好みのタイプ
今日は、パールと一緒に契約獣申請に来ている。ルーフとアルは留守番だ。
今回も陛下が直接手続きしてくれた。
「はい。できたよ。」
「陛下、ありがとうございます。」
「仕事だからね。そうだ!この後、お茶でも飲もうか?」
「陛下、仕事があります。」
お父様の顔が険しくなる。
「少しならいいだろう?」
「陛下。」
「全く、ジャックは硬いな。可愛い子と少しの休憩ぐらい良いだろう?」
「うちの娘が可愛いのは認めますが、これとそれとは違います。」
「えー。…あ、分かったよ。今日はやめよう。また今度にしよう。」
陛下は不自然に意見を変えた。
その時、
コンコンコン
ドアがノックされる。
「どうぞ。」
「父上。用事とはなんですか?」
ひとりの男の子が入ってきた。
その男の子と目が合う。
「!」
男の子はこちらを見たまま、動かなくなった。
「?」
「陛下。謀りましたね。」
「何のことか分からないな~。」
二人のそのやり取りはサリーナには聞こえていなかった。
この子、どうしたのかしら?
私が首を傾げると、男の子は勢いよく下を見た。
「私の次男、アイザックだよ。」
「失礼いたしました。サリーナ·スウィンティーでございます。」
私は礼の姿勢をとる。
「お~い!ザック、挨拶くらいしなさい。」
「あ、えーと…すみません。アイザックです。ザックと呼んでください。」
「申し訳ございません。それは、出来かねます。」
「え?」
「殿下を愛称呼びなど…。」
「その通りだな、サリーナ。」
その言葉に、お父様も肯定する。
「そ、そうですか…。」
アイザック殿下、何か悲しそうだけど。
えーと…。
どうしたらいいのか分からない私は、お父様を見た。
「さぁ、帰ろうか。門まで送るよ。」
「はい。」
「ちょっと待って。宰相は仕事があるでしょうが。ザック、サリーナ嬢を送って差し上げなさい。」
「は、はい。」
お父様は陛下を睨んでいる。陛下はそれを気にせず、にこにこしている。
「……………アイザック殿下、娘をよろしくお願いします。」
「は、はい!」
諦めた顔をしたお父様の言葉に、アイザック殿下は元気に返事をした。
この流れって…、まさかね。
サリーナとアイザックは部屋を出て、馬車の乗り場まで向かう。
「…」
「…」
ふたりは、会話なく進んで行く。
その後ろをパールがついてくる。
「そのヒョウは、サリーナ様の?」
「様は付けないでくださいませ。サリーナで結構でございます。」
王子が私に様をつけるのはおかしいでしょ。
「分かった。」
「このヒョウは、パールと言います。私の契約獣ですわ。」
「契約獣?連れている人を始めてみたよ。」
「お父様に聞きました。契約する方は少ないようです。」
「ああ。えーと…サリーナは、いくつなのかな?」
「3歳です。」
「え?僕より5つ下?」
「5つと言いますと、アイザック様はリオン兄様と同じですね。」
「ああ。ダリオンか?同じクラスだ。」
「そうなのですね。アイザック様は今日は学校ではないのですか?」
「予定があって休んだんだよ。そうか…リオンの可愛い妹君はサリーナのことか。」
お兄様、どんな話をしているの…?
少し照れくさい。
「アイザック様は予定がお有りでしたのね?送っていただいて、申し訳ございません。私、ひとりでも行けますから戻ってください。」
「大丈夫だよ。父上が言ったんだ。時間も大丈夫さ。」
「はぁ…。」
その後は、また無言になり、そのまま我が家の馬車が待つ城の入口まで来た。
「サリーナ。ま、また遊びにおいで。」
「あ、えーと、ここへ遊びに来るのは、なかなか…。」
「そ、そうか。」
「でも、兄様のいる時にでも我が家へいらしてくださ…」
「必ず行くよ!」
私の言葉に被るように返事が返ってきた。
「は、はい。お待ちしております。」
びっくりしたぁ…。
私は馬車に乗り込んだ。すると、すぐにパールが口を開いた。
「リーナ。貴方もやるわね。」
「なんの事?」
「分かっているでしょう?」
「…やっぱり、そういう事なのかな?」
「それ以外にある?」
「でも…。」
「確実に王様は、見合いを画策していたわね。王子様も満更ではない…というか、一目惚れよね!ビビッとハートに矢が刺さるのが見えたわ!」
「パール…。落ち着いて。」
「だって、恋の話って楽しいじゃない!」
「他人のを聞く分には、ね…。」
3歳と8歳の恋模様ってさぁ、どうなの?
私、中身20代後半だし複雑…。
---ダリオンside---
「リオン!お前の家に遊びにいく!」
「は?」
昨日休んだと思ったら、今日は何でこんなテンションなの?
