57 輝かしい未来へ
家族がノーリーを迎え入れないことがわかってから、20日が過ぎた。厄介事が片付いたものの、店は繁盛していたため、ティファリーは慌ただしい生活を送っていた。
その間も、ケインは足繁く店に通い、商品を購入したあとは、迷惑にならないよう長話をせずに帰っていくを繰り返していた。
そんなこともあり、恋愛には鈍いティファリーも、さすがにケインの気持ちに気づき始めていた。
(ポッポたちが繋いでくれた縁で、意識してくださっているのでしょう。ありがたいことですが、ポッポたちを助けるという行動は、多くの人がすることです。私を好いてくださる理由にはならない気がします。きっと、良い結婚相手が見つからないのでしょうね)
幼い頃から相手を決められている貴族には、恋や愛はあまり関係がない。だから、当時の想い人であるゲッティと上手くいったのは、ティファリーにとっては、とても幸せなことだった。
(結果的に破談にはなりましたが……)
よく晴れた日のティータイム。公爵邸の庭にある白いガゼボで、ティファリーは二羽と一緒にお茶を飲んでいた。
今日はケインがやって来る日である。宝石店に通うようになっただけでなく、十日に一度くらいのペースで何かと理由をつけてティファリーに会いに来るようになっていた。
「ホッホロー」
白い丸テーブルの上にシートを引き、そこで二羽は大人しくしている。二羽は昨日のうちに、兄と共に馬車でやって来ており、それからはずっとティファリーの側にいる。
二羽を愛でていた時、ティファリーはポポーポの姿に、何か違和感を覚えた。
「なんでしょう」
(お腹がポッポよりも少しだけ膨らんでいるような気がしますが、毛の量の関係でしょうか)
ぱっと見ただけではまったくわからない。しかし、ティファリーは二羽に変化があれば、なんとなくわかるようになっている。ティファリーは首を傾げ、ポポーポのお腹を凝視する。
ポポーポが居心地悪そうに動いたちょうどその時、ケインがメイドに連れられてティファリーの所へやってきた。
「約束の時間より少し遅れてしまった。申し訳ない」
「ごきげんよう。ケイン殿下。足を運んでいただけただけで光栄ですわ」
ティファリーは立ち上がってカーテシーをする。そして、ケインを向かいの席に座るように促した。
「「ホッホロー!」」
ケインの登場に二羽は嬉しそうにしているが、ポポーポはいつもより動きが鈍いように見える。
ケインが向かいに座ったところで、ティファリーは問いかけてみる。
「ケイン殿下、あの、ポポーポなんですが、今日はいつもより大人しいですね」
「……確定ではないんだが、卵を産む前かもしれない。鳩舎の担当者はそう言っていたよ」
「ええっ!? も、もしかして、ポッポとの子供ですか!?」
「そうだろうな」
ケインは何度も鳩の出産を見ているため、慌てているティファリーに落ち着いた様子で微笑む。
「ポポーポが子を産むのは初めてじゃないんだ。そこまで心配しなくていい」
「そうでしたか」
冷静に考えてみれば、いつもよりも長い期間、ティファリーのもとに二羽が顔を出さないこともあった。
「おめでとうございます、ポポーポ。それから、ポッポもですね」
「「ホッホロー」」
二羽の頭を指で撫でると、気持ちよさそうに目を細めて鳴いた。
(ポポーポたちの子でしたら、絶対に賢くて可愛い子なのでしょうね)
ティファリーは今から楽しみで仕方がなかった。頬が緩みっぱなしの彼女に、ケインが話しかける。
「ティファリーに話があるんだ」
「……何でしょうか」
ケインの緊張した面持ちを見て、ティファリーは居住まいを正す。近くに控えていた護衛やメイドたちも、気を遣って少しずつ二人から離れていった。
少しの沈黙のあと、ケインは重い口を開く。
「父上からは申し込む許可を得ている。ティファリー、俺の婚約者になってくれないか。急に返事は無理だろうから、まずは考えて」
「……お受けいたします」
少し躊躇いはしたものの、ティファリーは大きくうなずいた。
「え?」
まさかすぐに返事がもらえるとは思っていなかったようで、ケインは目を丸くした。ティファリーは座ったまま、深々と頭を下げる。
「私などでよろしければ、よろしくお願いいたします」
「ティファリーじゃなきゃ駄目なんだ」
立ち上がって叫んだケインを見つめ、ティファリーは微笑む。
(正直にいえば、本当はもう恋愛なんてしたくありません。また、傷つくようなことになるのは嫌です)
そう考えながらも、ケインがゲッティのようなことをするわけがない。
ティファリーは、ケインに対する自分の胸の高鳴りを素直に認めることにした。
「で、では、婚約の手続きをしなければなりませんね。あ、あの、確認していませんでしたが、宝石店は引き続き経営してもいいでしょうか?」
「もちろんだ」
嬉しそうな表情のケインを見て、ポッポたちも「「ホッホロー!」」とご機嫌そうに鳴く。
ポポーポたちの子や、これからの自分たちの未来を考えると、ティファリーの胸は希望に満ち溢れた。
(さあ、私の人生はこれからです!)
婚約の話を進めるため、ティファリーとケインは、縁を結んでくれた恩人――ではなく、恩鳥のポッポとポポーポを連れて、ティファリーの両親のもとへ向かうことにした。
読んでいただき、本当にありがとうございました!
このお話で第一部完結となります。
第二部の開始は他作品の完結後を予定しております。
そして、ありがたいことに、こちらの作品の書籍化が決定いたしました!
読んでくださった皆さまのおかげです。
本当にありがとうございます!
引き続き頑張ってまいりますので、何卒、よろしくお願いいたします。




