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月亮の輝きを……【破鏡の世に……第二章】  作者: 刹那玻璃
成長した子供達のそれぞれの日々(*´-`)
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士元さんは大怪我ですが、孔明さんは死ぬ寸前です。

 士元(しげん)の運び込まれた梅花(メイファ)の馬車ではなく、荷物を入れる馬の引く荷車に場所を作り、孔明(こうめい)を横たえる。

 そして、目の傷の手当ては自分がと言う均(きん)の代わりに球琳(きゅうりん)が乗り込んだ。

 白馬に乗って傍を警護するのは、いかつい『張任(ちょうじん)』の名を捨てた趙子龍(ちょうしりゅう)。


 益州は山岳地帯でありうっそうとした森が多く、がけに細い道を掘るかもしくは杭を打ち、その上に板を貼っていき、通っていく場所すらある。

 しかし、趙子龍が馬にあっさりと乗れると言うことは、かなりの力量と、それだけの実力にあった地位であったと言うことである。


 球琳は初めて会った『趙子龍(かれ)』に、


「子龍将軍。私は、ほう士元の妻であり、後方支援など内政を受け持つ馬叔常(ばしゅくじょう)と名乗るもの。普段は球琳と申します」

「ほ、ほう士元どの‼……も、申し訳ありません‼味方に裏切られ……」

「解っております。夫も、味方の関雲長(かんうんちょう)に裏切られ目を……。この悔しさを貴方も同じに思われているのでしょう……」


感情が薄い……のではなく、必死に抑え込んでいるのが解る美しい女性は、まっすぐ見つめる。


「お願い致します。孔明兄上を支えて差し上げて下さい。優しく、優しすぎるこの兄上を、たしなめるのは本当に難しいですよ。でも、よろしくお願い致します」

「……ありがとう。叔常どのとお呼びすればよろしいだろうか?だが、馬叔常どのというと……『馬家の五常、白眉(はくび)もっともよし』と……白眉どのであろうか?」

「いや、白眉は愚弟の季常(きじょう)。この兄上を義兄弟といいつつ利用して苦しめる男です。後で血を這いずって死んでも、私は……あの愚弟の死を、私は喜ぶでしょう……」


 悲しげな眼差しの球琳の言葉に驚く。


「弟……殿は、賢いと……」

「悪賢いのです。それでいて自分の才能を過信しひけらかし、鳴り物入りで劉備(りゅうび)の元へ。しかし実践を、机上の戦闘しか知らぬ弟は、劉備の怒りを買い、殺されるのはごめんと、私の夫と夫の友人で現在は魏に住まう徐元直(じょげんちょく)兄上とこの孔明兄上を売ったのです。しかも夫は一度は逃げ切れた。もう一人の愚弟末弟の幼常(ようじょう)が夫を罪人だ等と噂を流し、逃げ切れず戻るまで……でも兄上は、琉璃(りゅうり)を盾に取られた。琉璃は兄上と、息子を……」


