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5.王家の諜報部隊

 見舞いの後、アマーリエの部屋を出たジークフリートは、勝手知ったる様子でオルデンブルク公爵ルートヴィヒの執務室へ向かった。ノックをして扉を開けると、ルートヴィヒは口では歓待していても迷惑そうな表情を隠さなかった。


「いらっしゃいませ、殿下」

「『いらっしゃいませ』と言う割には渋い顔だな」

「なぜかお分かりでしょう」


 ルートヴィヒは大きなため息をついた。


 ジークフリートはアマーリエの見舞いに来ると、ルートヴィヒに必ず会って同じ願い事をする。その日も人払いをしてルートヴィヒと話し合っていたが、ルートヴィヒは頑として首を縦に振らなかった。


「私を諜報部隊の一員にしてくれないか。いや、して下さい」

「口調を変えても私は懐柔されません。殿下もご存知でしょう。王室の方々は諜報員にはなれません」

「王家の者が諜報員として働けないという明確な規則があるわけではないだろう?」

「そうだとしても殿下は陛下の唯一の王子。ご存知のように諜報部隊には危険な任務もありますし、ターゲットと《《親しくなって》》情報収集することもあります」

「ぐっ……私だって閨教育はもう受けた」

「王家の血をばら撒くようなことがあれば、後々争いになります。それに私もいくら任務だとしても、父として娘の夫となる殿下に他の女性と関係を持つように勧めたくはありません」

「公爵は仕事に私情を挟まないと思っていたが、そうでもないのだな。私だって妻となるアマーリエ以外の女性と関係を積極的に持ちたいわけではない。その辺はうまくやって最後までやらないようにするよ」

「そうもうまくいかないのが現実です」

「そうだとしても避妊は徹底するし、アマーリエと父上達には絶対に内緒にする」

「私どもは王家の諜報部隊です。国王陛下の意思の下に動いております。国王陛下が反対することをわかっていて殿下をこっそり隊員にするわけには参りません」


 オルデンブルク公爵家は代々王家の諜報部隊を率いている。アマーリエの4歳上の兄フィリップは、今年から有力貴族子弟の在籍する寄宿学校に入学し、学業の傍ら生徒達を監視している。入学前には諜報部員として一通りの訓練を終えた。


 アマーリエは訓練を始める前に王太子の婚約者となったので、婚約解消しない限り、諜報員になる予定はない。王室メンバーは諜報員として働かないという不文律があるからだ。


 ジークフリートは、これが最後の願いと決意してルートヴィヒを見た。


「私が父上にも内密で諜報員として活動したい理由は分かるだろう?」

「はい、重々承知しております」

「それならなぜ!? 母上、いや、あの女が王宮に引き込んだ愛人の侍従達は、こうしている間にも、過激な革命派の勢力を大きくしているんだ!」

「お気持ちは分かりますが、どうか我々を信じて任せていただけませんか?」


 ヘルミネはもう何年も前に旅先で出会った美青年アンドレ・ド・ロレーヌに感化されてジークフリートの家庭教師として自由主義信奉者を送り込むばかりか、侍従としてもアンドレを雇った。


 幼かったジークフリートは当初、彼らの思想に簡単に共感させられたが、自身の侍従になったルプレヒトのおかげで目が覚め、やがて彼らは隣国の革命派に繋がっているのではないかと疑うようになった。もちろん彼らの動向はオルデンブルク公爵家も追っているが、ヘルミネの侍従は既に王宮内に革命派の網を張り巡らしているだろう。ジークフリートは王宮内部から彼らを探るには自分が最も適していると自負している。


 ヘルミネが王国に危険な思想や人間を持ち込んでも、フレデリックは惚れた弱みでヘルミネに強く出られない。ヘルミネの天敵の王太后ドロテアは、最近健康を害しつつあり、昔のようにヘルミネの行状に睨みを利かせられなくなってきている。


「どうしても駄目か?」

「殿下を危険にさらすわけには参りません。どうかご容赦を」


 頭を下げたルートヴィヒのつむじをじっと見てジークフリートは最後の言葉を絞り出した。


「そうか。残念だな。では自分なりの方法で隠密行動をすることにするよ」

「殿下!」


 ジークフリートはルートヴィヒの呼び止めも無視して公爵家を辞した。彼は自分なりに革命派を探ろうと決意していた。

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