4話 野盗襲撃
王都と街の中間地点くらいまで来た。
遠くに10人くらいの、つぎはぎだらけで、泥だらけで汚く、ろくに手入れもされない鎧を着込んだ男たちが道を塞いでいた。
道の脇の森の中には弓を引く気配もあった。
「いいところの貴族の馬車のくせに、護衛をケチったのか?」
男たちがゲラゲラと品がなく笑う。
馬車を止めたアンダーソンは
「リズベット様、少々時間をください。道に石ころがあって馬車の走行ができません」
と伝えて、片手に剣を持って野盗に駆け出した。
「リズベット様、聖女様をお貸ししていただけませんか?」
エリーの人形使いのスキルは、戦闘にも使える。
「未婚の生娘だから、傷はつけないでね」
私の声を聞いて、エリーは魔力を聖女の死体に通す。
エリーは細かく、そして素早く指を動かすと、聖女は飛び上がるように立ち上がり、馬車の扉を開ける。
飛んできた矢を払い、森の中へ白い影が滑り込んだ。
「せ、聖女様!?」
森の中でそんな声が上がる。
やはり、聖女アンジェリーナは有名だ。
「聖女様からエロい匂いが! へぶし!」
言い終える前に、拳が顔面にめり込む。
ナイス聖女パンチ。
弓を持った野盗が恍惚した顔のまま倒れていた。
そのエロい匂いは、アンダーソンとエリーの私物、2種類のガチホモエロ本の付録『官能的な香りのするしおり』の混じり合った匂いだろう。
しっかり、聖女の死体は燻されたようだ。
きっと、私も同じ匂いがするんだろうなと思うと、少し悲しくなった。
次々と、アンダーソンは野盗を切りつけ、叩きつけ、無力化していく。そこに、無表情な聖女が踊るように舞いながら拳や足を振るう。斬撃と、打撃と、骨の折れる音。
あらかた片付けた後、私は生きている野盗を縛って地面に転がした。
とりあえず一息ついた、と思うと、人影が近づいてきた。そこで私は顔を上げた。
聖女アンジェリーナ……の死体である。
両腕の肘関節が反対方向に曲がり、肩関節も外れて、壊れたマリオネットみたいな感じに立っていた。
「ごめんなさい……ちょっと強く殴りすぎちゃったみたいで……」
エリーは申し訳なさそうに私に謝るけれどさ、私じゃなくて聖女に謝りなよ、マジで!
こんな感じの体で生き返されたら、痛みで発狂しかねないよ。
「それなら大丈夫です。私が治しましょう」
アンダーソンが近づき、聖女の肘を掴んだ。
あれ、アンダーソンは回復魔法使えたかな?
ごきりと音が響く。
「はまりました。次は反対側の肘ですね」
それ、絶対痛いやつじゃん!
アンジェリーナ、あんた、今死んでいて正解だよ!
私は遠い目をしながら、アンダーソンの力技で直されていく聖女を見守るしか出来なかった。
聖女を直したアンダーソンは不意に声を上げた。
「そういえば、この者たちの処遇はどうしますか?」
縛られた野盗たちが一斉にこちらを見る。
困ったなぁ……。
命乞いされながら殺して捨て置く? 後味が悪い。
連れて行って街の衛兵に引き渡す? 報労金で旅費は潤うけど、すごく面倒。
首を切り取って持っていく? 報労金はもらえるけれど……馬車の中は聖女の死体だけでお腹いっぱい胸いっぱいだよ。
私は考えた末に、部下に選択する責任を投げ捨てることにした。
「アンダーソン、この者たちを好きにしてよろしくってよ」
アンダーソンが選択した後の責任は私が取る。私は選べなかったのだから。
すると、アンダーソンは眉間にシワを寄せた。流石にアンダーソンも嫌がるか……。
「リズベット様……」
「なにかしら?」
「いくら私が男好きとはいえ、なんでもかんでもつまみ食いはいたしません」
野盗たちが一斉に青ざめた。
「私にだって、選ぶ権利があります」
「選ぶな」
そういう性的搾取の選択をそそのかす指示をしたのではない。
「強いて言うならば、あの子とそっちの子はしっかりと体を洗えば……」
視線のあった野盗は、ヒィっ、と震え上がった。
「だから、選ぶな」
私は即答し、チラリとエリーの方を見る。
両手を真っ赤にした頬に当てて腰をくねらしていた。
お前らの頭ん中、揃いも揃って、脳みそよりもピンク色だな!
私は深くため息を吐いた。
「あなたたちはこれから街の衛兵に引き渡します」
野盗の面々は私の方に向く。
「わかっているとは思うが、何か良からぬことを考えたなら、このホモ騎士がお前らのケツを容赦なく掘るからな」
絶対にやらかさない、そう心の声が聞こえるほど青ざめた野盗たちが、首を縦に何度も振った。
そんなこんなな出来事がありながら、もう間もなく、最果て修道院へ辿り着く。
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