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月亮の輝きを……【破鏡の世に……第二章】  作者: 刹那玻璃
成長した子供達のそれぞれの日々(*´-`)
19/84

孔明さんの破壊力にも味方もついていけないようです。

 周囲を囲む敵を睥睨へいげいし、孔明こうめいは不敵ににやっと笑う。


 悪友で鬱陶しく面倒だが、自分よりも判断力に優れた士元しげんの怪我に、その怪我を負わせた悪党……劉玄徳りゅうげんとくにキレたと言うこともある。

 しかしまずは、


「我が名は、諸葛孔明しょかつこうめい‼参謀の端くれ如きに怖じ気づくか‼」


と叫ぶ。


「お前が諸葛孔明‼あの『伏竜鳳雛ふくりゅうほうすう』の……」


 現れた壮年の男に、


「いえ『土竜もぐら』と『鳳雛にはどうにも見えない酒飲みオヤジ』ですが?」

「はぁぁ‼何を⁉」

「えぇ。私は『土竜』です。参謀よりも元々しがない土地を耕し、一人の民の命でも救いたいと祈るものです。貴方方が警戒する劉玄徳に家族を奪われ、家族も逆に私を殺すと脅され、臣下として生きるしかなかった人間です。下にいる味方も同じ理由で……貴方は益州でも有名な猛将、張将軍でございますね?」


 自分の部下を踏みつけ、ボロボロの矛で殴り飛ばしつつ問いかける血まみれの青年が、穏やかに笑う様は、逆に凄みと恐ろしさを覚え、張任ちょうじんは顔をひきつらせる。


「そ、そなたは……あの‼国を奪いに来た国賊の……」

「一応形ばかりは。しかし、聞いて頂けませんか?今この下で、貴方方の一斉攻撃を受けているのは、動きの遅い歩兵、長距離を重荷を負って進んできた、兵士とは名ばかりの武器もろくに持てない一般人同然‼」


 矢を射かけようとした者に、矛の柄で殴り飛ばした孔明は叫ぶ。


「その弱い立場の者たちを見捨てて逃げていった劉玄徳の代わりに、一人でも多く助けようとしていたのは鳳雛‼鳳雛は戦いも知らぬ者を必死に一人でも助けようと、味方で本当は裏切り者の関雲長かんうんちょうに目を斬られ、血を流しつつ必死になっている‼」

「なっ!」


 元々正義感が強く根の真っ直ぐな男は、崖の下をみる。

 自分達は『憎き逆賊』劉備ではなく、そんな兵を襲っていたのか‼


「将軍‼躊躇ってはなりません‼こやつは敵‼」


 現れた男に、孔明は頬笑む。


「ありがとうございます。劉玄徳に益州の細かい地図を届けて下さったそうで、目の見えない鳳雛を置き去りに、その地図を頼りに別道を向かったとか?私はそれを追うつもりだったのですよ?」

「なんだと‼き、貴様‼わ、私を信じて下さいませ‼」

「おや?あの時にご挨拶した時には、偽名を用いていたようですが……知っていますよ?貴方のお名前は……張永年ちょうえいねんどの。あの時は黄公衡こうこうこう殿と名乗られたとか……」


 張任は振り返る。

 味方だと思っていた参謀の裏切りに‼

 しかも、黄公衡は益州成都にずっといたと言うのに‼


「き、貴様ぁぁ‼裏切っていたのか‼」

「ヒィィ‼」

「五月蠅い‼」


 その男を殴り飛ばし背中を蹴りつけて崖下に消した孔明は、矛でドンッと地面を叩き、


「私は‼戦に苦しまぬ国を作る為に偽りの主に頭を下げ、戦い続ける‼その偽りの主が貴方が当然心配しているように益州を襲いかかり、そのまま漢中を経由して長安、西域、洛陽、許都を巻き込むつもりだ‼頼む‼張将軍‼私に力を貸して欲しい‼」


真剣な眼差しに、張任は低い声で告げた。


「私は偽りでも、劉玄徳に頭を下げる気はない‼私の主は、劉子玉りゅうしぎょくさま……ひいては皇帝陛下‼」


 ニッコリと孔明は頬笑む。


「結構です。私の主は、現在許都にて住まわれる方です。この事は、許都の表向きの主である曹孟徳そうもうとくどの、江東の孫家の孫尚香そんしょうこうさまもご存じです。張任どの……お願い致します‼民の為に戦いを収める術を共に探ってくださいませんか‼」


 矛をさかしまにし、どっと地面に突き立てた孔明は、深々と拝礼をする。


「他の地は知り尽くした私でも、この益州については情報も少なく、その為偽りの使者だと解っていた鳳雛すら、信じざるを得なかったのです‼私達は戦いを続けていく意思はありません‼戦いを納めていく道を探しているのです‼お願い致します‼苦しむ小さな命を民を……血を流しつつ、飢えを抑える為、武器を持つものもおります‼私は弟と共に、それぞれの地域に見あった作物を育て、人々が飢えぬよう、その為に折角終わらせた戦いを再び始めぬよう……道を探しております‼手をお貸し下さいませんか?お願い致します‼」


