37 元婚約者の人生の転落 ②
拙作をお読みいただき、ありがとうございます!
話が短くなりすぎてしまうので視点変更分と合わせて載せさせていただきます。
『******』以降はゲッティ視点となりますので、よろしくお願いいたします。
それから2日後、ティファリーは王城の応接室でケインと話をしていた。
白で統一された室内は、掃除が行き届いており、白いテーブルは光に反射してキラキラ輝いて見える。ティファリーたちの前に置かれているティーカップなども有名な陶芸家が作ったもので、愛好家からは値段がつけられないほど貴重だと言われている。
陶芸家がソーサーと共に王家に寄贈したことは有名な話である。ティファリーは、万が一カップを落とすことがないよう注意しながらお茶を飲んだ。
(良い茶葉なのでしょうけれど、カップに気を取られてあまり味がわかりません)
「女性たちはゲッティの何がそんなにいいんだろうか」
そんなティファリーの考えなど知らず、足を組み、ソファにもたれかかりながらケインは言った。
「……そうですね。ゲッティのことを可哀想だと思い、私が守ってあげなければと考える女性が少なからずいるようです」
誰を好きになるかは個人の勝手である。理解ができないからと、その人の考えを否定することも勝手だが、相手を不快にさせたり傷つけていいわけではない。
ティファリーは言葉を選んで答えた。
ケインは納得がいかない様子で眉をひそめる。
「不幸になるのが目に見えているような気がするが……」
「私もそう思いますが、どんな状況であっても、その人と一緒にいるだけで幸せだと感じる方もいらっしゃるようです」
「傷つけられたり、苦労をかけられるとわかっていても、彼がいいと思えるんだろうか」
「人と動物を一緒にするなと言われそうですが、たとえ話をしてもいいでしょうか」
「もちろんだ」
ケインが頷いたのを確認し、ティファリーは話し始める。
「ポッポたちの世話は大変です。ですから、私たちはポッポたちの世話は使用人たちに任せています。ですが、ポッポたちを世話する人がいなくなれば、私自身で何とかしようとするでしょう。そして、それを時に苦に思うことはあっても放棄することはないかと思うんです」
「君の姉はいつでも世話係を放棄するが、君ならしないと言いたいのか?」
「はい。それと同じで嫌なことがあるとわかっていても、離れられないし離れたくないという気持ちが生まれるのかと……」
うまく説明できないことをティファリーが詫びると、ケインは頭を振った。
「気にするな。言いたいことはわかる。……で、君が俺にお願いしたいこととは何なんだ?」
今日、ティファリーがここに来たのは、ケインに相談したいことがあったからだった。ティファリーがゲッティの件で頼みたいことを伝えると、ケインは少し考えたものの承諾してくれた。
「本当に気持ちに区切りをつけられるんだろうか」
「どちらに転ぶかはわかりませんが、できると思っています。彼女たちに彼との思い出を作ってもらい、まだ彼を思い続けるのか、もしくは彼への愛は冷めるのか。判断してもらいたいのです」
ゲッティを思い続けている女性たちには、すでに許可を取っていた。ティファリーの作戦はケインから国王に報告され、その後承認された。
そして五日後、ゲッティは女性たちと共に王城を訪ねてきたのだった。
******
ゲッティは話し合いの結果、五人の女性を内縁の妻にして、一緒に暮らすことに決めた。そんな時にイトメニア公爵家から名誉棄損の罰として、王城で働くように指示された。
王都に行くと伝えると、内縁の妻たちは自分たちも一緒に行くと訴えたため連れてきた。
(モテる男というのは困るな。一番じゃなくても側にいたいなんて、可愛いことを言ってくれるよ。ティファリーも同じような考え方をしてくれれば良かったのに)
王城にやって来た時のゲッティは、反省している様子など一切なかった。家族や女性たちに甘やかされたことで数日のうちに体調は戻り、健康体になっていたから余計にである。
王城での仕事など簡単。もしくは、付いてきてくれた女性たちの誰かにやらせればいいと思っていた。
だが、実際の仕事は彼が考えていたことと、まったく違っていた。彼の仕事場は王城のすぐ近くにある鳩舎だったからだ。
「「ホッホロー!」」
ゲッティが鳩舎に入るなり、ポッポとポポーポが反応した。
人間ではわからないやり方でポッポたちは他の鳩たちとコミュニケーションを取り『こいつは駄目な奴だ』と伝え始める。
そんなことを知らない鳩の世話係の責任者が、ゲッティたちに仕事の説明を始めた。
「ここにいる鳩たちは、王族の方や高位貴族の方が大事にしている伝書鳩の鳩舎になります。たまに、他国から飛んできた伝書鳩が休憩のために利用することもあります。どの鳩も大事にお世話してあげてください。何かあれば首が飛ぶと思っていただければと思います」
中年の責任者の女性は満面の笑みを浮かべたまま、とんでもない発言をした。
「いや、そんな、まさか。鳩ごときで首が飛ぶわけないだろう」
ゲッティが鼻で笑うと、責任者はうんうんと頷く。
「そうですね。そう思いますか。でしたら、試してみてはいかがでしょう。と、ティファリー様からの伝言です」
「ティファリーから? まだ彼女は僕のことが好きなのか」
ゲッティがにやりと笑った。すると、厩舎の入り口に立っていた彼の頭にポッポがとまった。
そして、ゲッティが何か言う前に、温かいものを頭に落とした。
「う、うわ、なんだ!? 生温かい何かが頭に!」
慌ててゲッティはポッポを追い払ったが、代わりにポポーポが飛んできた。必死に追い払おうとする彼の手に温かいものをお尻から投下する。
「や、や、やめろ!」
それだけでは済まなかった。仲間の鳩たちは、ゲッティを庇おうとする女性たちには何もせず、ひたすらゲッティにだけフンを落とした。
それを見た責任者が苦笑する。
「鳩にはフンをする、しないのコントロールはできないんですが、うちの鳩たちは一定の人を見るとフンをしたくなる体質のようです」
「そんな、バカな!」
叫ぶゲッティに女性の一人が眉根を寄せて尋ねる。
「ゲッティ、あなた、鳩に何か恨まれるようなことでもしたの?」
「知らないよ!」
まったく見当がつかず、ゲッティはフンで汚れた手を見つめて叫んだ。
罰はこれで終わったはず。そう安易に考えていたゲッティだったが、そんなはずはなかった。
しかし、ティファリーが考えた罰が、これだけで終わるはずがなかった。