僕とアイザック殿下は、友人だ。学校では、身分関係なく過ごしている。ふたりとも次男だし気楽なもんだ。
「昨日、サリーナと会って約束したんだ。」
「あ~、契約獣申請の時?」
「ああ。」
なんか嫌な予感…。
「サリーナって、可愛いよな…。」
「可愛いよ。本人は、あまり分かってないけど。」
「あのさ…」
「駄目だよ。」
「まだ言ってないけど?」
「遊びも来なくていいから。」
「いやいやいや。約束したし。」
「僕から言っておくから大丈夫だよ。」
「大丈夫じゃないから!」
「…サリーナは3歳なんだけど?」
「知ってる。はじめは5,6歳かと思ってた。」
「あ~。」
サリーナは、服装も言動も大人っぽいから。
「でも、3歳と分かっても、可愛いものは可愛い。5歳差なんて大人になれば、ないようなものだろう?」
「大人になったことないのに、分からないじゃん。」
「兄上が言ってた。」
「婚約者は歳上なんだっけ?」
「そう。3歳上。」
「隣国の姫様だよね?」
「そんな事より、いつなら良い?」
「チッ…。」
「話を変えようとしても無駄。」
「はぁ…。お父様に聞かないと、分からないよ。」
「じゃあ、よろしく。」
「分かったよ。」
多分、許可は出ないと思うけどね。
◇
「…ということなんですが。」
「やはりか。だから、会わせたくなかったんだ…。リーナを見たら、皆が惹かれてしまう。」
父上は、項垂れた。
「陛下は、リーナとザックを結婚させたいのでしょうか?」
「ああ。魔力量もそうだが、契約獣を3匹連れているなど、今まで聞いたことがないからな。」
「それで、どうしますか?」
「とりあえず、断ろう。」
「良いのですか?」
「王家だろうと関係ない。陛下も無理強いはしないと言っていた。何度か断られたくらいで、諦める様ではリーナを任せる事はできない!」
「分かりました。忙しいから無理だと話しておきます。」
「頼む。」
◇
「どうだった?」
学校へ行くと、アイザック殿下がすぐによってきた。
「忙しくて饗せないのでお断りします、と。」
「嘘だよね?」
「本当。」
アイザック殿下が、こちらをジッと見てくる。
「リオン。」
「何?」
「いつなら良い?」
「はあ…。ザック、しつこいと嫌われるよ。」
「いや、それは困る!じゃあ、サリーナの好きなタイプを教えてくれ!」
「3歳の?」
「3歳でも、好みはあるだろ?」
「知らないよ…。」
「聞いてくれ!」
「ちょっと、落ち着いて考えなよ。」
「自分でも分からないんだけど、今頑張らないと駄目な気がするんだ。」
「…」
「大人の時に好みの男になっていたい。」
「好みは変わるよ。」
「不思議とそんな気はしないけど、もしそうなったら、路線変更するよ。」
勘がいいのか、単純なのか分からないな…。
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私は、夕食から寝るまでの時間、私室でパールと、ルーフ、アルと一緒に過ごしていた。パールは私の横に座り、ルーフは私の膝に頭を乗せ、静かに頭を撫でられていて、アルは窓辺で羽づくろいをしている。
「パールの鑑札はどこに付ける?」
「そうね。ルーフのように首か、アルのように足に付けても良いわね。悩むわ。」
「明日、職人さんが来てくれるから、それまでに方向性を考えておきましょう?」
「オーケー!」
そんな話をしていると、
コンコンコン
ドアがノックされた。
ルーフが膝から退く。
「はい、は~い。」
「僕だよ。」
リオン兄様?
メルは、もう私の寝支度を終えて、退出しているので自分でドアを開けた。
「リーナ。少し聞きたいことがあるんだけど、今いいかな?」
「はい。中へどうぞ。」
リオン兄様は室内に入り、ソファに座る。
私はその向かいに座った。
「聞きたいこととは、何ですか?」
「あー、うん。答えたくなかったら、答えなくても良いんだけど…。」
「?」
「リーナの好みのタイプはどんなの?」
「え?」
「まぁ!それって、もしかして王子様からの質問!?」
パールが騒ぎ出した。
「分かる?」
「だって私、ハートに矢が刺さる瞬間を見てしまったもの!」
「パール…。リオン兄様、お父様は私とアイザック様を結婚させたいのですかね?」
「お父様は、させたいと思っていないよ。隠してても分かるだろうから言うけど、陛下があわよくば、と思っているみたい。」
「やっぱり、魔力が原因ですか?」
「リーナは、賢いね。…で、本人的にはどう思うの?」
「はっきりいうと、王族になるのは面倒です。しかし、将来的に次男ならば独立も?」
「そしたら、有りなの?」
「政略結婚と言われれば、有りです。」
「好きになる可能性は?」
「それは分かりません。アイザック様をよく知りませんから。」
「そりゃ、そうだよね。……リーナの方が大人だ。」
「中身は20代ですからね。」
「じゃあ、好みは変わらなそうかな。」
「特別なことが無ければ、たぶん。」
「好みの大人になれるように、頑張るらしいから教えてくれる?」
「リオン兄様は、私とアイザック様の事は賛成なのですか?」
「ザックは人間的に良い奴だし、身分も良い。でも、リーナの気持ちが大事だし、可愛い妹を任せるかは別。誠意を見せてもらわないと。」
「なるほど。…好みでしたよね?私は細い方より、筋肉がついている方がいいです。背も高い方が…。そして何より、誠実な方、嘘をつかない方を好みます。」
「分かった。答えてくれて、ありがとう。おやすみ。」
「おやすみなさい。」
リオン兄様は、部屋を出ていった。
「リーナ。楽しみね。」
「何が?」
「王子様が好みの男性になるのが!」
「今、言った通りになったら、リーナは王子と結婚するのか?」
「それは…。」
「それは、分からないわよねぇ。」
「ふーん。」
「きっと、時間が経ったらアイザック様の気も変わるわよ。素敵な人はたくさんいるもの。」
「そうかしら?」
「そうよ。」