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いつかのクライマー  作者: 大田区トロフィーモフ
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和解

「ヒーメちゃーん! おめでとーう、ゔっ!」

「痛っ、苦しいって……」

 みんなのもとへ戻ると、堀田先輩は加減も考えず、勢いよく三島さんに抱き着いた。

 幸い、堀田先輩は胸部に自前のエアバックを装備してるし、三島さんも無傷のようだ。

「わわ、わがままボディーは、犯罪……!」

 若干の精神的被害が、加藤先輩に出ているようだ。

「ほら女子三人、そんなにくっついてたら顔が写らないぞ。川内も撮ってやるから早く並べ」

「あ、早川君さっすがー。じゃあ、ヒメちゃんを真ん中にして……」

 一年生女子の優勝者で、実質男子も含んで今大会一位の三島さんのことを、手放しで喜ぶ浮かれモードのみんなの輪に俺も入った(できればどさくさにまぎれて抱き着きたかった!)。

 が、スマホを構える早川の遥か後ろ、体育館の隅にいる、白髪のオールバックの老人の存在がそれを許さなかった。

「よし、次は川内が撮れ……って、おい、無視するなよ! ……三島までどこに行くんだ?」

 悪い、早川。写真は後で撮ってやる。

 でもその前に、ケリをつけないといけないんだ。

「お久しぶりです」

「うん、今朝駅前で見かけた以来だね。それにしても、マイナースポーツとはいえ、ずいぶん不親切な会場だな。イスはないのか? イスくらい、体育館ならいくらでもあるだろうに」

 やっぱり、今朝三島さんを駅にアメ車で運んだハイカラ老人は、三島さんのおじいさんだったか。

 話の切り出しは、老人らしい会場への愚痴から始まった。

「おかげで一日中立たされたよ、予選、決勝、タイブレークの全部、ここで観ていたからな。君の登る姿も見ていたよ、ゼッケンが曲がっていた」

「ど、どうも」

 全部って、七時間近くかかったのに!

 さすが経営者、自分が三島さんに課題を出したからには、何時間立つことになろうが、結果は自分の目で責任を持って確かめていたのか。

 あと、俺の登りに関して素直に感想を言わないところが、三島さんとそっくりだ。

「それで、……おじいちゃんの目に、私はどう映ったの?」

 俺の背に隠れて恐る恐る、三島さんは最も聞きたくて、また最も聞きたくない返答を得るために、おじいさんの最終審判を仰いだ。

 これで、クライミングが続けられるかが決まるんだ。

 いや、審判を仰ぐだなんて下手に出る必要はない。

 三島さんはあれだけ登ったんだ、結果を出したんだ!

 さあ、さっさと答えろジジイ、……心の中ではいくらでも悪態ついてやる!

「川内君」

「ひゃー! ごめんなさい、ごめんなさい!」

「まだ何も言っていないじゃないか。……川内君、日女のことを、孫娘のことを、これからもどうかよろしく」

 そうぶっきらぼうに言うと、三島のおじいさんは俺に向かって手を差し出してきた。

 反射的に握手しちゃったけど、……これって、クライミングを続けることを認めてもらえたのか?

 まさかの、……ジジデレきちゃったのか!?

「クライミングという競技をよく知らないから、はっきり言って県大会で優勝することがすごいことなのか、孫娘に才能があるのかはわからない。だが、引っ込み思案で心の弱かった孫娘を、これだけの人前でも堂々と戦える人間にしてくれたんだ。私のつきつけた課題に、十分な結果を出したと言っていい。それにここにいる連中を見ると、私の時代のような汚くて人相の悪い、山賊じみた登山家もいないようだ。安心して孫娘を任せられそうだ」

 そう長々と述べて俺との握手を済ませると、今度は三島さんのほうへ手を差し出した。

「クライミングを続けることは許すが、無理しないように。日女も、頑固なおじいちゃんのことを許してくれるか?」

「ん」

 三島さんが、爪を短く切って指先の皮も固くなり、まだチョークの残っているクライマーの手を出すと、おじいさんはそれを受け入れるように肉厚の手で包み、和解の握手を交わした。


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