 あれ程傲然とした眼差しで周囲を見回していた青年は、悲痛な思いを訴える。


「お願い致します‼」

「……諸葛孔明どの。頭をあげられよ」


 低い、しかし暖かみのある声にはっと頭を上げると、周囲は武器を捨て、膝をついて頭を下げていた。


「なっ!」

「……劉玄徳にではなく、貴方に降伏致そう。諸葛孔明どの」

「な、何を⁉」

「……あやつ……張永年が裏切っているとなると、中心にいる法孝直ほうこうちょくは野心家で完全に裏切っている。その腰巾着……というよりも、子玉様のあの優柔不断さに心が揺れやすいのは孟子敬もうしけい‼」


 苦しげに伝える張任の前に、膝をつき、


「えぇ‼情報をある程度調べ、その辺りは‼しかし、真に益州を憂える方は‼」

「いや、あの、降伏した者の前に、土に額を押し付けられても……」


孔明は必死に叫ぶ。


「お願い致します‼教えて頂きたい‼黄公衡どのは、遠縁の黄漢升こうかんしょう将軍が、気概があり裏切りなど侵さぬ‼と言われております‼お願い致します‼」

「こ、孔明どの‼このままではらちが明かぬ‼まずは落ち着いて話をさせて頂きたい‼」

「あ、そうでした……すみません。必死になると、他が見えなくなりまして……」


 あはは……、

頭をかく青年を見上げ、はっとする。

 孔明は、自分達のような武装はしていない‼

 つまり矢が突き立ち、折れて、周囲が赤く染まっているのは……。


「貴方はそのような姿で、矢を受けて戦っていたのか‼」

「いつも通りです」


 平然とする青年に、


「いた、痛くは……」

「それは痛いですが、私は徐州を逃げ回り荊州に逃れ、江東の戦いに赴き……と転々としているのです」


淡々と続ける青年の凄絶な生きざまに蒼白になる者もいる。

 そんな中、


「私は地獄を見てきました。私の息子たちも、北の河の向こうの故郷を追われ、見たことも、あったこともない祖父を探して荊州にやって来た子供もいるのです。5才だった4男には私以上に苦しい時があったに違いありません‼私は……その息子たちを、戦場に立たせたくなく……それでも……それでも……生きる道として、戦い抜く参謀として武将として育て……」


頬に伝う滴。


「自分が血に染まるのは構わない‼でも……可愛い息子たちを、血で染めたくない‼たとえ我儘で傲慢でも……つじつまが合わなくとも‼」

「……っ‼」


 周囲は息を飲む。


「下にいる若い武将は、長男と5男です。5男は、3才の時に二つ上の兄と共に河を渡り、私の元に来ました。5人の息子はそれぞれの得意分野をいかし、未来を私と共に探しています。そして、向こうの崖にいるのは弟です。4才下の弟はずっと私のそばにいました。地獄を共に生き続けて……。そして妻は物心着いてからずっと戦い続け、8才の時に捨てられ、死ぬ寸前に私と出会ったのです。身体中傷だらけ、飢えをしのぐものもなく、やせこけ、人に裏切られ続け怯え、自分を守る武器を探していた……傷口が腐る寸前であばらは浮いて……それでも‼」

「……」

「必死に、その怯えて飢えて、寂しいと訴える瞳を救いたかった‼でも、あの、劉玄徳が‼」


 涙を流しつつ、叫ぶ。


「あの男が‼妻と私と……家族の幸せを壊した‼私は……私は‼あの男をけして許さない‼たとえ地獄に落ちようとも‼私があの男を殺してくれる‼」


 その宣言に気迫に叫びに……張任も、周囲の者も言葉を失う。

 そして、


「私怨です……ですが‼本当に、本当に……戦を……‼」


ゼイゼイと喘鳴ぜいめいする孔明は倒れ込み、囁いた。


「平穏な世界が……欲しいのです……力を貸して欲しい‼……琉璃りゅうりの為に……」


 土をつかみ、そのまま気を失ったのだった。

張任ちょうじん……生没不明、蜀、益州の武将。正史では劉備が攻めこんだ際に戦死。字不明。


黄公衡こうこうこう……黄権こうけん。劉備が益州にはいるのを止めようとした。降伏後は関羽と張飛の敵討ちに出兵した劉備について行き、破れて魏に降伏。


張永年ちょうえいねん……張松ちょうしょう法孝直ほうこうちょく孟子敬もうしけいと共に、劉備を益州に迎えた。途中、殺害される。


法孝直ほうこうちょく……法正ほうせい。劉備を益州に迎えいれ、その後側近として権力を握った。


孟子敬もうしけい……孟達もうたつ。三国演義の字は子慶しけい。正史の字は子敬。しかし、劉備に仕えた頃らしいが、劉備の叔父に敬と言う名を持つ人物がいたため、字を子度しどに改めた。魏に降伏したものの、反逆を起こし、司馬懿に滅ぼされた。


という感じです。


よろしくお願いいたします‼

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