 湯を沸かして貰い止血をして、矢を抜いていく。

 その度に血が溢れ傷をゆすぎ、薬草を貼り付け布を巻いていくことを繰り返す。

 球琳も辛い作業に、馬を預けた子龍は荷車に乗り、


「私が致そう。球琳どの。幾ら、傷の治療と申しても、これでは力が必要だ。薬をお願い致す」

「ありがとうございます。誰か。新しい衣を。巻く帯も用意して」

「はい‼」


 怪我人の多い、士元の付き添う兵の大部分は、ほう令明(れいめい)に預け、そして、裏切り者の張永年(ちょうえいねん)は広がけろっと、


「これを、均叔父さんに教えて貰ったあれこれ拷問をして、色々吐かせるから。球琳姉ちゃんは安心して~‼ついでに、幼常おっちゃんも絞めておくよ~‼」


と嬉しそうに手を振っていたのは記憶に新しい。


 ちなみに、『白熊(パイシェン)』「紅熊(ホンシェン)」と名付けた大熊猫(ターシェンマオ)親子は、何故か広になつき檻も用意せず、そのまま連れて帰った。


「も、猛獣……」


と呟いた子龍に、金剛(ダイヤモンド)はニッコリと、


「大丈夫です。一応『白熊』より気の荒い『月花(げつか)』と言う暴れ馬いますし」

「暴れ馬‼何処に⁉」

「あれです‼」

「乗せなさーい‼馬に乗って、強弓の特訓します‼逃げないで下さいですの~‼」


どこをどう見てもお嬢様の梅花が踏ん張って、しかも、嫌がり逃げようとする馬を逆に引きずり戻す。


「お、まちなさーいですの‼私の筋力を馬鹿にすると……ウリャァァ‼」


 綱が切れる寸前で、首に腕を回した少女が、脇を締めて……‼

 必死に逃げようとしていた馬が、大人しくなり、


「やったぁですの‼乗せて下さいませね‼」


と言う姿に、


「あの、金剛どの……」

「子龍将軍は、父さんの側近で私の伯父です。呼び捨てでお願いします」


その言葉に、


「こ、孔明どのもだが、広ど……広も梅花どのも……」

「父は、一応力の手加減は知っている怪力で、広は反動や、一瞬の隙に相手の力を利用して投げ飛ばすんです。梅花どのは天性の怪力です」

「あれでは、大丈夫なのか?」

「怪力だから嫁のとか?」

「違う‼力と言うものの使い方を間違うと、人を傷つける‼球琳どのも女性だが、戦場で苦しい思いをして来たのだろう?あのような姫に戦いを教えるのか?私は……」


言葉を無くし何度も首を振る。


「男だ女だではなく、私は……孔明どのの『可愛い子供たちの為に戦う』と言う言葉が、胸を締め付けられた。戦いは権力者の見栄とエゴと、ただの遊戯と思っている愚か者の所業‼その一人が劉備だ‼」

「……子龍兄上。聞いてくれるか?ある、こんな時代には何処にでもあるような話だ。手当てを続けながら聞いて欲しい……」


 球琳の声に耳を傾ける。


「ある青年がいた。血気盛んで正義感を持ち、混乱の世を平静にと望み、田舎から義兄弟の契(ちぎり)を結び戦おうとした。貧乏暮らしで金はなく、仕事をしながら転々と移動し、任侠(にんきょう)の頭のように慕う者を連れてある街に行った。そこで一人の美しい女性に出会う。白い肌に青い瞳、美しい金色の髪……西域の舞姫」


 優しく手当てを続ける球琳の声を聞きつつ、抜き終わった矢の傷を確認する。


「恋に落ち、彼女と共に生きていくことを誓う男とその義兄弟たちは、困ったことがあった。ずっと、町を転々とするのみで、混乱を静める為の戦場に向かう軍資金が集まらなかった」

「……黄巾の乱……だな」

「その頃、ある街に着いた一行を一人の女が見つけた。その女は馬商人の娘で、大きくはないがある程度の財力、周囲の影響力を持っていた。その女は一目惚れをした。一行を従える任侠の長兄を。そして父親に頼み込む。彼と結婚したい」


 傷に薬を当て、布を巻くと、


「男は商人の財力は欲しかったが、すでに美しく優しい妻があり、彼女との結婚は断った。だが、一目惚れをしたその女は、父親と関わる他の商人たちに手を回して貰い、自分と結婚しなければ援助を打ち切ると脅し、仕方なく結婚した。だが、男は愛する妻を傍に置き、怒った女は、夫のすぐ下の弟に命令して妻を追い出させた。しかし彼女は男の末弟たちに姉と慕われていた為に、軍に残りついていった。男も愛情もない女ではなく、愛する妻に会いに行き、二人には子供が生まれた。女の子……妻が麗月(れいげつ)と言う名前だったので、娘に『亮月(りょうげつ)』と名付けた」

「『亮月』……」

「女は夫を恨むことはできず、代わりに娘を生んだ夫の愛妻を憎み妬み……そして、まずは赤ん坊を殺そうと奪い取り、取り戻そうとした母親を殺し、ここでは言えないような……遺骸を辱しめ捨てた。そして愛妻を失った夫は心を凍らせ、妻を殺した女ではなく世界を壊していくことを決めた。その為にまず生きていた娘を名前を取り上げ棄てた。代わりに与えたのは武器と『破鏡(はきょう)』と言う名前。破鏡は戦場でひどい目に遭いながら必死に生きた。その破鏡を守っていたのが『趙子龍』将軍だ。老齢で、広とその兄の統(とう)は孫になる。途中、戦場で果てた将軍の名前を受け継ぎ戦い続けた破鏡は、8才の時に負け戦の殿(しんがり)で取り残され、馬の上で餓えと喉の乾き、怪我で意識を失った。馬はさ迷い、偶然迷いこんだのが臥竜崗(がりゅうこう)だ」


子龍は目を見開く。


「そこは……」

「で、少女はこの兄上に救われ『琉璃(りゅうり)』と言う名前を与えられ、兄上の妻として幸せに暮らしていた。それを……7年前に壊したのは、愚弟たち‼兄上が喬(きょう)と先に出掛け、入れ違いにやって来た愚弟と、連れられてきた3人の男に再会する……。子龍兄上。この先敵は多いが、味方も多い‼この旅の間に教えておく。貴方は絶対に覚えておいて欲しい‼」

「解った‼では、その3人……」

「私の愚弟たちと劉備、関羽は信用してはいけない‼だが、義兄弟の末弟、張益徳(ちょうえきとく)兄上だけは味方‼夫の士元とも友人だ。あの方にだけは、気を許しても大丈夫‼そして……」


 手当てをしながら進む荷車では、球琳の声が広がっていくのだった。

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