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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第四章 指名調査依頼「竜の棲む火山島」編
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閑話 竜と勇者

『行ったか…』

『そうですな』


人がこの島に来たのは、いつ以来になるだろうか。

最近は来るのも我らの鱗や牙などが狙いの、身の程知らずの愚か者ばかり。


そんな輩は上陸させることはない。

もし無理やり上陸しようなどとすれば、その身を以て身の程を知ることとなるだろう。


『人間とは面白いものよな』

『人間ですか?』

『うむ。人間よ』


この世界とは別の世界から来た者。


『あやつ等も、そうであったわ』


遥か昔に思いを馳せて、この島に上陸した人間を思い出す。

当時の炎竜王は、開闢の折より生きていると言われるほどの高齢であり、世代交代の時期だと言われていた。


---


『長!人族がやってきた!』

『なんじゃと?』

『人が?』

『またか』

『どうせ儂らの身体が目当ての身の程知らずじゃろう』

『左様。人とはバカなものよな』


この時代。

人と竜の関係など既に途絶えており、食糧として見ることはなくとも、その理由もただ美味しくないというだけのことであった。


それでも竜の素材と言うのは人にとって魅力的であるようで、命知らずにも一攫千金目指して唯一わかっている竜の巣、この火山島にやってくる者は多かった。


しかしもちろん、火竜たちにとっては、自分たちを素材としか思っていないような「人」など面白くなく、また自分たちにとっては何の益にもならない弱い存在である「人」に時間を取られるのも面倒だった。


それ故に、もはや人に対する制裁行動に出ることも止む無しと話し合っていた時の出来事であった。


『何人じゃ?』

『それが…二人なのです』

『二人だと?!』

『舐めおって』


ここに来るような者は、人の中では上位に位置するだろう奴らばかりだ。

だからと言って、二人で来る者はいない。

最低でも5人。

10人以上いた所で、太刀打ちできるわけではないのだから。


『イグリアード、返り討ちにしてこい』

『はっ』


今の炎竜王イグリアードは、当時の炎竜王の直系であり、研鑽を積んだ火竜が成る紅焔竜に早くも進化していた。

炎竜王を含む火竜の内、火山島最強の存在として次期の王となるべく学んでいる最中であった。


---


『即刻立ち去れ、人よ!ここは我ら火竜の領域!立ち入ることは許されぬ!』


炎竜王からすれば、明らかに他の火竜よりも格上とわかるイグリアードを出すことにより、無駄な時間を無くそうとしただけのことであった。

イグリアードは人に対して強く敵対心を持っている個体で、滅ぼしてしまえばいいとは思っていたが、だからと言って長の意図を無視し、攻撃をしかけようとも思っていなかった。


ただ、今回は色んな意味で勝手が違った。

その一番の原因は、現状火山島最強であるイグリアードと真っ向から相対できる力を、その来訪者が持っていたことだろう。


「おうおう、初めて見たぜ!これが火竜か!なぁ重蔵!」

「はしゃぐな(ハジメ)。まったくお前に付き合っていると命がいくつあっても足りん」

「まぁそう言うな!魔神と戦うためには最高の防具がいる!ファンタジー素材と言えば竜だろう!」


双方とも珍しい黒髪の青年。

勇次と呼ばれた青年は、背に力を放つ剣を背負い、重蔵と呼ばれた青年は腰にひと振りの刀を佩いている。


イグリアードは驚いていた。

この青年たちには、自分に対して恐れを抱いていない。

命がいくつあっても足りないと言った青年も、まったく気負った様子がない。


『…お前ら一体何が目的でここに来た?』


それにイグリアードは興味を抱いた。

今まで来た人どもとは違う雰囲気を宿すこの二人。


金に対する妄執も、火竜に対する恐怖も、自分に対する傲りも感じられない。

自分が見てきた人とは違う生物であるかのようであった。


「お前たちの鱗が目的さ!だが、参ったなぁ。火竜にはちゃんとした知性があるのか。まさか言葉を喋るなんてなぁ」

『ふん。貴様らだけが偉いとでも思っているのか。これだから人という生き物は』

「悪かった。でも、俺たちはどうしてもお前たちの鱗が欲しいだよ。なんとかならないか?」

『人の欲望というものは…ん?待て。先程貴様、魔神と言ったか?』

「そうだ。俺たちは魔神を倒すために召喚されたんだ」

『召喚?…しばし待て。長に聞いてこよう』


気まぐれだった。

普段のイグリアードならば、相手にしなかったかもしれない。


だが、どこかこの雰囲気の違う男たちのことが気になった。

それは自分でもわからない感覚であったが、何故か長に話してみようという気になったのだ。


---


長に話を通すと、幾竜かの反対もあったが、結局島への上陸を許すことになった。

俺は引き返して二人を長の下へと案内する。


長は二人から話を聞いた。

その結果、二人が召喚された勇者と呼ばれる人とそれに巻き込まれた人であることがわかった。


魔神と戦う防具に竜鱗を使うため、この島へと取りに来た。

竜は人に仇なす魔物であると教えられていたために、斬って剥ごうと考えていたらしいが、知性と理性がある魔物が理由なく人を襲うはずもない為、どうしようかと思っているらしい。


『…面白い。ならば一つ勝負をしてやろう。お主がそこのイグリアードに勝つことができれば、鱗だろうと牙だろうとくれてやろう』

「ほんとか!」

『勝てればな』


イグリアードは口に笑みを浮かべながら歩み出る。

退屈していたところだった。


---


勇者たちとの戦いは、二日も続いた。

双方疲労が溜まる中、それでも勝負はつかなかった。


だがその中で、イグリアードと始には確かな友情とも言える絆が芽生えており結局自分の生え変わった時に落ちた鱗と牙をくれてやった。


始たちは、喜んで島を去った。

イグリアードは自分も魔神との戦いには参戦すると言ったが、長に許されず月日は流れた。


そして、再度始と重蔵は火山島に上陸した。

前回会った時のような明るさは影を潜め、その笑顔も無理に浮かべているようだった。


始たちはこの島にある物を隠させて欲しいと言った。

話を聞くと炎竜王はそれを了承。


始は上陸した岸とは島の反対側に小さな祠を建てた。

結局、そこに何が隠されたのかイグリアードが知ることはなかった。


---


『もう何年前となるのかのぉ。じゃが、あやつもまた、厄介な星の下に生まれたようじゃな』


違う世界に生きていながらこの世界で最大級の厄介事に巻き込まれるとは。

だが、今回は、あの時友と一緒に戦えなかった分、我らも戦うと決めている。


魔神と戦う日も近いのかもしれない。

あの人間から情報を得るだけでは足りない。


久しぶりに、他の竜王、そして竜種の神にも会いに行かねばならないかもしれなかった。

炎竜王イグリアードはかつての友を思いだし、新しき友を思い出す。


覚悟は既にできていた。


---


「俺は灰場始(はいばはじめ)だ!お前強ぇなぁイグリアード!」

『ふん。貴様こそ。弱き人の分際でやるではないか』

「はっは!言ってくれるぜ。なぁイグリアード!俺たちもう友達だな!」

『友達?』

「そうさ!拳を交えたんだからもう友達さ!」

「交えたのは剣と牙だ」

「細かいことはいいんだよ!!」


地形が変わる程の戦闘をした後。

楽しそうに笑う二人と、一竜の姿がそこにはあった。

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