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3.イケメンは中身もイケメンだった

 侍従が来訪を告げた高貴な人物――ジークフリート・フォン・アレンスブルク――が部屋に入って来たのを見て、アメリー=アマーリエは衝撃のあまりフリーズした。


 よく知られている写真や肖像画よりも目の前の彼は若く、まだ少年と言っていい。それも相当の美少年だ。髪は淡いプラチナブロンドで瞳は南の島の海のように透き通るエメラルドグリーン。白磁のように滑らかな肌の頬は、急いで来たせいか、少し上気していて色気がすごい。


 アメリー=アマーリエの目の前にいる人物は、名前と顔からはどう考えても、あの悲劇の王太子ジークフリートのようだ。でも本当に本物なのか、彼女は目を疑い、フリーズしてしまった。


「……リエ、気分はどう?」

「……」

「アマーリエ、殿下にお答えしなさい!」


 ルートヴィヒに雷を落とされ、アメリー=アマーリエはビクッとして正気に戻った。その途端、麗しい尊顔がすぐ目の前にあるのに気付いて思考が停止した。


(ハァ……かっこよすぎる!! もう無理!)


「公爵、そんなに厳しく言わないでやってくれ。アマーリエは大怪我をして意識が回復したばかりなんだ」

「ですが、こんな不敬は……」

「僕がいいって言ったらいいんだ。分かったね?」

「か、かしこまりました。申し訳ありません!」


 アメリー=アマーリエを責め立てるルートヴィヒには厳しい顔を向けたジークフリートだったが、彼女にはすぐに元の優しい表情に戻って話しかけてくれた。


「アマーリエ、聞いたよ。記憶が混乱してるんだってね。ごめんね……僕が支えきれなかったばかりに……」


 ジークフリートは悲しそうにアメリー=アマーリエの手をそっと取った。イケメンの顔の威力はすさまじく、少しずつ戻ってきた彼女の頭の中がまた無に戻った。


「な、何をおっしゃいますか! 殿下がご無事で何よりです! 幸い、娘は頭に瘤と右腕骨折と足首ねん挫とちょっと全身に青あざができたくらいで顔には傷はありませんし、記憶はこれからどうとでもなります!――な、アマーリエ?」


(え?! 全然『ちょっと』じゃない!)


「貴方、意識を取り戻した娘にいくら何でもそんな言い方は……」

「殿下のご前だぞ。やめなさい――殿下、うちの妻が申し訳ありません」


 せっかく必死にジークフリートに言い訳したのに、ルードヴィヒは妻に窘められて明らかに気を悪くしていた。すぐにジークフリートの方を向いて愛想笑いをしたが、ジークフリートは眉をひそめて険しい顔をルードヴィヒに向けた。でもどんな表情でも美男子は格好良い。


「オルデンブルク公爵、夫人の言うことはもっともだ。それだけ列挙できれば重傷だろう? それにさっきからきちんとアマーリエの様子を見ていれば、彼女が混乱して私達の言うことにあまり反応できていないのが分からないか?」

「で、殿下、申し訳ありません!」

「分かってくれたのなら、いいんだ。――アマーリエ、騒いでごめんね。君の顔を見たら、ホッとしたよ。すぐに出て行って静かにするからね」


 アメリー=アマーリエは、ジークフリートの思いやりに感激した。


「ありがとうございます。うるさいなんてとんでもありません。殿下にいらしていただいて本当に嬉しいです」

「僕達は婚約者同士だろう? そんなかしこまったしゃべり方をしなくてもいいんだよ。怪我の混乱で忘れちゃったのかな? いつもみたいにジークって呼んで」

「は、はい。ジーク、ありがとう……」

「うん、そう、その調子だよ」


 ジークフリートは、アマーリエ=アメリーに『ジーク』と呼ばれて破顔し、彼女の頭を撫でてくれた。その威力はダイナマイト並みで彼女はまた気が遠くなりそうだった。


 本来わずか10歳で亡くなったはずのアマーリエ・フォン・オルデンブルクについての記録は、アレンスブルク王国史オタクのアメリーの知る限りでも、わずかしか残されていない。


 後に隣国のソヌスに巻き込まれた政変でアレンスブルク王国の貴族家の文書の大半が失われたせいもあるだろう。それどころか王室の記録すら多くが失われた。ジークフリートの写真や肖像画が後世に残ったのは幸運とすら言えた。ましてや落馬事故では王太子に怪我がなく、結局王太子妃になれずに子供の時に亡くなった元婚約者のことなど重要ではなかったらしく、詳しい記録は後世に残されなかった。


 ジークフリートやアマーリエの両親の話を総合すると、事故の経緯が大体分かってきた。アマーリエはまだ子供だったため、1人で乗馬できず、ジークフリートの馬に彼と同乗した。だが馬が突然暴れだし、ジークフリートはアマーリエを支えきれず、アマーリエだけが落馬した。


 ()()のアマーリエは落馬事故で亡くなったのにどうして()()のアマーリエは助かったのだろうか。新生アマーリエは不思議に思った。


「ゆっくり休んでしっかり治してね」


 アマーリエ=アメリーがそんなことを考えているうちに、ジークフリートはそう言って彼女の頭をもう1度撫でて部屋を出て行った。


 思ったよりもいい人なんだとアマーリエ=アメリーは驚くとともに心配してもらって胸が温かくなった。

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