夢の中20
「時に礼人、あなたは100mを何秒で走れますか?」
「えっ……そうですね、大体11秒前後ですよ」
「素晴らしい、部活をしていないにも関わらずにそれだけの速さで走れるのは中々いません」
「はぁ……」
唐突な質問に唐突過ぎる内容、何が言いたいのか分からず戸惑いの色を見せる礼人であったが、
「ちなみにご存じで?ノルマンディー上陸作戦、海岸から最初のドイツ軍の防衛拠点まで何百メートルとしか離れていないことを?」
「いえ……」
「ふふっ、普通はそうですよね。走れば一分も掛からない距離、なのにその距離を走破するのに何時間もの時間を費やし、数えるのが嫌になる程の人が死んだんです……たった数百メートルの長さのうちにです」
「……」
「あなたが今まで言って来たのは、私は百メートルの距離を平均以上に走れますと言ってきたに過ぎません。正直それはお門違いです。我々が求めていたのは戦場に置いて何が出来るかということ、あなた個人の能力が必要なのは当たり前ですが、その能力を戦場という場面においてどう役立てることが出来るかです……もちろん、どんな戦場においても百メートルの距離を11秒で走れますというのなら話は変わりますがね」
ここでアニーの体面を保つ訳では無いが別にアニーは礼人が憎い訳では無く、何なら一番礼人を気に掛けていると言えるのだが、礼人が霊能者として生きて行きたいと言ったその時からアニーは礼人にそれ相応の態度を取ることは伝えていた。
その証拠ではないが普段の生活でも礼人はアニーを兄弟子と慕い、自ら一緒にいることが多いくらいで、この二人だからこそこのようなやり取りが出来るとも言える。
「とは言っても、これは私の故郷の師匠がみんなに口酸っぱく言っていた事なんですがね」
「……それをなぜ今日?」
「百聞は一見に如かず、あなたなら聞いて肝に銘じるでしょうけど、聞いて覚えた事と実際に経験した事では雲泥の差が出ますから、あなたは今後この事を忘れないでしょう」
「はい、忘れません」
礼人の素直な態度にアニーは満足気にしながら、
「せっかくなので、今から新しい術を教えてあげましょう」
「それも今なんですか⁉」
「えぇ、折角なんで。もちろん無理は禁物ですが」




