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月亮の輝きを……【破鏡の世に……第二章】  作者: 刹那玻璃
成長した子供達のそれぞれの日々(*´-`)
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子龍さんは、この二人で軍が壊滅した意味を知るのでした。

 次第に元気になり、体を動かすこととそして、梅花メイファ強弓ごうきゅうの扱い方を教えたり、食事を作ったりと孔明こうめいは動き回る。


「それは……何ですかな?」


 孔明が近くの川から水をくみ湯を沸かすと、何かを茹で始めた。

 その様子に、子龍しりゅうは気になり問いかける。

 良い匂いがしてきたのである。


「あ、そうです。子龍どのは益州えきしゅう……様々な土地を転々とされていたと思いますが、益州はどのような料理が多いのでしょう?聞いたことはありませんか?ご存じでしたら味覚について、お伺いできますか?」

「あぁ、料理か……一言で言って、辛い」

「辛いと言うと、辛子からし……?」

「いや、複雑な辛さだ。ここに携帯食があるが、一つ召し上がられるか?」


 不可解な返答と、出された携帯食に、


「み、未知の味……初体験」


一応毒や様々な味に慣れてきたつもりだったが、この目の前の物体は……初めて見る。

 そして受け取った孔明は口に入れ、


「うわぁぁぁ‼」


珍しく動揺し、口を押さえ涙目になった。


「どうしたの?兄さん」

「か、辛い‼」

「辛いって、兄さん。そんなに悲鳴をあげなくても……」


と口にした均も、みるみる顔色を変え、


「な、何?この強い辛子の辛味だけじゃなく、他にもビリビリした別の辛さがあるよ‼うわ、うわっ!来る‼」

「あぁ、それは花椒かしょうの味です。益州は霧の国……こちらのように良く晴れると言うことはまれで『成都では、日が射すと驚いていぬが吠える』と言われているのですよ。年に数日ですな」

「……で、では食糧は⁉」

「こちらの近くの地域で豊富に。南には異民族がいる森林地帯です。そちらは暑く、その地域の者と物々交換もしています。中心部でもある程度はとれるのです。貴殿方のご存じの麦は然程とれませんがこういった辛子等も」


均は、手の中の携帯食を見て、


「この辛味……耐えられるかな?」

「と言うか……ちょっと貸して」


孔明は、乾燥したそれを削り器に入れると、現在で言うひしおのような物と、酢で混ぜる。

 また別の味をつけた皿をおき、そして、茹でていた物を出すと、


「はい、均も子龍どのも、食べてみて下さい。前に頂いた張仲景ちょうちゅうけい老師の書簡にあったりょうり

「薬じゃないの?」


と言いつつ辛味のない方のたれにつけ、口にすると、


「うっはぁ~‼モチモチ、で、中の肉がじゅわぁぁ‼薬の味はなくて……うわっ!うわぁぁ‼」


パクパク食べる均。

 子龍も最初は均と同じ味で、もう一口は辛味のある方で食べる。


「これは……食べなれませんが、だが、外の皮に中の肉の味が包まれていて、本当に美味しい‼」

「あー良かった‼同じ国でも味が違うのは解っていましたが、それでも先程の味はビックリしました。でも、慣れるにしても、すぐにこれを食べろと言うのもと思っていて……思い出したんです。子龍どのが言われるのなら、こちら側も、花椒等になれていくようにしないといけませんからね。色々、お互いのよさを出せるようにしたいものです」

「それに、兄さんと子龍どのの部隊は本当に良く統制がとれているし、動くものだから、良く兄さんと兄さんの奥さんの琉璃りゅうりが、賄料理まかないりょうりを作るんだよね。それだけじゃなくて、良く皆の事を見ていて、調子が良くないとか、その場で叱らずに後で呼んで聞くんだ。家族の事とかも心配して、良く見に行ったりもしてるから、もう、申し訳ない……って言ってた」

