朝倉攻め
「カニ食べたーいっ!」
「何ですか、殿。急に大声を上げて。思わずレッドロブスターのCMかと思っちゃいましたよ」
「そういえば昔、そんなCMもあったわね。最近はほとんど見かけないけど、レッドロブスターってまだ営業してるのかしら」
「失礼ですね、今でも普通に営業してますよ」
「あら、そうなのね。って、今はそんな事どうだっていいわよ」
「気にしてたのは殿じゃないですか」
「アンタがレッドロブスターとか言い出すからでしょーが。言っとくけど、ロブスターはカニじゃなくてエビだから。てか、ほとんどザリガニだから。デカいザリガニがロブスターだから」
「よくそんなデタラメな事が言えますね。ザリガニはザリガニですよ。それに、ザリガニはロブスターほどデカくなったりしませんって」
「うるさいわね。とにかくアタシはカニが食べたいの! カーニっ!カーニっ!」
「そんなに連呼したってダメですよ。まともなカニは尾張では獲れませんから。獲れたとしても、せいぜいワタリガニ程度ですからね。最悪、沢ガニでも食べて我慢して下さい」
「イヤよ。なんで沢ガニなんか食べなきゃなんないのよ。沢ガニなんて、ほとんど釣りエサでしょーが。それにあんなモン、固い殻や爪ばっかで身なんて無いも同然じゃないの」
「じゃあザリガニでも食べて我慢して下さい」
「そんなのもっとイヤよ。ザリガニって、ガニってついてるけどカニじゃないからね。どっちかっていうとエビとかヤドカリだから。アタシはカニが食べたいの! 横にしか動けないやつ! 将棋で言えば飛車みたいな食べ物!」
「あれ? 飛車ってタテにも動けませんでしたっけ?」
「あら、そうだったかしら」
「そうですよ。前に進めない将棋の駒はありませんからね。あと、飛車は食べ物じゃないので、飛車みたいな食べ物!とか言われても意味不明ですよ」
「うるさいわね。そんな事より、アタシはアンタが言ってる沢ガニやザリガニみたいなちっこい淡水生物なんかじゃなくて、海で獲れるでっかいカニが食べたいのっ! カイデーなニーカー!」
「だーかーらー。さっきからまともなカニは尾張じゃ獲れないって言ってるじゃないですか。分からない人ですね。逆さ言葉で業界用語みたいに言われても、無理なものは無理ですから。リームーですから!」
「アンタも業界用語みたいに言うんじゃないわよ」
「殿のマネをしただけですよ」
「あ、そうだ。恒興」
「何ですか、殿」
「だったら、まともなカニが獲れる国を攻め落としちゃえばよくない?」
「ずいぶん簡単に言いますね」
「カニがいっぱい獲れる国ってどこかしら」
「カニと言えば越前ですね」
「エッチ前? エッチの前って言ったらシャワーを浴びるのが常識よ。全身きれいに洗って、特にアソコの周辺は念入りに洗っておかないと、相手が嫌がって舐めてくれないわよ」
「いったい何の話ですか。エッチ前じゃなくて、越前ですよ。え、ち、ぜ、ん!」
「冗談よ。それじゃ、越前ならカニがいっぱい獲れるわけね?」
「そりゃまぁ、越前ガニって言うくらいですから、美味しいカニがたくさん獲れるでしょうね」
「やっぱそうよね。よーし、こうしちゃいられないわ、恒興。今すぐ戦の準備をしなさい。越前に攻め込むわよ」
「そんな急に言われても……」
「キュウもジュウもないわよ。アタシがやるって言ったら絶位やるわよ。ヤリたいときにヤリまくるのがアタシなんだから!」
「ヤリまくるとか言わないでもらえますかね。違う意味にしか聞こえないので」
「ところで恒興。越前って誰の領地だっけ?」
「越前は朝倉義景の領地ですね」
「それじゃあ、朝倉攻めってことで。皆の者っ! 今からさっそく出陣よーっ!」
「ちょっと待ってください、殿。まさか『カニが食べたい』っていうだけの理由で、朝倉と戦をするつもりですか」
「いけない?」
「いいわけないでしょ。何ですか、その食欲全開の理由は。第一、そんな理由じゃ大義名分が立ちませんよ」
「大義名分なんて、後付けで何とでもなるわよ。『朝倉に織田侵略の兆しあり』とか、適当にでっち上げときゃいいのよ」
「そんな兆し、どこにもありませんよ。完全に言いがかりじゃないですか」
「そんなの当たり前でしょ。だってアタシはカニが食べたいだけなんだから。あれ? もしかしてアンタ、カニが嫌いなの? それとも甲殻アレルギー?」
「べつに嫌いじゃないですし、そんなアレルギーはありませんけど……」
「甲殻っていえばさ、口角はだいたい30度くらいの角度で上げるように意識するといいらしいわよ。スマイルセラピー協会会長のマック赤坂がそう言ってたわ。10度、20度、30度!」
「たしかマック赤坂って、東京都知事選挙に何回も立候補しては落選していた人ですね。港区議会議員になったときはニュースになってましたね。……って、いまマック赤坂の話とか、関係なくないですか?」
「彼、関西で立候補するときは、マクド赤坂って名乗るらしいわよ」
「たしかに関西人はマクドナルドをマクドって省略しますよね。関東ではマックですけど」
「あら、もしかして本気にした? 冗談よ、冗談」
「そんな冗談はやめてもらっていいですかね。時間のムダなので」
「うるさいわね。それよりアタシは、カニが食べたいの。だから越前の朝倉を攻めちゃえばいいのよ」
「殿は浅井長政殿との約束を反故にするつもりですか?」
「そりゃ方便ってヤツよ。ことわざにもあるでしょ、『嘘も方便』って。例えば、『何もしないから』って言いながら女の娘をラブホに誘った男が、本当に何もしないわけ無いでしょ。誘われた女の娘だって、嫌々ついてくるフリをしてるだけで、内心は『貴方の太くて長いフランクフルトで私をメチャクチャにして〜』とか思ってるに決まってるんだから」
「ちょっと何言ってるか分かりませんね」
「とにかく、もうアタシは越前に攻め込むって決めたのっ! じゃあ行くわよ、それーっ!」
「いやいや、ちょっと待って下さい。浅井家との同盟はどうなるんですか。浅井家と同盟を交わした際、長政殿から『浅井と前々から親交が深い朝倉は絶対に攻めないで欲しい』って、さんざん念を押されましたよね。そのとき殿は『分かった。朝倉は攻めない』って約束したじゃないですか」
「……記憶にございません」
「そんな政治家みたいな言い訳をしたってダメですよ」
「うるさいわね。長政はアタシの義理の弟なんだから、そんなに心配しなくて大丈夫よ。朝倉を滅ぼした後で、お土産にカニの一匹でも持っていけば、それで許してくれるわよ」
「カニ一匹で誰が許すかよ」
「カニだけに、堪忍して。なんてな」
「そんなダジャレで許してくれるわけ無いでしょ」
「そうだ、出陣の際は、お酢とお醤油を持って行かないと。カニは酢じょうゆに付けて食べるのが一番美味しいからね」
「人を話を聞けっつーの!」




