循ちゃんの落ち込みは最低まで下がりました。
統が諸葛家の最大級の、父の孔明がいない時の最高権力者だと解ったのだが、循の話の続きである。
広が爆笑し、統が後ろを向いてプッと吹き出し、喬は必死に、
「お、お兄ちゃん!!だ、大丈夫だよ!!多分……」
「多分って何?喬まで……」
つい、ムカッとして食って掛かろうとした循の頭を、ゴーンと一撃するのは統。
「私のお兄ちゃんに何するんですか!!」
「私だって兄じゃないか……」
頭を押さえ、弟を睨む。
「何言ってるんですか!!お兄ちゃんと兄上は同じじゃありません!!お兄ちゃんは、私の一番大事なお兄ちゃんで、尊敬する兄上は金剛兄上!!兄上は……昔同室だっただけです!!」
「どれ位、下なんだよ!!前は笑って聞いてたけど、ものすごくムカつく!!」
「お、お兄ちゃん!!待って!!統は全然悪気ないから!!お兄ちゃんより祐蘭が大好きなだけなんだよ!!」
喬の一言も何気に酷いが、喬は元々兄弟の中ではおっとりボケである。
顔をひきつらせながら、一応、
「祐蘭が?」
「そうだよ!!ね?統」
「う~ん……お兄ちゃんの次位に可愛い、です!!」
何処に力を込めるのか、腹が立っていた循だが遠い目をしたくなる。
何で、婚約者である祐蘭のことを、祐蘭の実兄でもある自分の前で、喬の方が上と言われる羽目になったのか……。
喬は喬で、
「駄目だよ~?祐蘭は、とってもとっても可愛いでしょう?ちゃんと可愛いですって言わなきゃ」
「じゃぁ、お兄ちゃんとおんなじ位?でも、お兄ちゃんと祐蘭が危険になったら、お兄ちゃんだっこして逃げます!!」
「えぇぇ?祐蘭どうするの!?それに玉蘭もいるのに」
喬の一言に、統は、
「大丈夫です!!玉蘭姉上は兄上より強いので、兄上蹴り飛ばして、祐蘭と来るそうです!!この間、玉蘭姉上とちゃんと約束しました!!それに姉上によれば、姉上は出仕をされていないので、祐蘭の近くにいることが多いから、何かあったら祐蘭と手を繋いで、それか馬に乗って来るそうです。場所を決めておいたら、私の方がお兄ちゃんのいる所なら分かるので、逃げられるでしょう?ね?ちゃんと姉上と協定を結んでます!!仲良しになったんですよ!!」
誉めて誉めて!!
と、喬ににこにこと笑う。
「玉蘭と仲良くなったんだね?良かったぁ。じゃぁ、大丈夫だね!!」
「はい!!」
「いや、大丈夫じゃないだろ!!私はどうなる?それに、広に金剛兄上は!!」
突っ込んだ循だが、広があっさりと、
「あ、大丈夫!!俺、兄ちゃん担いで逃げてあげるから。でも危険になったら、敵に投げて逃げるからね!!その後は、一人で逃げられるように鍛えておいてね?兄ちゃん」
「投げて逃げるからじゃない!!私を何だと思ってる!?」
循の言葉に、統と広は顔を見合わせ、
「兄上は、投擲用武器!!」
「兄ちゃん?それ言っても解らないから。はっきり言って循兄ちゃんは、俺の筋力をつける為の重しがわりで、逃げる時には石!!大丈夫!!兄ちゃんなら逃げ足早いから!!」
「広?駄目だよ!!お兄ちゃんは武器じゃなくて、軍略家なんだよ?投げちゃダメ!!使いなさい!!お兄ちゃんの体を投げるより、頭を利用して逃げて逃げて逃げ切るの!!で、最後にダメだったら投げていいよ!!」
弟たちの言葉に、本気で怒鳴り付けようとした循だが、その後ろで、
「喬!!偉いじゃないか。良く考えたね!!うんうん」
「本当に統も考えたな!!そうやったか。お前も賢いな!!」
「広も考え方が柔軟になったね!!」
子仲と憲和、機伯の声の後ろで、大爆笑しているのは……、
「父上!!何で笑ってるんですか!!」
「投げるより、利用し尽くされて……あははは……!!」
涙を拭きながら笑っている。
「……父上、一応、利用される息子のことが悲しいと泣くんですよね?」
一応……一縷の望みを託して問いかけたのだが、公祐は、
「あははは……お腹が、お腹が痛い!!循……流石は、孔明殿の息子たちです!!そのまま素直に頑張りなさい」
「頑張ってどうするんです!!父上!!私を何だと!!」
「と言うか、お前、統や広だけじゃなく、喬にまで遊ばれてどうするんだ?」
憲和の言葉に弟たちを振り返り……笑っている3人を見て、遊ばれたことに気がつく。
「喬まで!?酷いじゃないか!!」
今度こそ食って掛かった循だが、統と広が、
「お兄ちゃんに何するんですか!!」
「そうだそうだ!!いっつも、俺をからかう癖に!!仕返し位で、喬兄ちゃんを苛めるな!!」
と、統が腕をつかみ引き寄せ、受け取った広が牀に放り込んだ。
「お兄ちゃんを泣かせたら」
「父ちゃんに言いつけるかんな!!」
解ったか!!
と言う、二人の弟の言葉に、喬は、
「お兄ちゃん?大丈夫だよ!!僕は無理だけど、お兄ちゃんは元気で体力があるから!!公祐様に猛特訓お願いしようよ!!ね?」
「それはいいですね……体もこの頃なまってきていますし、循。しばらく早朝に相手をしなさい。良いね?」
循は、早朝から父の特訓を受けつつ出仕し、現在代理で上司となっていた蒋琬に、
「夜遅くまで起きていてはダメですよ?仕事をきちんとしなさいね?」
と優しいものの、お説教を食らう羽目になったのだった。