「え?それって普通じゃない?配下の事も、その家族も守るのが普通」


 その言葉に目をく子龍。


「えと、ちなみに、軍は……」

「子龍将軍は、一応、関雲長かんうんちょう将軍、張益徳ちょうえきとく将軍の次。黄漢升こうかんしょう将軍と同等です」


 子龍はこめかみをグリグリする。


「確か、それではかなりの規模の……」

新谷しんやから江夏こうかに逃げる時の規模にしては少ないですし、女性や子供、お身体の不自由な人を連れて逃げるのに比べたら‼大丈夫です‼」

「いや……そこで、自信満々に言い切られても……」

「あ、前の子龍将軍は女性でしたので、野郎共近づくなって思ってましたが」

「そういう所だけ嫉妬深い亭主で、後は何でもこいなので」


 均は示す。


「と言いながら、均は均で浮気はしないけど、子供たちに親扱いされてない‼」

「あ、小さい時から『お前たちのお父さんは、兄さんだからね‼』って育てたから。玉音ぎょくおん……あ、私の妻も『お前は父親失格だ‼』って言われちゃったんだ‼」


 アハハ‼


大笑いする弟の頭を叩き、


「本当に……玉音どのには申し訳なくて、離婚しても良いよと言ったのですが、首をすくめて『もう、最初から解ってましたので……諦めました』って言われて、もう、泣けて泣けて……」

「今更ここで泣かないでよ?金剛ダイヤモンドあきれてるよ?」

「お前の事だよ‼均!」

「父さん、叔父さん……いつものやめない?将軍困ってるし」

「あ、そうそう。金剛、あーんして」


 親馬鹿を自認し周囲にも隠そうとしない父に、口を開けると中に入ってきた物。

 口をモゴモゴして、しばらくしてごっくんとする。


「……」

「どう?美味しくなかった?」

「……美味しい‼えぇぇ‼あれ、凄いね!外のモチモチも、歯で噛んだらじゅわぁぁって肉汁がでて‼それにつけてるタレも、ちょっと知らない辛さだけど、合うよ‼父さんが作ったの?」


 休憩中も令明れいめいと稽古をしていた金剛は、お腹がすいていたのもあるが、それよりも、


「わぁぁ‼こんな料理があるなんて凄いね‼子龍将軍の地域のですか?」

「あ、いや、その辛味の元は私の知っている益州の花椒と言う物で、益州は辛味の混ざった料理が多いと伝えて……」

「分けて下さったのをタレに混ぜてね。こっちは、張仲景老師の書簡にあった菜。麦の粉を練って、広げて、細かく刻んだ肉と野菜を混ぜたものを入れて、お湯でね……」

「へぇー‼凄いね‼じゃぁ、中身を色々変えることもできるね、父さん」

「……あぁ、そうだね‼金剛は賢いね。今度、又作ってみようかな。今日はあるだけ茹でて、皆で食べようか」

「あ、中にさぁ……」


 ハイハイ‼


手をあげる均。


「何?」

「ん?獣の肉って、結構臭いじゃない?臭いを消す為に何かを入れたら?」

「そうだね……老師の書簡を確認してみるのと、兵糧を見てみようか」

「何なら、私がこの辺りを探して、薬になるものを探しても良いよ」

「ちょっと待って‼」


 孔明は出ていこうとする弟を呼び止める。


「均……解ってはいると思うけれど、ここには怪我人も子供たちもいる」

「うん。それで?」

「……毒は、絶対にダメ‼解ってるよね?」


 弟をじっと見つめる。


「解ってるよね?……その顔は、絶対に何か入れようと思ってた顔だ‼」

「何の事かなぁ?ねぇ?金剛も一緒に行くんだし、そんな心配しなくても」


 話をそらそうとする弟に、


「金剛は、料理の準備のお手伝いです‼一人で行くように‼帰ってきたら中身を確認‼」

「えぇぇー‼折角この地域にあるって言う毒を幾つか拝借しようと……」

「それは良いけど使う相手を考えなさい。私は良いけど、金剛や兵士の皆さん、子龍将軍はダメ‼士元は良いけど、球琳きゅうりんと子供たちはダメ‼」

「はーい‼季常きじょう幼常ようじょう、関親子と殿は大丈夫っと……あぁ楽しみ‼」

「なるたけ多目に採ってきて。私も毒味するし」

「解ってるよ。根っこも採ってくるし安心して‼」


と去っていく弟を見送り、


「じゃぁ、金剛。皆にも食べて貰えるように、肉をさばこうか?」

「うん。解った‼」


 離れていく親子を見送り……子龍にとっての正常値と、彼らのまともの違いを思い知らされた気がしたのだった。

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