたりしてみたいと思います。


 そして、亮花もお父さんに色々と教えて下さい。

 文字を勉強した、お花が咲いた、何でもいいです。

 亮花が見たもの知ったもの、お父さんも知りたいです。


 仕事が終わって戻ったら亮花に『ただいま』と言って、色々なお話がしたいです。


 そして、今日貰った便りは、お父さんが今までで貰ったものの中で一番の宝物になりそうです。

 大事にします。

 ありがとう。


 お父さんより』


 この便りを必死に書いて、丁度均と入れ替わりに戻ってきた孔明が読んで、目を丸くした。


「だ、駄目ですか?えっと姉上に、論語とか勉強しろとか書いてはいけない。亮花は文字を余り知らないからって言われたので、私に便りを書いて下さいって書いてみました。私も、兄上もご存じの通り文章が固くて……でも頑張って書くからって」

「いや。優しい便りだよ。亮花ちゃんは喜ぶと思うよ。絶対に」

「ほ、本当ですか?良かった‼」


 嬉しそうな季常に、孔明は本気で驚いていた。




 二つの書簡は相手に届き、亮花は大事にそれを抱きしめ、


「広くん、いますか?」

「いるよ?どうぞ~‼」


入っていくと、書簡を読んでいた広は、


「どうしたの?」

「あ、あの、お父さんからへ、返事が来て、読めないので、読んで下さったら……それに、文字を勉強して、お返事を……」

「うん、いいよ」


と言いつつ、あの不器用な季常なら絶対に堅苦しく、ある意味命令風の文章なら通訳するかと思っていた広は書簡を広げて、想定外の文章に食い入るように便りを見つめた。


「あ、あの……お父さん。前のこと怒って……」


 声が潤む亮花に、広が慌てて、


「違う違う‼もの凄く、亮花のことを可愛いんだなって、あの硬いおじさんに、こんな便りが書けたのかと思って‼あ、隣に座って。読んであげる」


ちょこんと座った少女に便りを読んだ広は、後で周囲に、


「本当だって‼季常おじさんから、亮花にこんな手紙が‼」


と暴露したのだった。

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